067:七分袖

 

 ヒルダと会うのは2週間ぶりだ。

 この日々の間に、季節は春から初夏へと移ろおうとしている。

 彼女は、七部袖の薄いセーターを着ていた。淡いペリドットグリーンが、彼女の白い顔を青白く見せ、大きな瞳の下にうっすらと隈が出来ているのが分かる。

 「この頃、あまりよく眠れないの。」

 その言葉に胸が痛む。

 ハインリヒは黙っていた。彼女の心を明るくするような言葉は、見つけることができない。

 俯きがちに隣を歩くヒルダの形の良い額の上で、栗色の前髪が風にあおられて踊る。その髪を払おうとして、彼女は右手を上げた。

 袖から、細い手首がのぞく。白い膚に、青い血管が透けて見える。それがあまりにはかなく見えて、怖くなる。

 

 …君のその手も、膚も、髪も、瞳も、僕がすべて守るから。

 

 言葉にすることも出来ずに、ハインリヒは彼女の手を取ると、手首の細い血管に薄い唇を当てた。

 

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