064:
留守番電話
あたしは嘘をついた。
男からの、多分最後の電話に出なかった。
それだけのこと。
電話機のベルは5度鳴り、そして6度目が鳴ろうとするところで
自動音声が流れ始めた。
相手はほんの暫く沈黙し、そして電話はぷつりと切れた。
こんなとき、あたしを責める男が、女が、いるかしら。
多分、居はしないだろう。
あたしは戸棚から磨いておいたグラスを取り出し、氷をからりと入れると
その上からウォッカを注いだ。
さよなら。
再生した音のないテープから、あの男の遠い声が聞こえたような気がした。
百のお題へ