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The vocal cords <4>
By.天羽ひかり
思い出された記憶に、カカシはバツの悪そうな顔をした。
「あー、スミマセン。でも、今は思ってませんから! 今は声がいらないなんて思ってません!」
「ええ、わかってますよ」
必死に訴えるカカシがかわいく思えて、イルカはうっすら笑った。
「今俺は、アナタに名前を呼んでもらうのも嬉しいし、アナタの名を口にするのも凄く楽しい。知ってます? オレ任務先でも気付くと、お守りみたいにアナタの名前ばかり口にしてるんですよ。おかしいでしょう?」
「任務先でも?」
「ハハ、アスマに呆れられちゃいました」
カカシの云う任務先が、子供達を連れたC・Dランク任務でないのはすぐにわかる。上忍任務をこなしながら己の名を呟くカカシの姿を思い浮かべて、僅かにイルカは青ざめた。
「……アスマ先生は、その……」
「ああ、わかってるでしょうねぇ。や、でも他の奴らの耳には届いてないですから、大丈夫です!」
「……ほんとですか?」
写輪眼のカカシが任務先で意味もなく呟く名前が、自分のような中忍の名前だなんてあやしすぎるではないか。カカシは大丈夫だというが、危機感のない事柄への注意力に関してはイルカはその能力を唯一疑っている。
「ほんとですって」
「……今度アスマ先生にも伺ってみます」
「ヒドイなぁ。でもスキです、イルカ先生。イルカ先生〜」
「はい、俺も好きですよ、カカシ先生」
「でも、先生に教えてもらってよかったです」
「伝えられてよかったです。本当は諦めかけていたんです。あなたは何にも執着しないのだと思っていました。だからああもあっさり、声なんていらないといえるのだと。俺なんかとは違うし、あなたの言いたいことの理由もわかりましたし、ほんとうになんて云ったらいいかわからなくて……」
くすりとカカシは笑った。
「ちゃんと伝わりましたし。今は、俺、執着してますよ」
「そうですか?」
「ええ。今は間違いなく、アナタにとても執着してる。離れたくないくらい」
「……それも恥ずかしいですね」
「あのとき、あなたが必死になってくれたから、わかったんだと思います。でも、先生あの時凄く落ち着いてらしたから、慣れてるのかなぁなんて最初思ったんですよ」
嫌な話の方向に、イルカは僅かに顔を顰めた。
「……違うのはおわかりでしょう」
「いやいや、イルカ先生の意外性が見られて嬉しかったですよ」
「云わないで下さい」
「だって、二度目の時にまっかっかになっちゃって、おたおたしてるんですもん」
「……だって、最初の時は一所懸命だったし、なんだか一度にわーっとなったもので、よく覚えてなかったんですよ」
「アナタが俺のためにそんなに必死になってくれたってのは嬉しいです。いまは、アナタにこうして何かを伝えることが、楽しい。言葉を音にできてよかった、と思いますよ。だって、声がでなかったら、あなたに、好きだと伝えることもできなかった」
まっすぐに向けられる青と赤の色違いの瞳。
「もう絶対いらないなんて言わないから、これからもアナタの声を聞かせて」
さらりと髪を梳きながら、カカシは甘やかな声音で、囁く。
ゆっくりと起こしていた身を横たえて、イルカは目を閉じた。
「はい」
やさしい口づけが額に降りる。
「おやすみなさい」
カカシの声は、魔法のようだと思う。
その声だけで、その微笑みを、伝えてくれる。
安らかな眠りに、今度は導いてくれるだろう。子守唄のように。
カカシのその声で――
ENDE
update 20030218
たいした話でもないのに、終わらせるのにえらく時間がかかってごめんなさい(^^;)
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