ゲーム:ドキドキサバイバルのネタバレをしています。
というか、ネタバレしているというより、ネタバレを知っていないと話が意味不明です。







『サバイバル』



全国大会前に強化合宿をしたい。

「というか、する」


その話を跡部が振ってきたのは、俺が九州から帰ってきた翌日、呼び出された喫茶店でのことだった。
俺はよほどもっと大事な話があるかと思っていたので、「電話では話せない」という文言で呼び出された用件がそれだったことに、大いに不満があった。

「合宿ならすればいいだろう。竜崎先生が判断したことなら、従うつもりだ」
「だから俺は、テメーもこの話に一枚噛めって言ってんだよ」
「だから俺は、遠慮させてもらうと言っているだろう。…部員を欺すのは気が引ける」

跡部の真っ直ぐな物言いを、こちらも鋭角で跳ね返す。
すると、彼は青い瞳を店の外に向け、呟くように言った。

「別に、悪意があってやるわけじゃねえし。体力・精神面での強化は悪くねえと思うけど」
「お前が榊監督の提案に乗ったのは分かったが、リーダーとやらをやることにも同意したのか?」
「大人数を前にシラを切る演技も、経験しといて損はねえよ。それに俺は、」

言いかけた跡部は、突然沈黙した。
瞳がほんの僅かに揺らいで、まるで失言に躊躇したように見えた。
跡部にしては珍しいことだった。


「それに?」

追求すると、普段通りの顔で空惚ける。

「…それに、リーダーに相応しいのは俺くらいしかいねえだろ?」
「今ここで、シラを切ることはないんじゃないか?」
「なんだよ」
「さっきの話と文脈が繋がっていない」

「…それに、うちの監督と、竜崎先生の発案だぞ。これは」
「そうか。それは初耳だ。で?」

「……それに、青学はもともと、こういう無茶な合宿は伝統でやってるって聞いた」
「それで?」

「あーもう!」

俺の追求に跡部は業を煮やしたようだった。
じっと低温の視線で俺を睨み付け、得意のバリトンの声域で、敢えて平坦な声で告げる。

「それに俺は、てめーと一緒にやるならいいかって思ったんだよ」


「…………………」
「…………………」

「でも、別にお前である必要はないし? 他に部長はいくらでもいるしな。幸村とか」
「この間退院したばかりだろう。そんな激務に就かせる気か?」
「真田がフォローしてくれるだろ」
「あいつは隠しごとは出来ないぞ。昔なじみから言わせてもらえば」

「…ルドルフでいいかな、赤澤」
「観月がいないとダメだろう。あちらも」

「……山吹の南」
「問題児が多すぎて手一杯じゃないか?」

「………不動峰の橘が…」
「あそこも問題児が多いし、フォローする三年がいない」

「…………比嘉がいるだろ、木手だったか?」
「関東の学校となじみがないから、皆をまとめるのは無理だろう」

「……………六角。葵」
「論外」



「何が言いてぇんだよテメーは!」



バン、と跡部はテーブルを下から蹴り上げる。
店の注目が集まったが、互いに意に介さない。

俺は黙ってブレンドコーヒーを飲み干した。
跡部は舌打ちして伝票を握りつぶす。


「邪魔したな」
「待て跡部。質問の答えを聞いていけ」

席を立ち、なんだよ、と吐き捨てる跡部と低音の応酬。

「俺の言いたいことはこうだ。『初めから俺とやりたいと言えばいいのに』」
「…………」
「もう一つ」
「あぁ?」

「気が変わったので、そのリーダーとやら、やらせてもらう」
「…今の会話のどこに気が変わるポイントがあったんだよ」

「こういう合宿は青学の伝統だしな」
「それはさっき言った」

「それに、竜崎先生の意向だし」
「それもさっき言った」

「全員の前で演技するのも経験の一つだし」
「それもさっき俺が言った」

「それと、お前が他の奴と組むのはとても嫌だ」


「―――それ、一番最初に気付くべきじゃねえのか?」
「お前こそ、合宿の話なんてのを切り出す前に、俺に言うべきことがあったんじゃないか?」


あー…、と深く息を吐き、跡部は椅子に座り直した。
気怠い動作で手の甲に顎を乗せ、視線を完全に外す。
照れ隠しなのは分かり切っていたので、こちらが折れて、水を向けた。









「ただいま」
「おかえり」