Afterimage

 とても懐かしい、夢を見た。
 淡くゆれる、金色のまぼろし。
 暖かな、その声。
 暖かく大きなてのひらのくれる、やさしい感触。
 背中のぬくもりに、泣きたくなるような安堵を覚えた。
 ひととしてたいせつなことは、あのひとがすべて教えてくれた。
 すべては、もう二度とかえらない。
 残るのは、自分の中の淡い記憶と一枚の写真だけ。
 夢は、遙か昔のおぼろげな残影のみで。
 時とともに、すべてが薄れていく。そう、諦めかけていた。
 それなのに、今になってこんなにも胸がいたむ。
 一時は、忘れかけてさえいた記憶が、最近だんだんと鮮やかになってきている気がする。
 その理由に、気づいてしまった。
 カカシが今、似たようなやさしさに触れているからだと。
 与えられるぬくもりを、向けられる感情の暖かさを、重ねあわせているのだと。
 なによりそんなものに酷く餓えていたのだと、気づかされてしまった。
 間にある感情は、決して同一のものではない。
 たぶんもっと薄汚れたものを、少なくともカカシは抱えている。
 ただ、カカシに向けられる暖かさは、とても似ている。 
 忘れかけた記憶を、呼び覚ますほどに。
 今日は、その色合いすら思い出せるほどリアルな夢を見た。
 いくつもの言葉も、思い出した。あたたかなその声とともに甦る記憶が、今になってこんなにもたいせつだ。
 否、今だからこそ、だろうか。
 とりあえず、今日はイルカに会いたい。
 会わなくちゃいけない。
 一緒にすごしたかった。いちばんたいせつなひとと。
 

 
 淡い夢の見せる過去の記憶に、起床を促された。
 こころには色々な感情が溢れて、かなしみもせつなさも残っていたけれど、目覚めはよかった。珍しくもすっきりとしている。
そうして上半身を起こしたカカシの右目から、一筋の涙が流れ落ちる。
 夢の名残だ。
 忘れられなかった記憶の残像が脳裏をちらつくのを振り払うようにして無造作にそれをぬぐい、カカシは着替えだした。
 今日は遅刻しないですむだろう。
 さくさくと子供達との任務を終わらせて、後はあけておこう。
 イルカは、受付所にいるだろうか。こんなことならもっと前に約束を交わしておけばよかった。
 でも、仕方ない。今の今まで忘れていたのだ。誕生日なんて。
 自分で思い出したことすら驚きだ。夢にあのひとがでてこなかったら綺麗さっぱり忘れていた。夢の中の彼の言葉で、思い出したのだから。
 だいたいここ数年、自分で思い出したことなんてなかった。誕生日なんて、めでたくもなく、興味もない。そう思いこんで、ずっと、忘れていた。否、忘れたかったのかもしれない。祝ってくれるひとがいなくなったときから。
 枕元のくすんだ色をした写真の中の四代目は、変わらぬ笑顔を湛えている。思えば、彼の笑顔以外の顔はよく覚えていない。カカシはあまり怒られた記憶ももたない。ただ、悲しげな顔を数回させたことだけ、忘れられないでいる。カカシのせいで哀しませたのだということだけ、はっきりとわかっていて。それ以上のことがそのときにはわからないでいた。色々なものを欠落させていたままだった自分。誕生日、という言葉や意味を教えてくれたのも、彼だったように思う。
 でももうずっとカカシ本人も忙しくしていたし、ふと気づいた頃には、月が変わっていることも珍しくないような状態だったから。当然イルカにそんな話をした覚えもない。
 イルカがカカシの誕生日を知るかどうかもわからない。云ってないのだから知らなくて当たり前だ。もしも何か先約があったら、自分には、何も云えないだろうとカカシは思う。イルカの先約を破らせるほどの強引さは持てない。きっとそんな態度は、上忍ゆえの傲慢と映るだろうし、カカシ自身もまだ、多分、誰かから何かから奪うほどの勢いは持てずにいる。正確には、持ちそうな自分を恐れている。
 そうしてそんな資格があるのか、と戒めている。いつまで生きるという保障もない、死に近い自分。極端に保身に走っては駄目だと思う。身を過ぎるほどに惜しむようになったら、多分今までのような働きはできない。それでは、いけない。
 きっと、自分といてもイルカにいいことなんてないだろう。それを考えてしまうのは、長年の習性のせい。先の先まで考えずにはいられない。それが、たまにもどかしくもなるけれど、先を考えるまでもなく、イルカにとって自分が必要な人間だとは到底思えない。
 それなのに、望んでしまう。わかっているけれど、欲しい。
 もしも空から光が降るように、与えられるなら。奇跡を望むひとの真似をして、祈るだろう。
 イルカの心が、すべてが、欲しいと……。



 遅刻しなかったカカシに驚きながらも、子供達は気分よく任務をこなしたようで、もくろみ通り昼過ぎには全て片づいていた。
 足取りも軽く、揃って任務受付所へと帰る。
「あれ? イルカ先生、いないってばよ!」
 ナルトの不満そうな叫びに指摘されるまでもなく、彼の不在はすぐにわかった。この時間は、確かイルカの受け持ちだった筈なのに。
 嫌な予感がじわりと背筋を走る。
「イルカは昨夜から任務に出ておる」
 ふくれた顔のナルトに、火影が淡々と告げた言葉に、カカシは思わず口を挟んでいた。
「いつ、帰ってくるんですか?」
 顔色も声音も変えたつもりはなかった。そこまで動揺を露にしてはいないつもりだったが、火影は僅かに目を瞠った。それにカカシは内心で舌打ちする。
「遅くても明日までには戻るじゃろう。少し遠いが、特に問題はないはずじゃ」
「イルカ先生、一昨日はそんなこと云ってなかったってばよ?」
「守秘義務があるのに、ホイホイ任務のことをしゃべれるわけないでしょ?」
 尤もらしくナルトを宥めながら、誰より自身を納得させようとしている。よりにもよって任務とは、顔をあわせる機会すらないのか。
「急じゃったからのぉ。割り当て前の任務表を整理しているときに、イルカから申し出てきたんじゃよ」
「イルカ先生もたまには外の任務に行きたいのかなぁ〜」
「さぁ、どうだろうねぇ」
 ナルトは、複雑な顔をしている。けれど、カカシにもその問いの答えはわからなかった。イルカが何を思い、何を考えて任務に向かったのか、カカシは推測すらできないでいる。二、三日前にはイルカの家に泊まったのに、そんな話は欠片も聞かなかった。そのときにも、いつもと別段変わりはないように見えたのだ。
 イルカが急に任務に出かけていってしまった理由など、まるきり見当もつかない。
「今夜中に戻ってくるやもしれぬし、明日には会えるじゃろう」
 優しい視線を向けてきた火影に、ナルトは困ったような顔のまま頷いた。ふと見れば、サクラやサスケまでもが、なんだか妙な表情をして顔を見合わせている。
 イルカは確かに子供達に慕われているが、何か用事でもあったのだろうか。小さく疑問に思ったものの、追究することなくカカシはぽんとナルトの頭に手を置いた。
「じゃ、解散ね」
 ナルトが納得したのを待っていたかのような口ぶりで告げて、さっさと瞬身を使う。三代目の何か云いたげな視線から逃れるようにして受付所を出てから、スピードを落とす。
 一気に予定が消えてしまった。
 寂しく一人で酒でも呑むか。他にどこも寄る気にもなれず、がっくりと項垂れて、カカシは家路についた。
 
     ††† 

「誕生日、おめでとう! カカシ」
「おめでとう、カカシ!」
 四代目火影は、これ以上ないというほどの笑顔でカカシに不思議な言葉を伝えた。耳慣れぬ言葉に、カカシはぽかんとして四代目と初めて組んだ仲間達の顔を見比べた。
「なにが、めでたいの?」
「カカシが生まれてきてくれて、先生は嬉しいんだ。そういう『おめでとう』なんだよ」
「……そういうもんなの?」
「カカシィ〜」
 オビトが呆れたように頭を抱えている。
 自分が他の同年代の子供達とはだいぶずれているということは、さすがにしばらく一緒に行動していてわかってきている。四代目は、困った顔はしても怒ることは殆どない。覚えていけばいいと、たいていのことは笑って流してくれる。任務になれば、カカシは飛びぬけて強かったし、協調性のみ学べば他には問題なかった。違和感を感じるのは、大概日常の小さな事柄ばかりで、カカシにとっては些細なことが多かった。
 カカシは親の顔を知らない。物心ついたときから、周囲には忍ばかりがいた。鉛筆を握るよりも先に、クナイを握っていたかもしれないぐらいだった。しかし、それも忍の里では特別異常なことでもない。親の顔を知らない子供は、カカシばかりではない。
 九月十五日が誕生日であることを、誰が知っていたのか、どうやって忍登録してくれたのか、それすらもよくわかっていなかった。ただなんとなく生まれた日である、と記憶してはいたが、特別な意味を持つ日であるとは思わなかった。さほど興味もなかったのだ。
「カカシ、私も皆も、カカシのことが好きなんだ。だから、たいせつな君が生まれてきた日を祝いたいんだよ。おかしなことじゃないだろう?」
「よくわからないけど、誰かの誕生日には『おめでとう』と云えばいいってことでしょう?」
「ん〜、間違ってはないんだけど、わからないかなぁ……」
 四代目は僅かに目を細めて、少しだけ困ったような表情をした。その目が、どことなく切なげでカカシはそこから視線を外せなかった。どう説明しようか考える仕草をしていた火影は、いきなりぽんっと手を打った。
「よし、ひとまずパーティをしよう!」
「おっ、賛成〜」
「せんせ〜、バースデーケーキ買ってきていいですかぁ?」
 スリーマンセルの仲間達が、急になんだか楽しげに顔を輝かせている。それをカカシは実感の湧かないまま、ぼんやりと見つめていた。
「パーティって俺の?」
「当たり前じゃないの。誕生日パーティなんだから!」
「ふ〜ん」
「よし、じゃカカシ、この報告書を出してきてくれるかい? そのあと、先生の家に来なさい。それまでに準備しておくから、ちょっとゆっくり来てくれるとちょうどいいかな」
「……はい」

 そうして生まれて初めての誕生日パーティは、どこか人事のように過ぎていった。ただ、四代目も仲間達も終始ニコニコと笑顔でいた。こんなのも悪くないな、とおぼろげに感じたことは後まで覚えていた。
 帰り際、カカシだけが四代目火影に呼び止められた。
「楽しかったかい?」
「……はい」
 少し考えて頷いたカカシに、四代目は朗らかに笑った。
「君が楽しかったらいいんだ。まだぜんぶは、君に伝わっていなくても。……でもそうだな、とりあえずこうしようか。これから『おめでとう』と云われたなら、『ありがとう』と答えなさい。そのひとは、カカシが生まれてきたことを喜んでくれてるひとなんだから」
「はい」
「別にね、任務みたいに、こうしなければいけないってことではないんだよ。ただね、カカシの誕生日を喜んでくれるひとは、たいせつなひとだと先生は思うんだ。そのなかにきっと、カカシが大事にしたいひとも入ってると思うんだ。そんなたいせつなひとができたら、こうやって祝ってもらって、一緒に過ごしなさい。それは、君が受けるべき祝福なんだから」
 優しげな瞳を弓なりに微笑ませて、火影はぽんぽんとカカシの髪を慈しむように軽く叩いた。
「ちょっと難しかったかな? いまわからなくても、覚えておいてくれると先生も嬉しいな。で、また来年もこうしてパーティをしようね。ああ、他の皆のパーティもしなくちゃな、ああ忙しいなぁ! そのときはカカシも手伝ってね?」
 こくりと頷いたカカシに、四代目は大きく頷いた。
「よし、じゃカカシ、誕生日おめでとう!」
「え、あ、ありがとうございます」
「うん、それでいいよ。じゃあもう遅いから、気をつけて帰りなさい」
 肩に触れた暖かな掌の、その温度がとても心地よかった。

     †††

 ふいに、目が覚めた。酒を一本空けた後、熱くなって床に転がったのだが、どうやらそのまま寝てしまっていたらしい。
「あ〜、イテテ」
 覚悟もなく冷たい床に晒されて、背骨が軋んだような気がする。ぐーっと伸びをして視線を巡らせたときに、窓辺に白っぽい影が映っているのに気づいた。
 窓へ寄って行けば、コンコンと人の手がノックするような音をたてる。
「え?」
 窓の外に、よく知ったひとの気配がある。
 かけたままだった鍵を外し、勢いよく窓を開け放った。
「イルカ先生?」
「遅くなりまして、」
 随分と急いできたのだろう。イルカは息を切らしながら告げた。けれど、その顔はよく見えない。イルカの腕に一抱えの白いなにかが納まって、カカシの視野を遮っている。
「いや、別にいいんですけれど、とりあえず中へどうぞ」
 時間のことを云っているのかと思って時計を見れば、午後11時を回ったところだった。確かにイルカが訪ねてくるには遅い時間だが、知らぬ仲でもない。
「ああ、でも間に合った」
「え?」
 ぐいと片手を窓枠にかけてイルカは身軽に全身を現した。
「カカシさん、お誕生日おめでとうございます」
 にこりと額に汗を浮かべたままイルカは満面の笑みを見せた。そして腕の中の花束をカカシへと差し出した。
「イルカ先生……」
「窓からすみません。玄関より間口が広いかと思いまして」
 満月に近い月が、イルカの背中に見える。気をとられてよく見ていなかったその花束へ、カカシは視線を向けた。体格のいいイルカの腕にいっぱいの真っ白な花だった。
 白く繊細で美しく、そして夜の闇にどこかあやしく輝きを放つような花の束。それはイルカごと白く輝いているように見えた。
「本来、贈り物にふさわしいような花じゃないんですけれど、白いからいいかなぁと思いまして……」
 差し出された花束を、とにかく受け取ろうと抱えるように持った。まだイルカも花を支えてくれている。それぐらい大きな花束だった。
 まだ、頭がきちんと働いていない。ああ、こんなときに何を云うんだっけ。
「あ、あの、……ありがとうございます」
「急いだんですけれど、やっぱり遅い時間になってしまってごめんなさい」
 突然引き受けた任務、木の葉の里では見たことのない白い花。二つの符号は、単純な一つの結論しか導かない。
「……イルカ先生、この花を取りに行かれてたんですか?」
「いえ、任務先の近くに咲いていたんですよ」
 イルカの声が一瞬硬くなる。嘘の下手なひとでよかったと、しみじみ思う。
「逆でしょう? この花の為に、任務を引き受けたんじゃないんですか?」
「いや、そんなことは……」
「火影様にも事情はちょっと聞いたんですよ。ほら突然いらっしゃらないから」
「……勿論、任務が終わってから取ってきたんですよ?」 
 困ったようにイルカが声を小さくするから、カカシは思わず笑ってしまった。
「あはは、誰もそんなこと云ってないですよ。ありがとうございます。綺麗ですね。曼珠沙華、ですよね?」
「はい、白花曼珠沙華といいます。尤も別名は山ほどありますけれど……あ、大丈夫ですか? 本当におめでとうございます」
 カカシを気遣いながら花を支えていた手を外して、イルカはさりげなく左手を隠す。でも、カカシは見てしまっていた。
「俺、プレゼントなんてもらうの初めてですよ。先生、ご存知だったんですね」
「ええ、受付にいる関係で色々と資料は目にするもので」
 照れたようにイルカは視線を伏せる。何を云えばいいのだろう。唇は、意思に関係なく言葉を紡いでいるけれど、カカシの本当に云いたいことをどれだけ伝えてくれているのか。ありがとう、という短い一言では、到底足りないのに。
 だから、イルカの手を取った。
 イルカが反射的に引っ込めようとした左手に、カカシは唇を寄せた。上目遣いに顔を見れば、イルカは諦めたように引っ込めようとする動きを止める。
「馬鹿ですね」
 擦り傷だらけの左手に口づけながら、カカシは笑った。
 イルカを知らないひとならば、気づかなかったかもしれない。イルカを見ていないひとならば、わからなかったかもしれない。
 でもカカシは、見ていた。その仕草を、すべて。
「……いいんですよ、これぐらい」
 わかっている。
 イルカは、そんなにも不器用ではない。きっと急いで、急いでくれたのだ。
 ぜんぶが、カカシのために。
 まっすぐに向き合って、一所懸命にカカシのためだけに動いてくれる。
「イルカ先生、嬉しいけど、そんなに急がなくてもよかったのに」
「でも、やっぱり今日という日がたいせつでしょう? あなたのたいせつな日だから」
 優しい微笑みに、既視感を覚える。顔は、全然似ていないのに。
 カカシにくれる温度は、なんて近いのだろう。
 言葉に、ならない。
 こんなときは、胸がいっぱいになって、言葉の出ないようなときは、何を云えばいいんだろう。四代目は、教えてくれなかった。
「……イルカ先生、どうしてこの花を選んでくれたんですか?」
 少なくとも木の葉の里では見かけない。カカシもこんなにも白く美しい曼珠沙華は、初めてみる。
「ええ、いつの任務だったか、正確には忘れてしまいました。とにかく任務帰りの、夕方頃でした。野原に出たら、あの花が夕日に照らされて真っ赤に咲き誇っていたんです。最初は普通の彼岸花だと思ったんですよ。赤々として、縁起でもないと思いながらも、とにかく美しくて見ほれてしまいました。ああ、天上の花って本当だなぁって思って……」
 イルカはそのときを思い出すように、うっとりと目を閉じた。
「綺麗だから、手に取ったんです。そうしたら、白いんですよ。真っ白でしょう? あのギャップが印象的で、忘れられなかったんですよ。ほら、海は青いのに、水をすくうと透明でしょう? 決して水が青いわけじゃない。あんな感じに似ていました。あの野原は、本当に天国に行ったかと思うほど、綺麗でした」
「だから、わざわざ?」
「ええ、俺が知っている一番綺麗なものを、あなたに贈りたかったんです。本当は、野原ごと贈りたかったぐらいですよ」
 閉じた目を開いて、まっすぐに貫くような視線が、カカシの心の奥底まで突き刺さる気がした。
「イルカ先生……」
 顔が紅潮してしまうのを、止められない。なんだってこのひとは、こんな台詞を臆面もなく云えてしまえるのか。日頃は照れ屋のくせに、こんなふうにたいせつなときに、彼は言葉を選んだり迷ったりしない。カカシの躊躇を、酷く簡単に乗り越えてゆく。なんでもないことのように。
「でも、もう昔見たほどの広さはありませんでした。お連れしてもよかったのだけれど、なかなか休暇でもないと里の外ですし、ね」
 小さく苦笑するイルカの顔は変わらない。特別なことなど何もしていないような顔で、こんなにもカカシの感情を揺さぶっていると気づいているのか。
「今度、連れていって下さい。季節外れになってもいいですから」
「え、ええ、かまいませんよ」
「俺も、あなたが天国みたいだと思った場所を、見てみたいです」
「半分以下になってしまったのが残念ですね。あ〜、しかももうこんな時間だし……。本当にごめんなさい。あなたのパーティしたかったのに、間に合いませんでしたね」
 部屋の時計を確認して、イルカはすまなそうに謝った。
「いいんですよ、そんなの。俺は充分贈り物を頂きましたから」
「いやでもあいつらも楽しみにしてたのに」
「え?」
「そういえば、呼びに来ませんでした? ナルト達」
「いえ、そんな話になってたんですか? ああ、だから受付所でみんな何か妙な顔してたんだ」
 ぽん、と手を打てばイルカは恥ずかしそうに鼻の頭を掻いた。 
「俺、急に任務受けてきちゃったんで、伝えられなかったんですよ。カカシ先生に内緒にしたいって云うから、俺の部屋で準備しようって話をしてたんですが……」
「ん〜、まぁ、いいですよ。俺はあなただけ居てくれたらそれでじゅーぶん」
「まさか、家で待ってたりしないだろうなぁ……」
 そわそわと腰を浮かせるイルカを、カカシは呆れて見やった。
「こんな時間までいないですよ、あいつらも馬鹿じゃないんだから」
「そうですよね。……じゃあ、パーティは明日にしましょう!」
「ん、なんでもいいです。とりあえず今晩は、イルカ先生独り占めさせて下さいね!」
 徹夜で任務をこなしてきたイルカが、少しだけ顔を引き攣らせるのを見て、カカシは小さく噴き出した。

ENDE

 

<BACK>

 

数年前に書いたカカシ先生のお誕生日話でした。一応イルカカ。 

初出2003年9月「Afterimage」・再録「銀の繭」