価値マップ

島谷「七路盤はこの狭い盤上でも思いのほか変化が多いことがわかって面白かったです。」
井口「それと、研究することは<囲碁とはこういうゲームなのか!>という認識のためにもプラスです。
たとえば、囲碁というゲームは十九路では第一手からどれがいい手かよく分かっていません。
しかし、囲碁の構造は七路でも同じですから、囲碁の解明がすすめば、七路のような捉え方ができるはずと考えられます。
たとえば、これまでの説明が正しいとしますと、七路盤の黒1は天元が唯一の正着で、小目、三三は数目損する悪手です。
そして、黒の天元に白2の手はツケが唯一の正着で三三は数目損な悪手です。
白2ツケに黒3はハネが唯一の正着、ノビは1目損する悪手です。
黒3に白4はキリチガイとハネカエシがいずれもが正着です。
囲碁では、このように正しい手が二個所以上生ずることがしばしは起こります。
このような進行を表にすると以下のようになります。

黒 白 黒
−三三(-4=13)
開局(9)−−−天元(-0=9)−−−ツケ(-0=9)−−−ハネ(-0=9) −−− −小目(-4=5) −ノビ(-1=8)
−三三(-6=3)


白 黒 白
−−−キリチガイ(-0=9)−−−天元ノビ(-0=9)
−三三ノビ(-3=6)

−カタツギ(-1=10)
−カケツギ(-0=9)
−ハネカエシ(-0=9)−−−ノビ(-0=9) −−−二段バネ(-0=9)
−ツギ(-3=6)
−キリ(-2=7)

この分岐チャートで大切なことは、すべての着手には結果を増減させる数値が与えられているということです。
そして、ちょっと意外かもしれませんが、正着は、結果の増減がゼロの手です。
それ以外の手は結果を変化させますが、すべて、それらは自分の形勢を悪くする手であり、自分の形勢をよくするような手は盤上に存在しません。」
島谷「そうすると、囲碁では、最善手は、形勢に関して中立な手で、それ以外の手は形勢を悪くする手である。
とすると、形勢をよくする手は盤上に絶対存在しないのですか。」
井口「そうです。形勢がよくなるのは、自分のいい手によるのではなく、相手の悪い手によるのです。」
島谷「そして悪い手には、悪さに程度の差があるのですね。」
井口「ええ。次の図は七路盤の開局時の黒の(1)の手の価値を表すイメージです。
数字は正確とは言えませんが、イメージはこうです。
レイアウトの都合でマイナスの記号を省略してありますが、19は -19、17は -17と読んでください。

中央の 0とあるのが天元です。
パスは -18の悪手です。
一の一に打つのは -19でパスよりさらに1目悪い手とされています。」
島谷「これは面白い。十九路盤でも囲碁の対局の進行中、常に、神様の目からみると、盤はこのようにみえているのですね。」
井口「そうです。この数字がみんな見えれば、誰でも、最善手だけを打つので、最強の棋士になれます。
ただ、残念ながら、この数字が見えている人はいないのですね。
一般に、碁の序盤と中盤とでは、この数字がよく分からないのです。
終盤になると分かることもあります。
次の図は七路盤の問題集からとった終局の近い局面(黒番)です。

よく調べると正解も分かり、すべての着手に数値が与えられます。
次の図がその数値です。(マイナス記号は省略)

これは初段くらいの人がよく間違える問題で、オイオトシをねらって下辺のホオリコミを打つ人が多いのですが、その手は、正解と比べると28目マイナスと計算されます。正着は0のデです。」
島谷「こうしてみると、碁の強い、弱いは序盤から終盤までこの数字を大まかにとらえる能力の大小とも言えますね。
でも、この数字が全部解明されたら囲碁は数理に還元されてしまい、ゲームとしての価値を失うと感じる人も出て来るでしょうね。」
井口「ええ。小山竜吾先生は囲碁はわからないから面白いのだと喝破されました。」
島谷「藤沢秀行九段も囲碁は神様が百とすると分かっているのは5か6くらいなどとおっしゃっていましたね。」