『11/8 柳蓮二の日記』


…俺はこのような「今日の出来事」ではない随筆のような日記を書くことには抵抗があるのだが、
今後の要点整理と、今の心境を後から推察するために、敢えてこのスタイルで記述をしようと思う。


まず一点目。
貞治(=俺の幼なじみで親友だと一方的に思っている(あいつからの異議は認めない)青春学園中等部三年生のこと)が
付き合っている相手がいると聞いた。
別にそれ自体は…それ自体も驚きといえば驚きだが、どうでもいいとも言える。
相手の顔も名前もわかっているのだが(そもそも知り合いだ)、敢えてここには書かない。
所詮ノートなので、誰に覗き見られるとも限らない。(貞治の)プライバシーの為だ。

そんなことより重要だったのは、貞治の態度である。
「ああ、付き合ってるけど」
と貞治らしからぬ態度でさらっと言ってのけた。
残念ながら、彼はもう既に俺の知っている彼ではないようだ。
俺の知っている貞治は無邪気である意味バカで、人間関係の立ち回りなど到底巧くはなかったのだが、
そういうことを指摘されて、慌てるでもなく得意がるでもなく静かに笑う。
そんな人間だとは知らなかった。

まったく研究不足もこの上ない。この点はもう少し、本人から情報を収集したいと思っている。
別に貞治が誰と付き合おうと関係ないが、俺はあいつを勝手に弟だと思っているのでこう…知らないことがあるのが許せない感覚だ。
これを跡部に言ったら盛大に馬鹿にされるだろう。
まあ、人間関係での執着の度合いでいえば、あいつと俺とはいい勝負だと思うが。
跡部もその点は認めている。お互い砂を掛け合える大変いい友人だと思う。


二点目。
一点目を受けて、少し考えることがある。
この日記を盗み見ているかもしれない、俺の身近のとある人物ともう一人のことだ。

俺は恋愛というものを全く身近に感じたことはないが、貞治の話を聞いて少し考えを変えた。
恋愛とはなにかというテーマについては別途記載するとして、それを人間関係の執着と置き換えれば、実は以前からの懸案事項がある。

仮にその人物達をYとSとしよう。

Yは顔だけが可愛くて中身が底なし沼といった感じの人物だ。
一見穏やかそうに見えて、自己主張が激しく、世界の中心は自分でないと気が済まない。
跡部などは世界の中心は自分だと信じているだけだが、Yはそれをさりげなく実行しようとする。
人の輪の中心にいなくてもいいが、その場の力関係の最上位に常に居を構えている。
実際Yにはそれほどの何があるのかというと、XXXが強いくらいで、それ以外はどうしてあのように
強気でいられるのかが不思議なくらい普通だ。
しかし、人間関係の糸引きの巧みさを考えると、やはり尋常ではないのかもしれない。

念のために書いておくが、俺はYを大変興味深い人物だと思っている。
俺がこう書くということは、好きだということと同義だ。
貞治の次くらいには置いてもいいくらいに興味深い。

それからS。
Sは見た目通りの人物だ。
融通が利かない外見と融通が利かない中身を持っている。
その頑迷さ、実直さ、猪突猛進具合はいわゆるバカとも取れるほどであり、それ故に尊敬を集めていたりもする。
誰しもあのように迷い無く突っ走れるわけではない。
Sも興味深い人物である。

そして、ここからが問題なのだが、YとSは水と油なのだろうか?
SはYをどう思っているのか。
YはSをどう思っているのか。
…俺は分かっていたつもりだったのだが、最近、特に今日、一度出した結論を全て撤回して考え直さねばならなくなった。



【以前の回答】

YにとってSは御しやすい相手だろう。
それは間違いない。
Yのような人物にとって、Sの行動を操ることは、息を吸うように容易い。
SにとってYは頼りになる相手だろう。
Sは己が頑固であることを知っている故に、自分には思いも付かない手段であらゆるパズルを解いてみせるYは
驚異的な存在であると言える。

…だが、YはSを見下してはいないか。
SはYを自分とは別種の生き物だと思っていないか。
一見して仲の良い、うまく回っている二人だったが、俺はそこに少しの不安要素を見出している。



【本日の出来事】

正直、もったいぶるほど大した話ではない。

Yはベンチに座っていた。
Sはその側にいた。
他にも俺を含め何人かがその場にいた。全て親しい間柄の人間だ。

そのとき、ふとYが顔を上げ「Sは俺のことが好きだよね」と言った。
Sはゆっくり振り向いて特に驚いた様子も何もなく「ああ、そうだな」と答えた。

それだけだ。

だが、なんと言えばいいのだろう。空気、というのだろうか。
これを数値換算することはできないのだが、どうにも、いたたまれないような、甘いような、恥ずかしいような、優しいような。
よくわからないのだが、その場にいた友人達は皆、居心地が悪いようないいような、よくわからない顔をしていた。
俺も同様だ。
この感覚をなんと表現したらいいのか分からない。

だが一つ言えることは、YとSは、俺が思っていたよりも破綻の少ない、
むしろ強固な結びつきがあるのではないか、ということだ。
その極僅かの会話がそのように聞こえた。

思えば、俺の知らないところでこの二人はもっとたくさん会話をしているのかもしれない。
人を食ったようなYの性格は、もしかしたら、Sと二人だったらがらりと質を変えるのではないだろうか。
単刀直入そのものといったSの態度は、もしかしたら、Yに対しては違うのではないだろうか。

…全く根拠もないのにそのように思わされた。
己の研究不足を晒すようで甚だ不本意だが、これは予測の範囲外だったと素直に白旗を揚げよう。
もう少し、踏み込んで研究したいような気もするし、踏み込まない方がいいという警鐘も聞こえてくる。

貞治の件もそうだったが、世の中には知らない方がいいこともあるのではないだろうか。
はっきり言って、俺は「知らない方が幸せ」などというよたごとを信じるつもりはない。
より多くの情報量があった方が幸せに決まっている。

だが、それでも、こればかりは、知らないことが、万人の幸せに寄与する手段であると、第六感が言って止まない。
―――――だがまあ、第六感などというものは全く信じていないので、敢えてここは踏み込んでみようと思う。

そのため、不本意ながら、このような定形外の日記の記載をしばらく続けることとする。
あと、この文章を読んでいる人間がいるのなら、即刻ノートを閉じて俺の鞄に戻すように。
別にお前の得になる情報を書くつもりはない。
この間オレンジジュース(果汁70〜100%の間)をこぼしたのはお前だろう。それから以前はポテトチップス(のりしお)
を食べながら読んだだろう。俺はそういうのが嫌いだ。
せめて分からないように読むという気遣いくらいはするものだぞ。


以上。

11/8 19:28 柳蓮二




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Y研究家の方からの情報によると、
Y>「あはは。踏み込め踏み込め」とコーラを飲みながら笑ってる(そして汚す)。
だそうです。






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無題11



腹立たしいことこの上ない。


リハビリも順調、全国大会を控えたとある日の放課後。
部活を終えて、真田だけを引っ張り出して、夕日の色に染まりながら考える。
傾いた日が全てを茜色に染め上げ、それはとても美しかったが、今の俺にはそれは怒りの色にしか見えない。
目に見える全てただ一色、怒りの対象のように思えた。
勿論目の前のこの男も。


「………」

一緒に帰路に就く、真田は先刻から一言も発しない。
それは俺も同じだけど、いつもの俺達はこんな調子じゃない。
少しの雑談と、少しの沈黙。その繰り返しは今思えばとても穏やかだった。
やっとの事で退院し、取り戻した懐かしい時間の流れが、本当に、今日は台無しだ。真田のせいだ。

何故、言わないんだ。
何を怒っているんだ、幸村、と。
百歩譲って、何で黙っているんだでもいい。何で聞いてこないんだ。

そうしたら、お前が勝手に跡部と試合を始めたことも、しかも負けそうになったことも、
何もかも気に入らないのだと冷たい声で吐き捨てて、謝らせる機会をあげてやってもいいのに。


「幸村」

そう、けれどやっと口を開いた真田が持ち出したのは、俺にとっては凄まじくどうでもいい話だった。

「……さっきから考えていたのだが、いかに試合を止めるためとはいえ、
 ネットを踏みつけたのは立海の部長としてよくないと思うのだ」
「じゃあ聞くけど、対外的に部員を殴るのとネットを踏むのとどっちが問題なのかな?」
「……それは部員を殴る方だな」
「で? 俺に何か言いたいことがあるのかな? 真田は」

真田はしばらく口を開閉する様子を見せたが、結局そのまま黙った。
これで流石に俺が不機嫌だと言うことには気付いただろう。
じゃあ聞いてくるよな? お前俺のことなんて何も分かってないんだから。
何故、怒っているんだと。


「幸村、そう怒るな」
「はぁ?」

…………正直、この切り返しはよくなかった。
これじゃあ単に売り言葉に買い言葉で、俺が怒っていることを認めただけだ。
俺は真田に反省を促したいのに。
真田の口から、「お前がいないあいだに勝手に話を進めて悪かった」と言わせたいんだ。
そうしたらこの苛つくまでの夕日の赤も、落ち着いた夜の青に変わるだろう。

「…俺の機嫌が悪いのが分かってるなら、何か言うことがあるんじゃないか?」
「お前の言いたいことは分かる」

嘘だ。わかっていたらそんな言葉がでるものか。
「跡部と勝手に試合をしたことは謝る。あいつの力量を読み違えてお前に面倒を掛けたことも。
 しかし、お前はたとえ俺が跡部に勝っていたとしても怒るだろう。それは理不尽だ、と思う」
「何か理不尽なんだ」
「だから、勝っていたのなら怒る理由はないだろう。立海に単身乗り込んできた奴を
 放置するわけにもいくまい。圧倒的に叩きのめしてやるのが筋というもの。
 だから一番適任の俺が試合をした。お前にはまだ負担を掛けたくないと思った。何か悪いか?」

「悪い」

即答。
そうだとも。悪い。

「放置しておけよ。それが一番の屈辱だろ」
「正々堂々、だ」
「それは試合でやればいいことだろ。試合前に敵を強くしてどうする」
「跡部はもう引退済だ。次はない」
「―――――あるんだよ」

俺が言ってやると、真田はいぶかしげに帽子のつばを持ち上げた。

「あるんだ。監督からのリークだけど、今年の全国の開催地枠は東京が取る。関東ベスト6以下から一校出るはずだ」
「……しかし、氷帝とは限らないのでは」
「………。今年の関東大会の優勝校に2勝3敗1ノーゲーム。単純に見て、立海(うち)と変わらないな?
 しかも当時は手塚がいた。都だって勝てるチームを推したいんだ。氷帝以外にない」
「そうか…。それは確かに余計なことだったかもしれんな」

真田は、それでもまだのらりくらりとはぐらかす。

「しかし、知らなかったのだから、それは許してもらいたい」
「言い訳するな、真田。お前は引退済みの選手に同情したんだ」

ああ、何が気に入らないのか分かった。
真田が試合をしたことが気に入らないのだ。
全国に行けない奴を哀れんで引導を渡してやろうとしたこと自体が気に入らない。
同情だろうが他校に優しくするな。

「幸村」

真田はお気に入りの帽子を脱ぐと、夏のまだ昼間の熱が漂う空気をはたはたと扇いだ。
まるで俺がもの凄い我が侭を言っていて、それを窘める大人にでもなったかのような余裕。

「お前は他人に同情するなと言うが、それを咎めないでもらいたい。
 俺はお前に同情したことはない。
 だから俺が他の誰を哀れんでも、それは「お前を放っておいて他に優しくした」という意味ではないんだ」


「真田」


逆上ではなく、体中の血管が一気に冷える。

「じゃあなんだ。この一年お前は何で俺に優しかった。チームメイトの義務か? 幼なじみだからか?
 不本意とは言え半年のブランクがある俺は、同情の余地もないのか?」
「だから、違う」
「なにがなんだよ」
「皆まで言わせるな。精市。普通、人は、同情ではなくて、他の理由で病室に通うものだ」
「……お前ってフツーかなあ?」
「普通だ」
「じゃあ、他のみんなと同じで? 俺が心配で?」
「そうだ。お前が好きだからだ」


真っ向勝負とはいうが、こんなことはとても目を見て言えない。
真田は帽子を深く被り直しながらそう言った。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― タカムラさん原案です。

設定その後>
真田はこの後クルッと進行方向に向き直ってスタスタ行っちゃい、
まんまとやられた幸村はハッと気付いて往来で
「言い逃げるな!!…最低だぞ! ××××! ××××!」と叫び、<往来で言ってはならない単語
ダッシュに舞い戻ってきた真田に怒られました。
そして静かにずっと言い争いながらいつもの帰路につくのでした。


あれなんですよ。私が原案聞いて書き上げると、
多分タカムラさんの想定より「いわゆるハッピーエンド」に近くなってると思うのです。
だからどうということもないんですが。

てゆーか、なにげに跡部の扱い酷いんですが、(それは私の裁量で書いた)
まあ幸村が目の前にいた場合の真田の跡部観はこんなものだと思う。





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『6/4』



「誕生日おめでとう」

と、真田は和紙に包まれた小さな箱を柳に差し出した。

「固形の墨だがいい色が出る。使ってくれ」
「蓮二おめでとう。はい、自家製のハーブティ」
「ほれ参謀。アメちゃんやるぜよ」
「おめでとー。これガム盛り合わせな」
「おめでとうございます柳君。これは私から。ハンカチですが」
「普通のノートだけど…、切らしそうになって時々焦ってるし」
「…意外と見ているんだな、ジャッカル。顔に出したつもりはないんだが」

皆、ありがとうと柳が頭を下げた後、幸村が少し意地悪そうに笑った。

「でもなんだか付け届けみたいだよね」
「…それは、まあ」
「参謀には日頃から……」
「色々世話になってるし」
「いや、本当に蓮二には感謝しているのだ本当に」

「焦って繰り返すと逆に怪しくなるから、やめた方がいいぞ。弦一郎」
「それで、赤也は?」

「う……!?」

部室の隅でコソコソ着替えていた赤也が、びくっと肩を振るわせた。

「まさか、忘れていたとか?」
「いやいやいや。そりゃあないナリよ?」
「柳参謀の誕生日だぜー?」
「いっちばんこの部内でお世話になってるもんなあ、赤也?」
「主にテスト前の赤点対策にですね」

ううう、と決まり悪そうに振り返った赤也は、意を決したように背筋を伸ばして柳に詰め寄った。

「柳サン!」
「なんだ?」
「誕生日おめでとうございます!」
「………ありがとう」


赤也の斜め45°以上の最敬礼を初めて見た三年生は、一瞬の後、「柳ずっりー」と全員で口を揃えた。


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みんな赤也(末っ子ポジション)が大好き。
真田も幸村もみんながみんな、「一番慕われてるのはオレ」だと思ってる。
上手いなあ…赤也。

後日up予定の『6/3』と連作。