『こたつ』



いつの頃からか、跡部は手塚の家に入り浸っている。
無論目当ては手塚本人なわけだが。
それに付属する諸々も、跡部は至極気に入っていた。


「お前ん家って好きなんだよな〜。なんたって畳があるし。あの感触が好き」

玄関先で母親に挨拶し、居間に足を踏み入れた跡部は心なし弾んだ声を出す。

「そうだな。だが冬はこれだ」
「…これは…。これがあのこたつってヤツか?」
「まあ入れ」
「待て待て。これに俺が入るとどっから見てもカッコ悪くないか?」
「どうだっていいだろうそんなことは」

「よくねぇよ」

憮然と、立ちつくしたまま跡部は手塚を見下ろす。

「………お前のそのポーズや角度にこだわる姿勢は、姿勢だけなら一目置くな」
「なんかバカにしてねえ?」
「世の中実用性が大事だぞ」

「なんだと…? まさかてめぇ、格好いいってことに実用性がないと思ってんのか?」
「だろう?」

「人に格好いいと思われることに意味がないと思ってるのか?」
「違うのか?」

「男はカッコつけてなんぼだろ。甲斐性というか。「苦しいときこそニヤリと笑え」とかの大先生も作詞している!」

「百歩譲ってお前が格好良く見えたからといって、俺には何の損得もないんだが…」

「何でだよ!」
「まあ、いいから入れ」

「……入るけど」

目の前に「こたつ」というものを出されて、今日はこれを満喫せずに帰れるものか。
跡部には妙な意地がある。
ぶつぶつと、文句を言いながらも彼は差し出された座布団の上に腰を下ろした。


「なんだよー。大の男が二人して、こんなちっちゃいとこに押しこまってよぉ」
「そのわりにはあったかさを満喫してないか?」

「まあ実用性は認めるけど。でもやっぱ氷帝を統べる俺様としちゃあ見た目の威厳つーものが…」

「可愛いじゃないか」

は? と。
跡部は自分の耳を疑う。

「お前が」

「……てめぇさっき見た目なんぞどうだっていいってぬかさなかったか?」

「お前が格好良さを追求してスベってることに興味はない。が、お前が素で可愛いのは充分実用に耐えるぞ」

「実用ってなんだよ実用って!」

「お前が言い出したんだろうが――って、待て投げるなここは非武装地帯だ!」
「なんだとぅ…?」

「こたつの周辺は非武装地帯だと昔からの慣習で決まっているんだ」
「初耳だぞ」

「お前の家にはないからだろうこたつが」

青学の手塚に真顔で言われては。それを信じない人間は少ない。

「そっか。……?」
「まあ入れ」
「……もう入ってる」


「……………」

「……………」

「……………」

「……………」

「……………」

「……なぁ手塚」
「なんだ?」

「みかんとって」

「自分で取れ」

「みかんほしいみかんー」

「…………っ」

「…………」

「…………」

「…………」

「ほら」

「ん」


剥いた蜜柑を片手で放り投げようとして、手塚は動きを止めた。
あくまでも、跡部はこたつから両手を出す気はないらしい。
ちらっと見せた舌に歎息して、その口に一切れ、差し出した。

餌付けをしているようで、これはこれで悪くない。

次の一切れを口に運んでやる際は、わざと指を唇に触れるというセクハラを仕掛けてやろうと、手塚は思った。