街外れの公園での待ち合わせ。
君はいつも時間通りだね。
あなただって、いつも私より早いじゃない。
たまには言ってみたいわ、遅かったじゃないのって。
君がころころと笑う。
夕日が差して君の横顔を照らす。
大きな碧の瞳が透明に光る。
桜色の唇がうるんでいる。
僕は君にくちづける。
君は僕の身体に腕を回して微笑みを向ける。
僕らは二人で暮らす部屋へ向かう。
君が話す他愛ない今日の出来事。
美しくくぐもった君の声に僕はうっとりする。
僕も君にささいな出来事を話す。
どんな話でも君はじっと聴き入ってくれる。
そんなふたりの食事が終わる。
君がコンロにかけたやかんがシュウシュウと音を立てる。
この国の粗末なコーヒーでも、君が淹れてくれるとおいしいよ。
窓の外に灯りがともり、薄暗いこの部屋の中、
君の柔らかい輪郭が暖かく浮かび上がる。
僕は君にまた口づける。
君は碧の目で僕をみつめ、
そして二人は愛しあう。
朝の君の寝ぼけまなこ。
栗色の短い髪の寝癖。
シーツにくるまれた身体の線。
昨夜の君を思い出して、僕は君をまた抱きしめる。
「遅れるわ。」君に言われて僕はしぶしぶ服を着る。
やかんの音。コーヒーの香り。
いつものように二人は部屋を出て行く。
またあの公園で、ね。
………
知らなかった、知らなかった、
気付かなかった、分からなかったんだ。
僕は思ってもみなかったんだよ、うかつにも
それら全てが
この手のひらから滑り落ちて壊れてしまう
世界にたったひとつの
このうえなく美しい、硝子細工だったということを。