025:暴風雨


人がひとりの人を愛する。
それにはいくつかのかたちが存在する。
心の愛。思いやり、慈しみ、いとおしむ愛。
そして身体の愛。心から発し、時に心の自由を奪い吸い尽くす愛。

彼女を思い出す。
優しい瞳、いとおしい仕草、料理の味。
自分に向けられた愛の言葉、優しい仕草。
全てが自分の細胞の一つ一つにまで染み込んで、一日たりと忘れたことはない。
彼女は常に共にある、そう思う。
けれど、身体の愛は。

夕方からの嵐がやまない。
男は一人ベッドにいる。
忘れ去り押しやることの出来ない寂寞が身体の深奥から男を責める。
金の関係で女の身体に包まれても決して満たされることのない飢え。
それが今夜窓をがたつかせ街路樹の枝を揺する風と共に男の身体を苛んだ。

欲しい、彼女が。
他の誰でもない。彼女が欲しい。
このひとりのベッドの冷たさが責め立てる。
あの暖かな乳房が欲しい。
豊かな両足に包まれたい。
自らの頑なな意思に反して、男の愛欲の中心が屹立する。
あのぬくもりが、湿り気が欲しいといって震え出す。

彼女はもういないのだ、この世から、自分の傍から消してしまったのは
この自分なのだと何度言い聞かせても、この熱は聞き訳がない。

吹き付ける風ががたがたと窓をゆする。
数々の夜のベッドの軋みのように。
風が歌う。
あの闇の中の彼女の声のように。

許してくれ。
こんなにもお前を欲しがる俺を許してくれ。

男は堪え切れない熱を帯びて全身に電流を走らせる愛欲の塊を
その鋼鉄の掌に包んで、責め苛むようにそれを始めた。

外は嵐。
男の中にも嵐が吹き荒んだ。
お前の名前を呼びはすまい、汚れるのはこのシーツだけでいい。

…全てが終わったとき、窓が開き雨が吹き込んで、男の両の頬を濡らした。

                               (2004年8月17日)


inspired by "Feel the Fire" in "Soul Music Lover's Only" by Amy Yamada


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