貧困と無知に対するたたかい



岩本町への通勤電車の中、

山本周五郎の赤ひげを読んでいました。

毎日毎日、読むのが楽しみでたまりませんでした。

 

舞台は丁度、私が月、火、水働いている、神田です。

神田界隈は、あまり道も地名も変わっていません。

まるで自分が新出去定先生に仕える保本登になった気分でした。

 

この小説はもう、随分前のものですが、

今でもまったく、色あせていません。

色あせてないどころか、今の医療界や世界政治が、

本当に見習わなければいけない哲学が盛り込まれています。

 

赤ひげ先生はこうおっしゃています。

「現在われわれにできることで、まずやらなければいけないことは、

貧困と無知に対するたたかいだ。

 かつて政治が貧困や無知に対してなにかしたことがあるか、

貧困だけに限ってもいい、

江戸幕府このかたでさえ幾千百となく法令が出た、

 しかしその中に、人間を貧困のままにして置いてはならない、

という箇条が一度でも示された例があるか。

 貧困と無知さえなんとかできれば、病気の大半はおこらずに済むんだ。」

 

本当に私もそう思っています。

鍼は保険が使えます。しかしほとんどの鍼灸師が使いません。

それは、保険では生活できないからです。

1分治療しても、2時間治療しても国から支払われる額は1000円ちょっとです。

それでは鍼灸師が生活できません。

また保険は、腰痛肩こりなど、決まった疾患にしか使えません。

鍼の効果がある難病治療には使えないのです。

挙句の果てに、使うには医者の診断と同意書が必要なのです。

 

10分そこそこの治療で、患者さんはよくなるはずがありません。

ですから1100円の相場で、みんな治療しているのです。

しかし、それでは毎週通えない患者さんも沢山います。

毎週どころか、一度も通えない患者さんも沢山います。

 

それに私は頭を悩ませます。

難病で悩んでいる人が、まず鍼灸という治療法を知らないこと。

そしてその治療法を国が、医師会が広めないように、していること。

鍼治療は、いわゆる金持ちの医療と言われていること。

本当に必要な人々が、治療を受けれないこと。

 

私は頭を悩ませます。

いったい、自分のしていることは何なんだろうかと。

お金を払えない人は見殺しで、

払える人だけを治療する傲慢な人間なのかと。

 

日々、そのことを考え、

今日も、往診に向っています



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