005: 悪夢

快晴の日。祭壇の前。
僕の隣には純白のドレスに身を包んだ彼女がいる。

頬を高潮させて、いささか緊張の面持ちで。
僕は目を閉じ、彼女に口付ける。
すると、唇に当たるのは柔らかな丸みではなく、硬く冷たい何か。
びくっとして僕は目を開ける。
ヴェールを被った髑髏が洞穴のような目で僕を見つめている。
掴んでいたはずの彼女の両腕が細くがくりと崩れ、白い
ドレスの上に髑髏が
ごろりと転がる。

バラバラになった彼女の骨を僕は蜂につつかれたように慌てて集めて
ドレスに包み大事に
抱える。
怖くはない。ただ涙が溢れてくる。
僕の腕の中に包まれて彼女は洞穴の目で僕を見つめ、同じように涙を流す。
そこで僕は熱い鉄の雨が身体中を貫いて降ってきたような痛みで気を失う。
君が受けたのとと同じ痛み。
彼女の悲鳴と僕の悲鳴がふたりの永遠の愛の誓い。
そのまま僕は気を失う。

気付くと僕は真っ白な部屋にいて、無数の計器や手術着の男たちに囲まれ
数え切れない管につながれてまるで受難のキリストのように手術台に縛られている。
メスで身体のあらゆる部分を切り開かれる。胸も、腕も、脚も体中を。
昔科学の時間に見た解剖図のように僕は神経の筋を露出させられ顔の皮膚さえ
剥がされて、僕の姿ではなくなっている。僕の身体はどこまでも切り刻まれる。
これは受難じゃない、僕はきっと罰を受けているのだ…ならばもっと、もっと。
僕の白い骨は切られ抜きとられて代わりにつめたい金属が仕込まれていく。

ああ、身体がない。彼女と同じように僕はほらあなの目から涙を流す。
でも僕は少し嬉しくて唇もないのに笑う、彼女と同じ、同じだから。
僕の骨も身体も血もいらないのならどうかあの場所に捨てて欲しい。
光に包まれたあの祭壇の前に。

そこで僕らは洞穴の目で見詰めあって無い唇で笑いあう。
彼女の血も肉も骨も僕のそれらもバラバラになりふたり交じり合って土になっている。
なんて幸せな悪夢。
ああ神よ願わくば、もし目醒めるのなら快晴の朝に、
あのドレスのような純白のベッドの中で……
浅い眠りの中、ささやかな願いを神よ、叶えたまえ。

                                    (2004年6月17日)


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