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祈り
天羽ヒカリ
Side Iruka
何も、できなかった。 ほんの数秒カカシが遅かったなら、イルカの命はきっとなかった。相手は、暁の手練れだ。自来也さえも敵わなかった、そんな敵。イルカとでは、勝負にもならない。 だから、カカシは割って入ってくれたのだ。いつものように、冷静に無駄のない動きで相手を牽制する背中を、祈るように見つめる。負傷した仲間を肩に抱えながら、イルカはただカカシの無事を願った。 カカシはきっと、この世に未練がないみたいに、あまりにもあっさりと、他を生かす道を選んでしまうから。そんな事態にならないことを願うだけだった。
カカシとの刹那の邂逅からほんの僅かで、里の景色は一変していた。 眼前を、荒れ果てた大地が広がる。木ノ葉崩しの時よりも、もっと酷いその光景。それでも、見上げた空は青く、どこまでも広がっていた。 カツユに守られて、イルカは生きている。でも、化け物みたいな敵と対峙したカカシはどうしただろう。負傷者の介抱、情報収集、忙しく動きながら、生徒の、ナルトの、そして、カカシの安否が、気がかりだった。 暁について、おそらく普通の忍よりは、詳しいことを知らされている。アスマを、自来也を、死に追いやった集団。どう見ても、まともな相手ではない。 カカシには、写輪眼がある。それもまた、彼の身を喰らい尽くす、悪魔にも似た諸刃の力。そんな力を使わなければ、太刀打ちできない相手が、複数存在している。 ツナデの表情はずっと厳しい。戦況は、思わしくない。たった一人立ち向かったナルトだけが、里の希望となっていた。
Side Kakashi
息が、止まるかと思った。 「九尾の人柱力の居場所を吐け」 その声は、先に聞こえた。せめて時間稼ぎを、と祈る間もなく、きっぱりとした否の即答。 「お前のような奴に何も話すつもりはない」 イルカにその敵の、強さがわからないわけもない。それでも保身のためにナルトの居場所を話すことなど、それこそ天地が引っくり返ろうともないだろう。そんなことは、とっくにわかっていた。 でも。 (オレがいなかったら、どうするの) 叫びそうになった。千切れそうな胸の痛みを隠して、早くこの場を離脱してくれと祈るように告げた。 意識は、どうしたって、眼前の油断ならない敵に向けられてしまうけれど。五感のどこかでイルカの気配を、追い続けている。完全に、消えて追えなくなってしまうまでは。 劣勢の戦い、瓦礫の中で策を練りながら、無事を祈った。
次の発動が、限界を超えることはわかっていた。チャクラの消耗は激しく、この万華鏡の発動が、自らの命さえも奪うであろうことを、覚悟していた。その決断を迷う時間はなく、カカシはただ自らの信じる里のために一番望ましいことをするだけだった。
目覚めは酷く唐突だった。魂を強引に戻されたかのような衝撃に、カカシは飛び起きた。 さっきまで確かに父サクモと、話していたのだ。どうやらあれが、三途の川、とやらだったのだろうか。父もまだ、あそこを渡ることができないままでいたのだろう。これで安心して母の元に行けると、笑っていた。 まるで幻のような、記憶。 ふるりと一つ頭を振って、カカシは立ち上がった。 のんびりしている暇はない。何もかもが、気になる。 おそらくは死体同然の自分を瓦礫から引き上げてくれたチョウジと、チョウザに声をかけて、中心に向かった瞬身した。 混乱は、どこも同じだった。ただ、死んだかと思った人々が急に生き返ったのだと、涙ぐむくの一に教えてもらった。 あのひとは、どこにいる。 瓦礫のような里の状態は酷く、建物の残骸がごろごろしている。アカデミーに、と思っても場所を特定するのは、かなり難しいだろう。 それでも、方角に目星をつけて、動こうとした時。 「ナルトを、迎えに行ってやって下さい」 「っ!」 背中から、やさしい声がした。 探し続けていた、そのひとの姿に。状況も弁えずに、抱きしめてしまいそうになった。 「イルカ先生」 イルカもぼろぼろだった。それでも、生きていてくれた。それが嬉しくて、涙が出そうになる。 「あなたも、戻ってきてくれたんですね」 うっすらと、その瞳が光ったような気がした。 「……父に、会ってきました」 「!」 「また、ゆっくり話を聞いて下さい」 「はい」 「じゃ、ナルトを迎えに行ってきます」 イルカの一言で、おおよその戦況は理解できた。ナルトが、あの落ちこぼれだった弟子が、里を救ったのだ。 名残惜しくて、動けなくなりそうな足を叱咤する。暖かい何かが胸をこみ上げる。涙が落ちないように、天を見上げた。 地上と違い何も変わらない空は、ナルトの瞳のように透き通った青を湛えていた。
終わり
最近のWJダイジェストって感じですみません。ペーパーだったので枚数に限界が…
2009年6月発行ペーパーより再録
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