『生徒会・1』
一月に一度、区の各校集会がある。
各学校の生徒会役員が集まり、学区内の問題点や生徒会の運営について話し合う会議のことで、公立、私立、共学校の区別なく、活発な議論が行われている。
場所は各学校の持ち回り制で、今回の会場は山吹中。
今秋の生徒会選挙が終わり、一新された新しい役員達が一堂に会す。今日はその日だった。
「こんにちは、青春学園の方でしょうか?」
早々に会場について着席していた手塚は、声を掛けられた左隣に顔を向けると、ファイルの束を抱えた髪の長い女生徒の姿が目に入る。
「会長の手塚です」
座ったまま軽く会釈すると、女生徒は立ったまま微笑んで頭を下げた。
「私、氷帝学園生徒会の柚木と申します。本日はよろしくお願いします」
「こちらこそ。…とすると、あなたが氷帝の会長ですか?」
基本的に、今回の集会は会長同士の顔合わせだと聞いている。手塚の隣に設けられている席は氷帝の代表者のためのものだった。
けれど、彼女は鷹揚に首を振る。
そのしとやかの仕草に一瞬見とれ、続く彼女の言葉に手塚は瞬いた。
「いいえ。私は副会長で、跡部会長の代理です」
氷帝の跡部と言えば、部の関係で聞きすぎるほど聞いた名前だ。
というか、つい最近の新人戦で痛い目をみたばかり。
眉間に皺が寄るのが自分でもわかった。
「跡部というのは、あの…?」
「ご存じなんですか?」
「俺が知っている“跡部”は居丈高で常に喧嘩腰でおおよそ生徒会長など似合わない人物なんだが……同じ名字の別人かもしれないな」
「氷帝学園に跡部は一人しかいませんが」
「…テニス部部長の?」
「はい。頭脳明晰、文武両道。跡部会長は我が氷帝学園の誇りです」
それこそ花が咲くように顔をほころばされて、手塚は二の句を継げなかった。
とりあえず目眩を抑えて自分の記憶の中の跡部の姿を呼び覚ましてみるのだが、どこをとっても「我が校の誇り」に値する人物は見えてこない。
いや、一つだけ。都大会の決勝で青学テニス部の部長を下した、あの瞬間だけは評価に値しなくもないが…いやしかし、それにしても、だ。
「俺が会ったのはハイドの方だな…」
「誰が二重人格だって?」
背後から両肩を鷲掴みにされ、手塚は声を険しくした。
「跡部か」
「よぉ、手塚じゃねーの。まさかこんな所で会うとは思わなかったぜ」
「それはこちらの台詞だ。この間は随分と世話になったしな」
「ま、青学なんぞはまだまだ氷帝の敵じゃないってこった。ところでいつまで女性に立ち話をさせる気だテメーは。失礼だろうが」
「そんなつもりは…。そもそもお前が会長だというのなら、代理の彼女に仕事をさせてどうする」
それを聞いた跡部は大きく肩を竦めた。
隣に座った女生徒が、苦笑して口を開く。
「跡部会長はこの会議の議長ですから。今後も私がこの席に座らせていただきます」
「議長? …何でまた」
よりによってお前が? という続きは跡部にははっきりと聞こえたらしい。
「跡部会長は去年もこの会議に参加されていたので、選ばれたのだと思いますけど」
「去年も? ということはお前、一年の時から生徒会にいた訳か?」
「ま、俺様くらいになるとそれも当然、ってか」
「こんなのが二年も会長とは、どうもお疲れさまです」
話を振られた副会長の感想は、「仲がよろしいんですね」だった。
どこが!? という、抗議の言葉が重なったところで時刻に到達。
「とりあえず、挙手最低二回」
「議長が発言を強要するな。というか、人を指差すな」
その日の会議は何事もなく、通常通り、平穏に終了した。
…と、翌日、手塚は大石に告げた。
その後、見知らぬアドレスからメールが届いたので、「来月は覚えておけ」と返信し、話はそこからである。
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