032:触媒 「ヒルダ」 男が私を呼ぶ。 彼は私のブラウスに手をかけると、丁寧にボタンをはずす。そして顕になった下着を、今度は荒々しく剥ぎ取ると、喉元から首筋を丁寧に口唇でなぞる。それがやがて乳房に達すると、抑えきれぬかのような激しさで吸って、熱い舌でくるおしく愛撫する。揉みしだかれるもう一方の乳房も熱くなり、私は思わず身悶える。 全身をくまなくなぞったあと、ついに彼は私の両足を開いて、男の熱を注ぎ込んでくる。何度も、何度も繰り返し突き上げる。荒々しく波の寄せるように。 耳元に彼のくぐもった声が響く。 「ヒルダ」 その名前に高ぶるように、彼のものが私の中で力を増す。痛みを伴うほどの情交。湿った粘膜と熱い塊とが擦れあい、絡み合う苦しさに私は絶え間なく声を上げ続ける。 彼がまた呼ぶ。 「ヒルダ、ヒルダ……」 そう。 私ではない。 ここにあるのはただ、女の身体に過ぎない。 認めたのは私。こうするように仕向けたのは私。こうなるまで、随分時間がかかった。 こんなにも二人の身体は熱いのに。 私の心を満たすのは、ただ冷たい悲しみだけ。 |