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雑音に敏感であることの美徳


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10月1日
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 2004

■坩堝

先日、キリンジのライブへ行った。

ライブハウスでの公演だったことと、開演時間ギリギリに到着したのとで、背の低い私には明らかに不利な場所から観覧することになってしまった。人の頭と頭の間をぬい、ピンホールカメラを覗いているかのように時折わずかに見えるステージ。私はすでに生キリンジを観ることは諦め、モニターに映る彼らと生歌を楽しんでいた。

人一倍、集中力が欠如している私は、歌に聞き惚れながらも周囲の観客の挙動も鑑賞していた。ジャズの好きそうなおじさまからスーツ姿のサラリーマン、OL、小学生に至るまで老若男女問わずキリンジのファン層は広い。そして比較的眼鏡率も高い。そんな私の視界に、否応無しに入ってくる無遠慮な観客が約2名いた。1人は女友達と来た20代後半〜30代の女性。1人は男子4人組で来ていた大学生風の男性。

女性は両腕を後ろに引っ張るようにくの字に曲げ、両親指を脊髄辺りに押し当て上半身を左右にひねり続けた。ノッているのか?もしくは流行りのヨガか妊婦体操か?そのエルボウが私のみぞおちに刺さりそうで刺さらなそうで、音楽に集中するどころではなくなっていた。そしてその隣では男子学生が、これまた懐かしのシャネルズと横山やすし風のヤクザ歩きを織り交ぜたオリジナルダンスでホールを席巻していた。メロウで聴かせる曲の時でさえ彼と彼女のダンス甲子園は幕を閉じなかった。さっさと砂を集めて帰れ!と思いつつ、私は目を閉じ聴覚だけを研ぎ澄まし、美しい歌だけを抽出して自分に注ぎ込んだ。

一方、私とKの横にいた女性は、1人で来ていたようだった。彼女は微動だにせず微笑みも浮かべず、ステージを睨んでいた。その姿はまるで敬虔なシスター。前方のダンス甲子園出場者とは確実に温度差を感じた。楽しくないのかしらん?兄弟どちらかにフラれた過去でもあるのかしらん?と、彼女の心情を察するよりも以前に、私こそ音楽に集中しろ!

そんなシスターの、唇が動く瞬間を私は見てしまった!アンコールになってようやく、カラダを振動させることはなかったものの確かに歌に合わせて口ずさんでいた。それはクララが立った時(『アルプスの少女ハイジ』参照)の衝撃に似ていた。賛美歌のように美しい調べは人の心を融かし、ゆっくりと深く染み渡ってゆくものなのだ。

『すべての人間は2種類に分けられる。スウィングする者としない者だ。』(映画『スウィングガールズ』より) その通りだ。あらゆるサンプルが、また見事に私の周囲に並んでくれたものだ。クラブ、ジム、教会、そして研究所。ライブハウスは観る人によって姿を変えるメルティングポットである。

(2004-10-01/C)




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