031:向日葵
みすぼらしいレストランのみすぼらしいテーブルにみすぼらしい白いビニールの
レースで出来たテーブルクロスがかけてあり、壁際に小さなガラスの花瓶が置いてあった。
壁のフックに掛けたコートに隠された黄色い花弁は必死で顔を出そうとしている。
向かいに座った彼女が、まだ寒さの凍えに硬くなった指先で、うっすらと埃の色をした
それを丁寧に咲かせてやった。
南国の黄色い花。もちろん、造花だ。
小ぶりにつくられて埃を吸ったそれを見ながら、彼女が小さくため息のようにつぶやいた。
「いつか、一面に咲く向日葵を見てみたいわ。」
そしていっしゅんすくむようにそっと辺りを見回した。
「………。」
ぼくは答えずに、灰色のコートの隙間から窮屈そうに咲いている薄汚れた小さな作り物の花を見た。
この花はぼくたちの姿だ。
身をすくめて、作られた思想と権力に追い詰められて必死で生きている。
本当は太陽の下で大きく咲いて、鮮やかな黄色がまぶしいほどだというのに。
大きな瞳をじっと見据えながらぼくは一言だけ呟いた。
「いつか、きっと見せてあげるよ。」
彼女はただ目を見開いて驚いたような顔をしただけだった。
今はまだ分からなくてもいい。
ぼくの胸の中にも、種から目覚めた何かがつぼみをつけたような気がした。