コンパスの気泡除去

For  Plastimo & Sestrel


2009.04.26



☆☆ 修理の概要 ☆☆

ヨット用の磁気コンパスはその殆どが湿式コンパスである。

湿式コンパスは方位盤の振動防止と安定のために液体が注入されている。

この液体は冬季凍らない様、凝固点の低い液体が使われていている。

ところが、長期間使用したコンパスは中の液が蒸発と漏れで空気が入ってくる。

混入した空気が少ないうちは支障も少ないが視覚的にも芳しくなく

空気が多量に入るとコンパスカードが円滑な回転をしなくなり

コンパスの機能を果さなくなる。

そこで、蒸発したコンパス液を補充する事にした。





【気泡が入ったプラスチモ(仏)】

フランスの代表的なマリン用品メーカーのこれまた代表的なコンテスト100である。
センスの良いデザインと価格の安さから使用する艇も多いと思う。

永年液漏れもなく頑張っていたが蒸発し始めると急速に液漏れが進んでしまった。

一般に備わっている空気留めが無く至ってシンプルな作りでこれが低コストを実現している様だ。

機能的に空気留めがあるセストレの方が重量もあり液の蒸発が少なく優れている様に思えたがフランス製品に見られるシンプルさが良いのかもしれない。
プラスチモコンテストの液補充口である。
補充口のネジの周りは液漏れ防止に固めのシール材で覆われ蒸発を防いでいる。

このシール材は硬度が硬く先の尖ったピック等でそぎ落とせるので完全にそぎ落とし液注入ネジを露出させる。

液注入ネジにはゴム製のパッキンが有るが経年変化でもろく成ってい外した際にボロボロに割れてしまった。ヨーロッパ製品はゴムが弱い傾向がある。
ネジを外すとコンパス液補充口が開くので分析用サンプル液を取り出せる。
液の採取にはパソコンプリンターの補充用のインク空瓶を良く洗って使用した。

この瓶には注射器針の様な細い注入管が付いていて液の採取や補充液注入に誠に具合がよろしい。
採取したコンパス液の性状を調べる検査液で身近なものを標本とし集めた。

【親水性】
@エチルアルコール、A焼酎 ^^v

【親油性】
@サラダ油、

【揮発油】
@ケロシン(灯油)、ペイントうすめ液

コンパスから注出したサンプル液を少量ずつ検体液に入れ分離しない液を探し出す。
最適と思われるミシン油が手元に無かったのでここには無いが有れば最有力な検体と思われる。
プラスチモ、セストレス共にエチルアルコールなどの親水性の試験液には完全に分離して混ざらなかった。
又、味も臭いも揮発油の様な刺激味臭いで甘みも無かったのでエチルアルコールとエチレングリコールでは無いと判断した。

プラスチモの液は樟脳の様な強い刺激臭があり味も揮発油独特の刺激があり低粘度で火を近づけて着火しなかった。

セストレスの方は刺激臭は無かったが低粘度でスピンドル油(ミシン油)と比べも低粘度だった。

以上の事から補充する液は
---
@親油性。
A粘度指数Vs5程度の軸受油。
Bゴムを劣化しない植物油が好ましい。
C透明度の高いもの。
D凝固点の低いもの。
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以上の条件から粘度は高いが安全性を配慮しサラダ油を採用する事にした。最も適しているのは低粘度の軸受油と推測する。
補充液注入口を上にして、先ほどのスポイド瓶にサラダ油を詰めて注入するのだが、若干空気を残す事が必要に思う。

何故なら気温が高くなると液膨張し空気溜まりが無いと筐体内部の圧力が異常に高くなり破損する恐れがある。

粘度は高いがしばらくコンパスを回しかき混ぜると液は混合し混ざり合う。

注入口の止めネジを締めシリコンシーラントを回りに塗り固めて止める。
シリコーンシーラントは一昼夜放置すれば硬化し補充口を塞いでくれる。

セストレスには空気溜まりが付いていてコンパスを逆さまにして空気を空気溜まりに入れると空気は無くなる。
船体に取付けたプラスティモ・コンテスト。

プラスティモには空気溜まりが無く若干の空気が残るが外見上ではカバーに隠れ空気は見えなくなる。

分解して初めて構造を知る事となったが、シンプルで重量も軽く一見チープな感じがすのが如何にもフランス製である。

セストレスコンパス

船体に取り付けたセストレス。
外見から見て実に地味でプラスチモの華やかさは微塵も無い見栄えのしないコンパスであった。

が、分解してみ初めて判るまごうかたない質実剛健なイギリス製品である。

圧力調整に必要な空気はコンパスを逆さにすると空気溜まりに収まって外見上からは空気は全く見えない。

また、使用するネジ関係も全てに精密ネジを使用しフランス製のタッピングネジとは違い数度の分解に耐える高質感を感じた。

☆☆ コンパス液の正体を探る ☆☆

ヨット用のコンパス液はメーカー毎に独自の液体が使われて

その成分は企業秘密となっている。

メーカーに拠っては補充液を販売するメーカーも有るが大方の

メーカーは補充液の販売はせず
、補充はメーカー修理となり

修理代も目が飛び出る程高価である。

そこでコンパス液の成分は何か探っててみた。

@親水性検体:エチルアルコール、エチレングリコール

本船の航海士の教科書にはコンパス液の補充はエチルアルコール2:水3の割合で 補充する

とある。


親水性のものにはエチルアルコール、エチレンクリコールがある。

エチルアルコールは安価でどこでも入手し取扱いも簡単である。

2:3といえば66.6%でありウオッカ等の蒸留酒が代用できる。

A親油性検体:サラダ油、ミシン油、R軸受油(低粘度)

水には溶けず分離するが油性のものには解け混合する。

外国製のコンパスは親油性の鉱物油や植物油が使われていて成分は未公開である。

大方、粘度と凝固点が低いものは鉱物油、植物油、その他の液が使われている。

鉱物油で粘度が低いものは軸受油に粘度「2」「5」「10」と3種類ある。「10」は一般にミシン油

と呼ばれている。


B揮発油検体:ペイントうすめ液、ケロシン

粘度が低い、透明である、刺激臭がある、凝固点が低い・・・など利点はあるが溶剤の性質も

あり、コンパスカード、内部部品、塗装やゴム系部品を溶かす恐れがある。
☆☆  液の補充手順 ☆☆

@コンパスを艇から取り外す。
Aコンパスを分解する。
B注入口を確認し注入口のネジを外す。
Cスポイトで分析用のコンパス液を1ccほど取り出す。
Bコンパス液を分析し最適なものを探す。
Cコンパス液の補充。
D注入口の閉鎖。
E再組立



【コンパスライトのLED化】

コンパスライトの照明に白熱球の変わりにLED化を行なった。
LEDは消費電流は20mAと極めて少なく省力化が出来てバッテリーに有利となる。

LEDは赤色、アンバー色と希望する色が選べるのも利点であり
暗夜での視力保護にコンパスライトは赤色が好ましい。

そこで、車のブレーキランプに使用されている赤色LEDを
コンパスライトに交換し細工してみた。



LEDから出ている2本の電線を短くカットして細いコードを半田付

けする。

LEDの導線を本体ともどもグルーガンでグルーを巻き導線の保護

を行なう。

コンパスの電球取付穴にあわせグルーガンで形を作りコンパス

に取り付る。

なお、赤、アンバーのLEDは2V〜2.4Vで発光するので12Vに

繋ぐのには15〜20mAの定電流ダイオードか抵抗を入れる必

要がある。

なお、LEDの先端部をヤスリで斜めに削り光軸を反射させ指向

性を持たせ光度調整を図った。
100均店で300円で購入したグルーガンである。

グルー(接着剤)は8mm径の酢酸エチルの棒状のもの。

100Vのコンセントに繋ぐとグルーが解けて引き金を引くと銃口から

溶けたグルーが噴出し接着面に流れ出る。

溶けたグルーは温度が下がると硬プラスチックに硬化するので都

合が良い。

ヨットの船上でも100V14Wなのでインバーターを介し容易に使え

て便利である。


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