『経過時間・1』
≫8月10日 PM
08:12:42
「跡部、ちゃんと聞いとるん? 豪華客船やで豪華客船。なして青学やねん。当然うちら氷帝が招かれるべきやろ?」
「煩いな。俺様は豪華客船なんて乗りなれてんだよ。にしても、お前いまどこにいるんだ」
「池掘公園の縁日」
「どおりで。ガヤガヤうるせーんだよ。どうせ、岳人に愚痴言って聞いてもらえなかったんだろ」
「げ、何でわかるん?」
「わからいでか」
「なんや。がっくんも跡部も冷めとるな〜いまどきの若者やな〜。氷帝よりも青学の方が評価されて悔しくないんか」
「評価されるって誰にだ」
「だからその…招待試合を企画した奴にやろ?」
「それが誰かって聞いてるんだがな」
「んー。なんやったかな〜こう、南町奉行って感じの名前…」
「……お前はほんとに現代に生きてるのか?」
「あ、桜吹雪や。そうそう、確か乾がそう言っとった」
「乾? なんでまた」
「なんか念のためとか。ホストの身元が割れないとかなんとか」
「あー確かに、桜吹雪なんて資産家は聞いたことがねえなぁ」
「せやの? …あー!? ちょっと待ってがっくん。なに一人で食べまくってん!」
「おい! ――もう、切るからな。食べ歩きもほどほどにしとけよ」
≫8月10日
PM
08:25:13
「遅くに呼び出して悪いな、澤井。足立も。ちょっと調べて欲しいことがあるんだが」
「お気遣いなく、これが仕事ですから。それで、この『桜吹雪彦麿』氏について調べればいいんですね?」
「あぁ、青学の連中がその船に乗っているらしい」
「クイーンズレイ号? うーん、この規模の船でこの名前聞き覚えがないなあ。海運会社の方から来歴と現在位置を調べときますよ」
「すまないが、よろしく頼む」
≫8月10日
PM
08:45:57
「景吾様。情報班の方から連絡が入っておりますが」
「電話か? すぐに出る」
「お、足立。悪かったな。遅くなって」
「早風呂ですね。入浴くらいゆっくりした方が健康にいいって聞きますよ」
「普段はこの倍はかけてるから。つーか、余計なお世話だ」
「気になって短縮してくれたのは正解でしたね。ヤバイですよ、お友達」
「誰が誰の友達だって?」
「うわ。そっちに引っかかりますか〜、って。いやホントに笑ってる場合じゃないんですけどね」
「何?」
「例の南町奉行、賭博の胴元ですよ。おそらく今回のテニスの試合とやらも賭け試合ですね。今までとくらべて規模が桁違いですが、海に出れば多少大袈裟にやってもバレないと思ったんでしょうかねぇ」
「―――マジかよ。澤井は?」
「うちの海運会社の方に連絡まわしてますよ。どうも船名が偽名らしくて、港湾関係者と連絡取ってますが、まだかかりそうですね。何しろこの時間ですから」
「悪いが急いでほしい、と伝えてくれ。つうか、何だ? 俺はどうすりゃいいんだ」
「とりあえず招待客をあたってみましょうか? 桜吹雪氏は怪しげなイベント会社を持ってますからね。招待客リストがあるにこしたことはないでしょう。ま、ちょっとしたアクセスが必要かと思いますが」
「やってくれ。なあ、賭博って現行犯逮捕できるよな」
「官公庁に動いてもらうんですか? まあ未成年の保護という名目がありますから、なんとかなるかもしれませんが。けど、そんなに急ぐ必要がありますかね?」
「つまりだな、賭け試合で儲けるには胴元は勝敗を操れないと話にならないだろ」
「ですね」
「そのためには八百長をする必要がある」
「ええ、それが?」
「あの青学の奴らに、八百長なんてできるわけがねーんだよ」
「ははぁ。『八百長をするわけがない』ではなく『八百長ができるわけがない』ですか。なかなかいい根性の中学生ですね。日本の将来は明るいなぁ」
「あーまあ、奴らのことはおいといて、だ。とりあえず、胴元が黙ってねーだろそれは。もしかしたらその桜吹雪ってのは裏の方ともつながりあるかもな。その筋にもあたっといてくれないか?」
「はー、そっち方面なら灰本の担当ですね。連絡しときますよ。むしろこれは班員全員呼び出しかな?」
「深夜特別残業手当出すから、って言っといてくれ」
「アイサー。久々に大きい仕事で楽しみです」
「いや、わりと深刻な事態だから。真面目にやってくれよ」
「ご心配なく、俺はいつでも真面目ですから」
「………信じてるよ」
≫8月10日
PM
09:34:46
「もしもし、監督。夜分遅くに申し訳ありません」
「やれやれ、夏休みでも私は『監督』かね。もう少しくだけてくれてもいいと思うが」
「それはすみませんね。呼び慣れているものですから」
「それで? 相談とは」
「単刀直入ですみませんが、青学の連中が招待試合ってことで船に乗ったらしいんですがね。どうもそのホストの身元が怪しいことがわかりまして」
「怪しいというと」
「とりあえず、今のところは賭博を主催してきた来歴を押さえてます。あとはちょっとヤバい筋とも関係してることがわかってますね。こっちはまだ証拠が挙がらないんですが、家宅捜索すれば物証くらい出てくると思います」
「…こちらに資料を送ってくれ」
「手配中です。で、官公庁の方への繋ぎを取ってほしいんですけどね」
「簡単に言ってくれるな。お前はまったく」
「流石にツテがないんですよ。俺には。頼りにしてます、叔父さん」
「都合のいいときだけ甘えてくるのはずるくないかね?」
「学校では甘えられない分、休み中はね。ダメですか?」
「いいも悪いもないだろう。教育者として見過ごせんよ。明日中にはなんとか動いてもらえるように調整してみよう」
「ありがとうございます」
「それで? 彼らはなんと言っている?」
「というと?」
「青学の生徒たちだよ。連絡を取っていないのか?」
「…海上じゃ、携帯は通じませんが」
「船内電話があるだろう?」
「それはそうですけど…、なんでこっちから連絡取らなきゃならないんですか」
「心配だろう?」
「…俺は別に連中の心配なんてしてませんよ!」
「怒ることはないだろう、景吾。お前は手塚君がかかわっている件については幾分刺々しくなるが、自覚はあるかね?」
「―――余計なお世話です。至急資料送りますからこの件頼みましたよ! 失礼します!」
≫8月10日
PM
10:02:06
「クイーンズレイ号の現在位置でました。それから、船内に連絡員を確保。現状を確認中です」
「今から出て追いつけそうか?」
「うちの海運の船を数隻確保しましたが、船員のほうがまだ揃ってませんね。明日の日没までに追いつきたいなら午前四時出発が限界です」
「日没じゃあ遅いな、もう少し早くしたい」
「船員が確保出来次第連絡が入ります。それから、例の船ですがやはり偽名ですね。元の名前はガイダイ号。書類上ではすでに廃船になったはずの骨董品です。どうも、見た目だけ改装してあるようで、改修業者が判明しました。業者は航行はしないと聞いていたようですね。長く持つ船ではないとのことでした。それから、資料をうちの海運にも回したんですが、やはり安全基準には達していないとの回答が」
「えーと、澤井。それってつまり『沈むかも』ってこと?」
「何かトラブルがあれば」
「一隻だけ出すつもりだったんだけどな…。乗客全員収容するのに何台必要だ?」
「招待客リストがまだ入手できていませんのでなんとも。しかし、乗船している者と話したところでは千人単位で考えないといけません」
「―――あとどれだけ増やせる?」
「グループの他の会社もあたっていますから、もうしばらくお待ちを。それから、賭博の証拠写真をこちらへ送らせましたので、至急榊様に転送します」
「写真? 映像はないのか」
「通信状態が悪くて映像までは…。向こうも素人ですし」
「連絡員は招待客か?」
「ま、そうですね。数人乗客が判明しましたので、お話してこちらの指示通りに動いていただけることを確認しました。向こうとしても、法に触れる行為の現場にいたとあっては外聞が悪いですからね。大変協力的です」
「自業自得だ。ってことは、オッズは手に入ったのか?」
「ええ、すぐにそちらに送ります」
≫8月10日
PM
10:16:44
「景吾様、資料をお持ちしました」
「ありがとう、木原。つーか、手塚倍率高けーなぁ。ダントツだ」
「手塚様と申しますと、景吾様と試合をされた方ですね」
「まぁな。俺様のライバルとして、この評価は妥当ってとこだ。にしても、この率じゃやっぱり負けを強要されてるだろうなぁ。…絶対断るだろうけど」
≫8月10日
PM
10:39:32
「乾か。なんだよこんな時間に」
「いやぁ、跡部。悪いね。ちょっとうちの部がまずい事になっててね」
「どうした? 南町奉行に拉致監禁でもされてるのか?」
「……なんだ、知ってたのか。それじゃ話が早いな」
「知っているも何も、忍足に言付けてったのはお前だろ」
「うん。実のところ、出発前にホストの身元を調べておきたかったんだけど、間に合わなくてね。布石を敷いておいたのが正解だったってわけだ」
「一応、警察に動いてもらえるように頼んでるよ。証拠も押さえてる。あとはお前らが時間を稼いでくれるだけだ」
「兵は拙速を尊ぶ。流石だね」
「余裕だな、乾。まさか八百長に乗ることにしたのか?」
「まさか。皆にその気はないし、何よりも部長が許さないよ」
「その部長はどうしてる?」
「あー、どうやらホストに刃物をちらつかされたらしいよ。監禁とかはされてない。直前までは、言うことを聞くふりをすることに決めたからね。今は、相手チームのシングルス1の様子を見に行ってる」
「シングルス1というと、あの越前リョーガとかいうふざけた名前の奴だな」
「いやそれが、本名らしいんだよね。越前とアメリカで一緒に暮らしていたことがあるらしい。顔も似ているし、兄ではないにしても親戚筋だよ。そうそう、ついでに彼についても調べておいてくれないかな?」
「プライベートに踏み込むのは感心しないが」
「でも手塚が」
「手塚ぁ? なんでそこで手塚なんだ?」
「どうも、気にしているらしいんだよね。まああの年齢でこういう業界にかかわっているのもさる事ながら、どうも越前と因縁が深いのが気に掛かるらしくて。『兄』のつもりでいた『弟』が別の人間になつくのは気に食わないだろ?」
「…てか、奴が兄って面かよ。どっちかってーと父親だろ」
「まーね。でもそれを本人に言える勇者は青学にはいないなあ」
「わかった。調べとく。とりあえず、試合を引き伸ばせよ。あと、意地を張るのも大概にしとけ。結構状況やばいってのを自覚しろ」
「あぁ、わかってる」
「それから、この件で三十人以上が不眠不休だって事も覚えとけよ」
「―――肝に銘じるよ。できる限り連絡をとるから」
「あと乾。もうひとつ」
「何かな」
「これって俺への直通回線なんだが、どうして知ってる?」
「それは秘密にしとくよ。やあ、役に立ってよかったな」
≫8月11日 AM
01:28:51
「乗客のリスト入手しましたよ。いま澤井が全員収容できるだけの船数を揃えてます」
「間に合いそうか?」
「なんとか。それとですね、乗客をざっとみたところ、使えそうな人材はいませんね。どっかの議員とかいればマスコミに晒せたんですが。報道が動けば上の方の動作も早くなると思われるんですがねぇ」
「今のままじゃ青学の奴らが迷惑をこうむるな。そっちは諦めるか。むしろ報道規制が必要かもな」
「あと、船内制圧要員は確保できました」
「そっか。よかった、頼りにしてる」
「狙撃班を構成しますか?」
「……一応。なるべく使いたくないが、人命掛かってるしぁ」
≫8月11日
AM
03:17:39
「監督、こっちはそろそろ出発します。もう行かないと間に合わないので」
「そうか…。こちらはまだ出動が確定していないよ。残念だが」
「わかりました。動きがあり次第教えていただけますか? あ、回線は衛星経由に切り替えますから」
「承知した。……景吾」
「なんですか?」
「人のこともいいが、お前も気を付けて、な」
「はい。叔父さん。では、ちょっと出掛けてきますので」
「うむ。行ってよし」
≫8月11日
AM
03:58:10
「出られそうか?」
「今確保してある船は大丈夫です。正直言えばもう少し増やしたいところですが。英国筋はダメですか?」
「あー…でも御祖母様には頼りたくないしなあ。最低限にしとくか」
「それでは十分後に出航可能です」
「澤井も来るのか?」
「ええ、同行するのは私の他に煤賀が。足立と灰本は残ります。曰く、「ラボの環境がないと俺ら何も出来ないから」だそうで」
「そりゃそうだな。じゃ、出るか」
「ええ。それから船内に部屋を用意しましたので、仮眠を取ってください」
「え、でもみんな起きてるんだろ?」
「…貴方が起きていても私は構いませんが。では、目の下に隈を作ってお友達に会いに行く気ですか?」
「だから友達じゃねえっつーの。…寝るから何かあったら起こせよ」
「指示が必要な時は問答無用で叩き起こしますからご心配なく」
≫8月11日
AM
10:48:23
「試合結果は?」
「二試合目、乾・河村ペアは現在4-2で進行中だそうです」
「あーもどかしい! リアルタイム中継出来ねーのかよ」
「できません。諦めてください」
「まあ、青学が勝つつもりなのはもうわかってるけど。第一試合の損失額だけで、卒倒するなあっちは」
「このままで済めばいいんですが」
「まぁ、無理だろうなあ。逆に勝てばボロい商売なんだし」
「貴方ならもっと巧くできるんじゃないですか?」
「まあな。やらねーけど。金を使って金じゃないものを稼ぐのが賢いやり方だろ?」
「それ、オーナーの口癖ですね」
「悪かったな。俺はお爺さん子なんだよ」
「別に悪いとは言っていませんから」
≫8月11日
PM
02:46:31
「跡部、なんとか逃げられたよ」
「乾か。つーか逃げられたってことは監禁されてたわけか?」
「まあね。いま同じく逃げ出した相手チームの選手と一緒に行動してる」
「こっちはまだ着きそうにない」
「位置は掴んでるんだよね?」
「当然だろ。とにかく目立つなよ。俺が行くまでどっかに隠れとけ」
「いやでも手塚達を助けに行かないと。それにしても、なにかそろそろ銃火器が登場しそうな雰囲気なんだけど…」
「あ、多分持ってるぜ。気を付けろよ。一応医者も連れてきてるけど」
「…素晴らしい配慮だね」
≫8月11日
PM
04:30:18
「船影確認できました。……煙が見えるそうですが」
「マジかよ? もっと速度上げてくれ」
「既に限界です。遭難信号も、今、入りました」
「突入部隊は……出せねーよなあ。もう海上保安庁の船傍にいるし」
「あとは向こうに任せましょう。こちらは避難者の救出体制を整えます」
「っそれしかないな」
「……大丈夫ですよ、お友達はきっと無事です」
「だといいが…」
≫8月11日
PM
04:57:49
「―――どうやら大丈夫そうだな」
「沈みそうにはないですね。それから、逮捕状でたと榊様から連絡が」
「そりゃ重畳。って誰だよ。こんなの時に電話なんて」
「おー跡部。なあなあ、いまニュースでとんでもないことやっとるで」
「南町奉行の件か?」
「なんや、知っとるん?」
「あぁ。お前の言ってた、あの桜吹雪ってのはとんだ詐欺野郎だったぜ」
「青学は大丈夫やろか」
「心配しなくても、もうその船に向かってるよ」
「ひょっとして今現地とか? …跡部、相変わらず苦労性やなぁ」
「放っとけ。もう切るぞ」
「え、もうちょっとええやん〜。これテレビとかに映らんの?」
「俺は今忙しいんだよ!」
≫8月11日 PM
05:32:47
「跡部か」
「よぉ、手塚。無事だったみたいだな」
「―――こんなところまで何の用だ」
「…よ、そう通りのリアクションありがとよ。心配しなくてもテメーに用なんかねえよ。安心しろ」
「てか部長。むちゃくちゃ機嫌悪くないッスか?」
「完全に逆ギレだねー。乾、跡部と連絡取ってること、手塚に言ってなかったの?」
「ああ、話してないよ。話がこじれるかと思って」
「確かに、手塚は跡部と仲が悪いけど。でも今のは手塚が悪いね」
「まぁね、タカさん。手塚はお子様だから」
「は?」
「だから、跡部にお礼を言わなきゃいけない立場の自分に耐えられなかったんでしょ」
「……それは………」
「あ、字数も押しているので、深刻な雰囲気のままここで後編に続くよー」
「てゆーかぁ。オレも何にも聞いてなかったんだけど、どうゆうことかにゃ?」
「菊丸と後輩達は顔に出るからね」
「てことはー大石! 知ってて黙ってたなーっ」
「いや、ごめんよ英二。乾の言うとおりだと思っ…………いやその」
「見事な墓穴堀りだよね、今の」
>
後編は、この状態からどれだけ仲良しに近づけられるかを課題としたいと思います(書けるか分かりませんが)。
ホントは後編がメインだったんですが、前置きを考えてたらこんな感じに。
どうしよう、跡部が別人です。
← →