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何度でも 今年初めて見た雪は思ったよりも遅く、静かな物だった。 吹雪く気配も無く、細い銀糸の様に静かに地上に降り立つ細かい粒子の 繊細さに目を眇めつつも、それでも足元に音も無く着々と白い層を重ねてゆく その感触がさくりさくりと小さな音を立て、心地良い。 夕べから降り積もった雪は、まだあまり大勢の人の足に蹂躙されていないらしく 視線を足元に落としていると、ゆっくりと後ろに流れて行く視界はほぼ白一色だった。 自分が付けて行く足跡が小さな音を立て、その純白に別の色を付けて行く。 子供ならば、きっと声を上げて喜ぶのだろう。 そう思った途端、ふと脳裏を過ぎった元気な教え子の姿。 「ナルトが喜びそうだなあ。こんな日は」 タイミングを図ったかの様に隣で上がったのんびりとした声に ええ、と小さく笑いを噛み殺して振り向く。 先生二人で考える事は教え子の事。 それが何だか嬉しかった。 「もうきっと雪だるま作ってるんじゃないかな」 「まだそこまでは積もっていないんじゃないですかねえ」 「じゃ、去年みたいに雪うさぎかな」 「溶けかけのたぬきやきつねもありましたっけね」 この声を、語り口を聞かせてやりたい。あの子に。 互いにそう思っている事まで一緒なのは流石にわからないけれど。 その声に宿る互いの温かい愛情に、同時に思った。 新しい年もきっと良い年になるように、と。 どうか幸せでありますように、と。 願う事はきっと皆同じ。自分にとって大切な者達の幸せだ。 「・・ねえ、カカシさん」 「はい?」 「どうぞ――はい」 「・・え?」 笑顔と共にそっと差し伸べられた手に、カカシは一瞬目をぱちくりさせた。 それを見て、また笑いを小さく噛み殺す。 小さな幸せを口の中で味わうように。 「あなた、冷え性だって散々言ってたじゃないですか。 もし良ければ――俺の手は温かいですよ」 嫌じゃなければどうぞ?と差し伸べられた手にカカシはまた目をぱちくりさせ、 そして忍びとは思えない程のろのろと手を差し出した。 それを了承と取ってその手を握ろうとしたイルカの手に、差し出された手が下がる。 「あ、でも・・やっぱりいいですよ。ホント冷たいし。 折角温かいイルカ先生の手まで冷えちゃうし」 「何言ってんですか。平気ですよ、ほら」 躊躇う手をぐいっと握る温かい、温かい手。 それは優しくて――そして力強かった。 「・・うわ、こんなに冷たいんですね。気の毒に」 「すいません。やっぱり離しますよ」 「そうじゃなくて、こんなに冷たくて気の毒に、って言ったんですよ」 早く自分の熱がこの冷たい手に伝わるといい。 そう思って躊躇いも無くぎゅっと握り返して来る手に カカシは小さく困ったように笑う。 それきり言葉は途切れたけれど、その手だけでなく心まで包まれた気がした。 「イルカ先生って雪みたいですよね」 「そうですか?」 「ええ。雪見てると、何処に居てもイルカ先生を思い出すんです」 「・・そうなんですか?」 微かに首を傾げるイルカにカカシは目を眇めて空を見上げて、そして地面に視線を落とす。 綺麗、繊細、静けさ、冷たさ、鋭さ、風情。多分そういう物ではない。 良く雪から連想されるそういったイメージではなかった。 それは―― 「本当に音も無く、降りますねえ」 温かい、声。きっとその通りだ。 「そうですね」 汚れた地面に音も無く何度でも何度でも降り積もる。 音を荒げず、乱しもせず、何事も無い様に何度も何度でも。 どんなに汚れても、雪は意に介さないように静かにずっと、何度でも、降るのだ。 そこが――きっと。 きっと、この人を思い出させていると思うから。 「ああ――でも俺も雪を見ていると、カカシさんを思い出す事がありますよ」 「え?そうなんですか?」 「そう・・」 小さく笑って目を伏せて、イルカは雪にそっと言葉を乗せた。 温かい息と共に。 「温かさを教えてくれる所とか、ね」 冷たい雪は人間の温かさをいつも以上に教えてくれる。 こうして温もりの幸せをどんな言葉よりも雄弁に教えてくれるから。 「だから、雪は好きです」 そっと言葉と共に掠めた唇が温かい吐息と言葉を自分の唇に運ぶ。 その温もりがまだ早い春の温もりを思わせた。 握った指に微かに力を込めると、指先に熱が宿り始めたのがわかった。 冷えきっていた指先に灯ったその微かな熱が、愛おしい。 「ああ――そう言えば、まだ言ってませんでしたね」 そのふんわりした空気の中で思い出したという様にイルカが声を上げた。 こちらに向き直った彼の背を、温かい陽光が眩しく縁取り始めていた。 もう――陽が昇る。 「今年も、どうぞよろしくお願いします」 今年も、また来年も、再来年も。 何度でも、何度でも静かにこの温かい笑顔は胸の中に降り積もって行くのだろう。 どんな記憶に埋もれてしまいそうになってもきっと雪の様に、何度も。 「こちらこそ、よろしくお願いしますね、イルカ先生」 そして――高望みかもしれないけれど、願わくば自分もそうなれるように。 カカシはそう強く願ってまた指先に力を込めた。 すっかり温もりの宿った指先に。 「もう、すっかり温まりましたね」 「そうみたいですね。ありがとう」 冷たくもなく、温かくもなく。 ただ静かに繋がれる同じ温度の指先に――愛しさを込めて。 〜終〜 初イルカカ(?)。いつもお世話になっているリバ友天羽さんに捧げます。 返品思いっきり可。・・でも気持ちだけは受け取って(笑)。 |