『50%の確率』



u-17合宿の始まったその日、越前はいつもどおりに遅刻気味で会場に現れた。
混乱の中で早々に高校生を叩きのめした越前は、参加資格のボールを弄びながらすっと一人の三年生のそばに寄る。

「お久しぶり、幸村サン」
「ああ、久しぶり。越前」

日本で最後に試合をした相手は、特に含みもないしなやかな笑顔を返した。
病み上がりの雰囲気も既に消えて、目の光は彼本来の穏やかな色に戻っている。

「ボウヤはやめてくれたんだ?」
「そっちの方がいいならそうするけど」
「リョーマでいいよ」
「?」

会話の流れにひっかかるものを感じて、幸村が首を傾げた。
対する越前は、青学の部員が見れば不自然なほど、ニコニコと笑っている。
どこかで見た顔だなあと幸村はふと思い出した。

「また記憶喪失かい?」
「違うけど」
「待て精市。ここは間に入らせてもらう」
「何をしに来た、こわっぱが」

幸村の親友であり同僚とも言える立海の二人が会話に割って入ったのに対し、越前は呆れたように唇をとがらす。

「アンタらいつもつるんでるよね。ぶっちゃけ邪魔なんスけど」
「邪魔とは何だ、邪魔とは!」
「お前のためでもあるのだぞ、越前。お前が思っているほど精市は――」
「蓮二、俺がなんだって?」

幸村に肩を叩かれて、柳は口をつぐんだ。
そのまま幸村は、初めて敗北を喫した小さなテニスプレーヤーに向かい直る。

「そうそう…。別につるむのは悪いことじゃないと思うけど。君には友人はいないのかい?」
「んー…」

その際、越前の脳裏には堀尾やカチローやカツオ、それから桃城や遠山の姿が浮かんだが、すぐに消える。

「いないね」
「そう真っ正面から言われるとフツーにかわいそうなんだけど」
「じゃあアンタ友達になってよ」
「そうくる?」
「うん」
「俺、年上だけど」
「タメ口得意だから大丈夫」
「そうくるかー」
「とりあえずメアド教えてよ」
「あいにく、安売りはしない主義なんだ」

遠回しのお断りに対し、越前はお得意の不敵な表情で告げる。

「高く買うよ?」

上目遣いで、けれど自信に満ちあふれた少年に対し、幸村は破顔一笑、清々しい笑顔を向けた。










後刻、なんで教えてやった? と眉を顰めた真田と柳に対し、幸村は思わせぶりに目を細める。

「面白そうだったからさ」
「精市…。お前のそういうところは、いつもながら感心しない」
「越前も越前だ。全く、何がしたいのやら」
「んー…。火遊び?」

爽やかな笑顔でそれを告げた幸村に対し、古くからの友人達は本人がいないところで頭を抱える羽目になった。

「アイツは元々わかっているようで、わかってないからな」
「わかっていないようでいて、わかっていることもあるが」

善意か悪意か、不注意か用意周到なのか。
旧来の友人でもわからない。それが幸村という男だった。