蒼きバンダナのアレス    戻る   ホーム



前  史

 アスラル大樹海――
 大陸のほぼ中央に位置し、東西交通の要衝として栄えてきたその地は、『千年王家』シレニアスによって支配されていた。
 永年に渡るその支配体制は、さながら立ち腐れた大樹のように王族貴族の腐敗を招いた。さらにその巨樹に絡みつく、蔦や寄生樹のごとき宗教勢力『樹帝教』や豪商。
 貧富の差はもはや伝統的に確定された身分の差と化し、生まれが人生の全てを支配する。
 永遠に続くかと思われたその支配は、しかし、突如蜂起した人々の手により実に呆気なく崩壊する。
 世に言う『シレニアス大崩壊』である。
 その革命運動を精神的に支えたのは、名も無き破壊神を奉ずる新興宗教『創世の光』であった。
 一方、永年シレニアス王家によって交易の要を握られ、多くの権益を奪われていた樹海外の国家は、この機に乗じて『王国連合』を組み、『シレニアス王家復興』の建前の下、樹海内へと攻め込んだ。
 『創世の光』擁する聖騎士団と、アスラル人民義勇軍がそれに応じた。
 千年王家を倒したという高揚、戦意を支える精神的支柱の揃ったアスラル側は、欲にまみれた王国連合軍を圧倒し、樹海の外にまでその領域を伸ばす。
 予想外の敗北に慌てた王国連合は面子を捨て、百戦錬磨の傭兵部隊の投入を決める。

 ……こうして戦乱はいつ果てるともなく続く。
 現われては消える勇士、義士、戦士、英雄、部隊。
 語り継がれる名勝負、秘されるべき忌まわしき所業。
 全て戦の中で起こるべくして起きた事柄。


 西部戦線で語られる、ある戦士の話がある。
『蒼きバンダナのアレス』。
 何度も死んだと噂されながら、その都度復活し、鬼神のごとき奮戦を見せて再び姿を消す。
 ある時は青年、ある時は老人、またある時は少女ですらあったと伝えられるその戦士はしかし、英雄ではない。
 『アレス』は、『創世の光』が唯一「忌むべき名前」として公然と排斥した名前。
 そして『蒼きバンダナのアレス』はその評価を裏付けるかのように、むしろ義勇軍や聖騎士団に被害を与えた存在。
 その名が囁かれる時、そこに敬意はない。あるのは嫌悪と畏怖のみ。
 伝説は伝える。二つ名の由来を。
 彼(彼女)は、体のどこかに蒼いバンダナを巻きつけている、と。
 
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