『その三人』



青学テニス部は名門って呼ばれてる。
でも、テニス経験者が多いのかというと、そうでもなかったり。
少なくとも、オレが入部した年の経験者っぽいのは不二と手塚と乾だけだった。

手塚は入部早々先輩たちをブチ倒して制裁喰らってたし、
乾は見るからに変人でうさんくささ満開だったし、
「不二も結構強いんじゃない?」と聞いてみたら、「うん。でも僕は手塚ほどバカじゃないからね」と笑顔で余計なことを言った。

そんなのが揃ってたんじゃ、テニスやってたやつって変わってんな、と思うには十分すぎるよ。


で、その三人の話を聞いていると、どうもこいつら元々知り合いだったんじゃないの? って思った。
少なくとも、(手塚は表情変わんなくてよくわからないけど)乾の怪しい言動にビビんなかったのは二人だけ。
あと、手塚がどのくらい強いのかとか、不二と乾はわかってる風に話をするし、
手塚と乾は、不二の言うことならわりと聞いていた。怒らせると恐いーってな扱いかな。

でも、三人とも全然仲良しには見えなかった。
不二はオレと帰るすることが多かったし、乾の話はいつもスルーされてたし、手塚は大石のやつといつも一緒にいた。
あ、こいつらライバルなのかな、っていうのがとりあえずの感想。
変なのーって。

でもいつの頃からだったかな、その三人をまとめて見かけることがちょびっと増えた。
なんでだろうなーと思っていたんだけど。
どっちかってゆーと、不二と乾が手塚にくっついてる感じ?
別に話とかするわけじゃなくてさ。
ただ、同じ場所にいるだけっていうか、一緒にいるのに話しないなんてやっぱ仲悪くね?

でも気付いちゃったんだけど、それってあれなんだよねー。
手塚が先輩のラケットで殴られてからのことなんだよねー。
…不二とか乾なりに心配して、で、一緒にいてあげてるんだと思った。
別に手塚は頼んでないだろーし、不二や乾にちょくで聞いたら「んなことないよ」って言われちゃうだろう。
でもわかっちゃったもんはわかちゃったから。

だからまあ、不二も乾も悪いやつじゃないだろうって。
んで、その二人がかばっている手塚もまあまあ悪いやつじゃないんだろーな、とは思ったなー。
まあ手塚はやっぱ苦手だけどさ。
オカタイんだもん。全然変わってないよ、そーゆーとこは。


んでね、その日何があったかっていうと、大和部長が「1年は秋までレギュラーにはなれない」って話したんだよねー。
マジ殺気立った、あのとき。
なんていうかさー、やっぱ手塚が強いわけじゃん。その時点で部長より。
でも出さないって言うわけじゃん。
別にみんな手塚の取り巻きってわけじゃ全然なかったけど、やっぱ1年にとってはスターっていうか、
まあ、ある意味手塚を中心にしてるところがあったから腹立つってこと。

なんで、オレが率先して言った。
「えーずっりー。オレ、レギュラー取るつもりだったのにー」

「……え、そうなんだ?」
と不二。
ひでー、それってオレが下手だってこと?
「つーか、無理させらんねーよ。都大会でも上の方行くと新人潰そうって奴らは多いんだぜ。
秋の新人戦ですら結構ボコられてやめてく奴多いのに三年のいる五月の大会に1年出せるかよ」
つったのは副部長。
うん、当時青学はわりとガラ悪かったよ。
いまは手塚がうるさいんでそーでもないけど。

で、大和部長が、まあ基礎強化もいい経験だと思いますよーみたいになんだかうまく流しちゃって、それでお終いになった。
まあしゃーないよね。
ケンカにならなかっただけいいよ。

手塚は何にも言わなかったし、表情を変えなかったけど、やっぱ悔しかったんじゃないかなあ。
大石がなんか慰めっぽいこと言ってたし。
不二は普通の顔で、乾もただメモってただけだった。
そのあたりが動かなきゃ抗議しようにもできないんで、結局それでそのままだったよ。

あと2年の先輩達も何も言わなかった。
言いたそうではあったけどね。
手塚と武居先輩がケンカしてからすげーの2年。
なんだか結束固くしちゃってさー。
あ、別に何かするわけではないんだけど、なんてーか、真面目っぽくなった。

なんか真面目な顔でホットに正論言う感じ。
2年を前すると、なんていうの? いしゅく? とかしちゃうんだよ。
そりゃ気にしないやつもいるけどさー。三人ほど。
そうすると、1年もまとまってかないと全然対抗できないわけー。
で手塚にまとめる気がないからそこんとこはうまくいかなかったんで、もうまとまんないなりに空気作るしかないし。
オレ結構大変だったんだよー。
大石じゃないけど胃がいたいーって感じ。

あ、それでねそれでね。
その日の帰りに部室に行ったとき、オレもう最後の方だったんだ。
そしたら手塚と不二と乾がまだ残ってたわけ。
いつも通り、なーんにも話さずに。

うわー、嫌なトコ来ちゃったなーと思った。
まあ不二とか乾なりに手塚に気をつかってたんだと思うんだけど。
部長からああゆうこと言われたわけだしさ。

したら、突然乾がしゃべり出した。

「―――そう言えば、氷帝は1年生が部長になったらしいな」

お前空気読めって思うっしょ?
でも今思うと違うんだよ。あれは乾なりに満を持して話し始めたことなんだよね。

「へぇ…。そんなことってあるんだ?」
「跡部というらしい。外部生だな」
「あ、氷帝ってほとんど持ち上がりなんだっけ? あれっしょ。金持ち多いんでしょ」
「だな」
「もしかして、跡部ってあの『跡部』?」
「跡部財閥の御曹司、だな。まず間違いないよ」
「げー。なにそれえこひいき?」
「それはないと思うけど、いくらなんでもレギュラーならともかく部長にはしないよ」
「でも普通ーありえないじゃーん」
「だよねぇ」

オレと不二が話していると、乾が待ってましたとばかりにノートを広げた。

「そこで俺は偵察に行きたいと思う」
「―――――行ってくれば?」

うん。不二は乾に結構冷たいと、オレは思うよ。

「じゃなくて、みんなで行かないか。って誘ってるんだよ。この四人で」
「………え、オレも誘われてんの?」
「というか、手塚もカウントしてるの?」

ホント不二は言うことが違う。
なんていうか、結構冷たいを通り越して、厳しいよね。

「経験上、こういうのは大勢で行った方が怪しまれないんだ。ちなみにちょっとしたツテで氷帝の制服が2着手に入ったんで」
「2着で4人は無理っしょ」
「不二が持ってるし」
「えー?」
「あー、うん。中学決める前に母さんが先走って買っちゃたのがあるけどね。僕と裕太の分。…よく覚えてたね、乾」
「役立ちそうなことは忘れないよ」
「で、ホントに行くの?」
「うーん、面白そうかもね。ホントに強いなら見ておいて損はないし」
「木曜は部活休みだろ? 氷帝はやってるはずなんだ。今なら新入生の見学ってことで、怪しまれずにコートに近付ける」

その後乾は当然のように、手塚も行くだろ? と聞いた。
あのオカタイ手塚が無理だよーと思ったけど、意外にも手塚の答えは「行こう」だった。
あれにはマジびびったけどね。

思うに、手塚もそれなりに怒ってたっていうか、ストレスだったんじゃないの?
そう思うと、わざわざ乾はこのタイミングで、みんなを誘ったのかな、と思うわけ。

で、木曜に不二の家に集合してコスプレっぽく着替えて、不二のお姉さんにバシバシ写真を撮られてからしゅっぱーつ。
ちょっと緊張したけど、無事に校内に入れた。
やっぱ四人もニセ新入生が連れ立ってくるとは流石に思われてないらしいよ。
でもセキュリティ厳しいっぽかったから、バレたらしゃれになんないなー、ってちょっと思った。
けどさーなんかこの三人と一緒だと、わりと何でもなんとかなるような気がするんだよねー。
なんでだろ。

そのままいいこと中には入れたけど、氷帝ってむっちゃ広いからさー。
テニスコート見つからんないんだよ。
そしたら不二がそのへんの先輩つかまえて話しかけてた。

「すみませーん。テニス部の練習を見学したいんですが」
「あー? お前らもテニス部希望か?」
背の高い上級生はバスケットボールを持ってたんだから、そりゃそういうよね。

「一年は軒並みテニス部に取られちまうなあ」
「やっぱ、強豪って聞いてますから。それに、今年部長一年だし」
「ああ、跡部な。あいつは入学式から凄かったからなあ」
「ですよねー」

…オレ、このときすっげー不二を尊敬した。

「でも、1年でも部長になれるものなんですね」
「テニス部は実力重視だからな。なんでも部長以下全員倒されちまったらしいぜ。そりゃしょーがねえよな」

う。どっかで聞いた話…。
ちらっと手塚を見ると、ちょっと気になった感じだった。
いや手塚の表情なんてちーっとも分からないんだけどね。
でもなんとなーくそわそわしているようないないような?
オレの気のせいかも。

「そんなに強いんだー。やっぱ見に行きたいな。行こうか」
「あー、気が向いたらバスケ部にも寄ってくれよ」
「はい。ありがとうございましたー」

「……完璧だな、この布陣は」

乾はいま何にもしてないけど、今日の四人パーティーに満足したみたいだった。
手塚がテニス強くて不二が話うまくて乾が情報集めてて。ドラクエかっつーの。
あ、オレ勇者で。
特に役に立ってないけど。

そしてテニスコートまでダッシュ。
金網にしがみついて「どこどこーあとべーどこー?」とガシャガシャと揺らしてみた。
んで勿論不二に「動物園じゃないんだから」と言われたり。

乾はペンを取り出して、ノートが手元になくてハッとしてた。
不二に目立つから絶対にダメって言われて今日は持って来てないのをまーた忘れたみたい。
ちなみに、ここにくるまで5回目でしたー。

そんななかで、ずーっと静かだった手塚がコートの中の一点を指さした。
「…あいつだ」

それは、アタリだったと思う。
派手とかそんな風には思わなかった。けど、強かった。
基礎練基礎練言われててうんざりしてたけど、コートの外からみると、基礎が強いってことはホントに強いんだってわかった。

「……来てよかったな。これは見ておくべきだよ」
「そうだね、乾。これは、負けたかなあ?」
「えー手塚より強い? どう?」
「………わからない」

オレが聞いて、手塚はそう答えた。
あ、わかんないんだ。そんな答え初めて聞いたからちょっとびびった。
そして手塚もオレと同じように金網をガシャガシャ掴んでたからもっとびびった。
手塚のそういうのって、新鮮じゃん?


で、突然後ろから声を掛けられてオレ達ちょっと焦ったわけでー。
「よぉ。見学か? なんなら中で見てくか?」
話しかけてきたのは長髪の小さい奴で(つまり1年)、今なら宍戸だと言えるけどそのときは全然。

「…入っていいの?」
不二はホント場になじんでる。不審者とか絶対思われないよ、これ。
「いいぜ。部長が見学自由だっつってるからな」
「部長って、跡部だよね?」
「どういう人なんだ?」
さりげない感じに乾が質問する。

「どういうって、見たとおりの奴だよ」
「彼、強いよね」
「だな。マジあいつ特別だよ。そういやお前らみたことないけど、何組?」
「1組。不二だよ、よろしく」
「3組の宍戸だ。よろしく。…ところでテニスやってたりすんのか?」

うん、オレも不二の言い方はテニスやってた人の言い方だと思ったよ。

「何年かね。千葉にわりと長くいたよ。六角には友達もいる」
「へー六角。あそこはずっとライバルだからなあ」
「宍戸はわりと長いの?」
「まぁな。それでも跡部には全然勝てねーけど」
「……試合、できたりする?」
「オレと? いいぜ」
「ううん。跡部と」

ちょっとー、何言い出しちゃってんの不二!?
流石にバレるよ、バレる。
したら宍戸は、あーあって感じで両手を広げた。

「あんま弱い奴とはやりたくねえってよ」
「――――いい勝負になると思うよ」
「お前、そんなに強いわけ?」
「あ、跡部と試合するのはこっち」

って、不二は手塚を指さした。

「やりたいんでしょ、手塚は」

思うんだけど、不二って手塚のこと好きなのか嫌いなのか、ホントわかんないんだよね。
こういうところを見ると好きなんじゃないかと思うんだけど。
で、手塚が黙って頷いた。

「…強いわけか?」
「ここ二年以内の話でいいのなら、立海に入学した真田って選手にボロ勝ちしたことならあるよ」
「はぁ!? 真田ぁ?」

……手塚の名前は知られてなくても、立海の真田っていったら有名だってことだねー。
まあ、そう言って手塚自慢をしたのは乾なわけだけど。
手塚も、ちょっとはしゃべってもいいんじゃないかなあ。ずっとお任せモードだよ?


その後、宍戸はコートの中に駆けてって、あとべーに話しかけてた。
結局どうなったかっていうとー、手塚はラケットもユニフォームもジャージもぜーんぶ宍戸に借りましたー。
そして試合。
じっさい凄かったよー。うん、口では言えない。
すっげー盛り上がった。3−3までしかやれなかったけど。

オレの脇で不二と忍足がそれぞれ自慢始めてたし。
「まだ手塚本気じゃないけどね」とか「跡部の実力はこんなものやない」とか。
乾はノートがないのを諦めきれなくて、油性ペンで手のひらに字を書いてたし。

オレは初めて手塚の本気っぽいテニスを見たからすげー感動しちゃったよ。
先輩相手に試合してるときとは、もー全然違うの。
ボールの早さも、試合のテンポも。

でも、監督が来る! って誰かが叫んでそこでみんなばたばた撤収。
てゆーか、当然オレ達部外者だってばれてました。
途中で乾に、「こればれてる?」って目で合図したら「だね」って眼鏡を押し上げたし。
でもみんな黙っててくれたね。
つか、最後には向日に「お前らどこ? はぁ? 青学。また弱いトコから来たなあ」って言われたので、鼻弾いてやったけどね。


で、荷物とか持って逃げようとしたけど、手塚は宍戸の服借りっぱなしじゃん。
わ、どうしよどうしよ、と思ってたら宍戸が走ってきて乾の油性ペン取り上げて、
だだーって走り書きしたわけ。
携帯番号、ここに連絡しろって。

それはいいんだけど、それ不二の右腕だったんだよねー。
うん、デカデカと。
「ちょ……!?」って不二言ってた。面白かった。


そんで、帰ってきて不二の部屋で着替えたわけなんだけど。
手塚は速攻さっきの試合の続きのイメトレ始めて自分の世界に入っちゃうし、
乾はノートをひたすら書いてて話しかけても返事ないし、
不二は「もう、明日体育あるのに」って言いながら、石けんで手を洗いに行って帰ってきませんでした。

―――で、オレ放置ね。


それでオレはわかっちゃったよ。
こいつら別に仲悪いんじゃないくて、それぞれ自分勝手なだけじゃない? って。



まあ、そういうわけで、桃も海堂もおチビも。
ああゆう空気読めない自分勝手な人たちになっちゃダメだって話だよ。わかった?








「…はぁ」
「話は、聞きましたけど」

とは桃と海堂。むう。返事がない!
いい話したのにー。

「……別に返事してもいいっスけどね。いい話だったと思うし」
おチビはいつも部室の中でうちわ代わりに使っている帽子をぱたぱた動かすのをやめて、言った。

「でも、やっぱ『その三人』が先輩のすぐ後ろにいるわけで、ちょっとヤバイと思いますんで」






………おチビおチビ。
そーゆーことは今度から、もうちょっと早くに言ってほしいかなー?