036: 火酒(ウォッカ)

あの頃。
ウォッカに氷を入れて飲むことが時々あった。
ソ連のもの、国のもの。
重たいものを食べた後。重たい思いを抱えている時。
後者の場合、彼女は表情を捉えて、さりげなく近づき
くちづけを寄こす。
唇に残る強いアルコールの刺激に顔をしかめて、
ふざけて飛びのいてみせるその身体を抱き寄せ唇をふさぎ、
口に含んだ氷を彼女に渡す。
悲鳴を上げることもできずに困った顔で、ピリッとした冷たい氷を
含んだ頬はカーッと赤く染まる。
それが可愛くて、そのまま彼女を抱きしめベッドへ運ぶ。
唇は冷たくて、でも、喉も身体も熱かった夜。
今俺は、ウォッカに氷を入れることはない。

(2004年7月8日)


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