<夜に>
 

 ゆっくりと、髪に触れる指の感触に、とろとろとした浅い眠りから目覚めた。
 日頃手甲に隠されているその手が、白く殊の外繊細なのをイルカは識っている。愛おしげにやわらかく触れてゆくその指先。
 そっと目を開ければ、その僅かな動きに、向けられるのは穏やかな眼差し。

「起こしちゃいました?」

 酷く優しげな甘さの滲む囁き。
 ゆっくりと触れる、その手はそのままで。
 心配気な響きに、イルカは小さく首を振る。
  
「……カカシさんは、スキンシップが好きなんですか?」

 緩やかに触れてくる指先は、心地いい。
 いまは、他人のものだと緊張することもなく。
 受け入れてる。
 いつの間にか。
 眠りを妨げることすらないほど。
 性的なものを感じさせない接触の方が、むしろ多いかもしれないとイルカはぼんやり気づいて、いつもよりだいぶのんびりとした口調で問いかけた。

「あ、……べたべた触られるの嫌でしたか?」

 今気づいたとばかりに、焦ったようなカカシの表情。

「いいえ、」

 カカシの所作の意識的なものではないかわいらしさに、イルカは頬を緩ませる。

「ただ、少し意外な気がしたので」

「そうですね。べたべたするの、あまり好きじゃない方だったんだと思います。少し前まではね」

 小さく笑うカカシに、空気が淡く揺れる。

「ただ、いまはなんとなく許されてる気がして嬉しくて」

「おれに、ですか?」

「そう。イルカ先生の殻の中に入れてもらったような気がするんですよ」

 きれいな、笑顔。
 殊更やさしげに触れてくる指先。
 かなわない。
 小さな仕草に、こんなにも簡単に、すべて許せてしまう。
 イルカは、ただ微笑んだ。促すように頷けば、カカシはほわっとした口調で続けた。 

「昔はね、誰かと寝てる間は、何も考えないでいい時間だと思ってたんですよ。任務のことも、失ったもののことも、何もかも忘れて、頭をからっぽにしていい時間だとずっと思ってました」

 このひとが、今までどんな夜を過ごしてきたのか。
 それを思って、イルカは、胸をつまされるような感覚を覚えた。

「……でも、でもいまは、アナタに触れている時間は、アナタのことだけ考えることを許された時間なんだって気づいたんですよ。そうしたらなんだかとても嬉しくなって、触れていたくなって……」

 愛しさを滲ませた声音。
 大切なのだと繰り返し囁くかのように柔らかく動くその指の軌跡を、この身はいつの間に覚えたのか。

「いやじゃないですか?」

「まさか」

 心配そうな目に、笑って否定する。

「鬱陶しいときは、云ってくださいね」

「大丈夫ですよ」

 カカシの指先は、痕跡を残さない。
 まるでさらさらと滑り落ちていく砂のよう。
 ほんの束の間、心地よい感触だけをイルカに残すだけだ。
 それに、初めて少し不安めいたおぼろな感情を覚えた。
 
「ありがと、いるかせんせ」

 青い右目が、にこりと細められる。
 いま、このひとは、幸せなのだろうか。
 返事のわかる問いを発する気にはなれなかった。
 それは、自己満足にすぎない。カカシがどう答えるのかは、わかる。わかって、いる。
 
 そのほんとうの望みなど、ひょっとしたらカカシ自身わかっていないのかもしれない。
 きゅうっと痛みを訴える体内の声を無視するように、イルカはただカカシを抱きしめた。
   
 なにも残らない、この夜に。
 反発するようにして口づけを交わした。
 これが泡沫の恋だとしても――



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最近の癒されたいモード全開な感じで、まさしくヤマなしイミなしオチなし……
 「かみさまのて」、カカイル?バージョンって感じでしょーか。ワンパタですねぇ。短く載せられるものってこの手のものばかりですね……
 長いのがさくさくっと書ければいいんですけども(^^;)
心が疲れ気味なので、まだしばらくのんびりモードが続きそうです、すみません。駄作ばかりで(^^;)
BGMは井上和彦氏(友雅さん)の「空蝉の恋」でした(爆)

 Hikari Amou update 20030319