治療のこころ

 「相手の旅情を敬う」。この言葉は私の尊敬する医師、帯津三敬病院名誉院長・帯津良一先生からいただいたお言葉です。治療において、この気持ちはとても大事なことです。

 患者さんは一人一人、別々の人生を歩んでこられています。たとえ、腰痛ひとつにいたしましても、それぞれ通ってこられた別々の人生の旅の結果の一つです。ですから、腰痛を腰痛とだけ考え、患者さんを壊れた機械の修理のように考えては、決して患者さんは良くなりません。患者さんが歩んでこられた、人生の旅情を敬った時に、その患者さんひとりひとりに合った治療法が見つかり、お身体が良くなっていきます。

 

 患者さんの体を触った瞬間に、「あぁ」と大きなため息を出してしまう時があります。それは、「なんて、硬い体をしているのだろう。よっぽど、気をたくさん遣って、働いてこられた方なんだろう。」という思いが、瞬間に頭を過るからです。また、不思議とその瞬間に、その人の性格や、歩んでこられた人生が、ブワッと頭に描かれることもあります。

 

 しかし、そこでその患者さんを、治そう治そうという気持ちが強すぎると、逆に治らないことが多いものです。病気というものは、そう簡単なものではありません。その患者さんに対して、治療家の自分が素直になり、感謝の気持ち、慈しむ気持ちを持った時に初めて、患者さんの治療がうまくいくものです。治療は真心、母心です。けっして技術ではありません。自分の患者さんを心から大事に思い、一緒になって喜怒哀楽を共にし、母心で接して初めて患者さんの体は良くなっていきます。

 

 人を助けたい、救いたいという気持ちはあったとしても、自分が人を助けている、救っているなどという、大それた考えは私には一切ありません。いつもいつも私の方が患者さんに助けられっぱなしです。治療の時間は、患者さんから多くのことを教わり、生きる意味死ぬる意味を考え、私の魂が成長でき、患者さんと共に学べる最高の時間です。

私ができることはただ一つ、患者さんの生きるエネルギーを上げることです。死の寸前であっても、患者さんの生命の力を最大限に上げる。病気をたたけば、人間もたたくことになります。病気があるのが人間です。人間ですから病気があるのです。その病気に負けないように、体のエネルギーをあげれば良いのです。私の治療は、患者さんの生命のエネルギーに、少しでもお力添えができればという思いです。生きている限りは、どんなことがあっても諦めない。最後の最後まで治療する。それが私の信念です。

 

 最後になりますが、治療に大切なものは、愛情です。愛情による治療を私は「絆療法」と呼んでいます。その患者さんがまるで、自分の母であるかのように、父であるかのように、祖父祖母であるかのように、深い愛情をもって行う「絆療法」。私は日々、これを忘れずに、患者さんに向かおうと精進している毎日であります。

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