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筆順指導の手びき 文部省
まえがき 漢字の筆順については、書家の間に種々行われているものや、通俗的に行われているものなどがあって、同一文字についてもいくつかの筆順が行われている。このことが、そのまま学校教育にも行われているのが現状である。 これに加えて、昭和23年4月に当用漢字字体表が告示されるにおよび、新字体に基く筆順等もあって、小・中学校の現場におけるこの面の指導は、同一学校、同一学年においても必ずしも統一されているとは言えない。 このような指導上の不統一は、児童・生徒に対し筆順を軽視せしめる緒果となるのみならず、教師の漢字指導の効果や能率にも影響するところが大きいと思われる。 文部省においては、この指導上の不統一を解決したいと考え、さきに学識経験者、大学教援、指導主事、現職の学校長、教師の方々十数名に御協カを願って、筆順指導統一に関する原案を作成していただいた。この原案をもとに、さらに省内において、告示された新字体表の方針等も考慮し、教育的な観点を重視して、同一構造の部分はなるべく同一の筆順に統一するという観点で検討を加え、ここに筆順指導の手びきを刊行するはこびとなった。 本書の刊行に当り、さぎに御協力いただいた方々に、心から感謝する次第である。 昭和32年12月 初等中等教育局 初等教育課長 上 野 芳 太 郎
1.本書のねらい 筆順とは文字の形を実際に紙の上に書き現わそうとするとき、一連の順序で点画が次第に現わされて一文字を形成していく順序であると言えよう。 筆順は、全体の字形が、じゅうぶんに整った形で実現でき、しかもそれぞれの文字の同一の構成部分は、一定の順序によって書かれるように整理されていることが、学習指導上効果的であり、能率的でもある。このことは、漢字ばかりでなく、かな、ローマ字等についても、同じことが言える。 漢字の筆順の現状についてみると、書家の間に行われているものについても、通俗的に一般杜会に行われているものについても、同一文字に2種あるいは3種の筆順が行われている。特に楷書体の筆順について問題が多い。 このような現状から見て、学校教育における漢字指導の能率を高め、児童生徒が混乱なく漢字を習得するのに便ならしめるために、教育漢字についての筆順を、できるだけ統一する目的を以て本書を作成した。本書においてはとりあえず楷書体の筆順のみを掲げたが、楷書体の筆順がわかれば、行書体についても、おのずとそれが応用され得ると思われる。 もちろん、本書に示される筆順は、学習指導上に混乱を来たさないようにとの配慮から定められたものであって、そのことは、ここに取りあげなかった筆順についても、これを誤りとするものでもなく、また否定しようとするものでもない。
2.筆順指導の心がまえ 筆順指導は、本書において述べる筆順の原則の上に立って行われるようにしたい。そのことのためには、まず筆順の原則をじゅうぶんに理解させながら、書写指導を行うことが望ましい。 筆順指導に当っては、次に記す事項に留意して、その指導の徹底を期するようにしたい。 (1)筆順は、一応杜会的な習慣として成立している面もあるが、これに書写指導の教育的な観点も考え合わせて、一定の筆順によって指導することが望ましい。 (2)筆順は、点画が順次重ねられて一文字を形成していく順序であると考うえられる。したがってその指導に当っては、どのような点画が、どのよに順次重ねられていくかの遇程を、理解させることがたいせつである。 (3)筆順指導の基本となるものや、筆順が複雑なものについては、特に正確さをねらって理解させることが、その後の指導にとっても効果的である。 (4)低学年や遅進児の指導に当っては、特に筆順指導の基本的なものについて、その理解と習熟とをはかることが望ましい。 (5)筆順指導のために、特に多くの時間をさくことは必要としないが、既習の文字との連関をじゅうぶんに考慮して、計画的・系統的に行うことが望ましい。 (6)筆順指導を読解指導と同時に行うことは、読解指導にも、筆順指導にも、かえってその徹底を欠くきらいがあるから、このことは避けるべきである。 (7)教師の板書は、つねに定められた筆順によって書くようにしたい。
3.筆順指導の計画について (略)
4.本書の筆順の原則 (略)
5.本書使用上の留意点 本書の使用に当って留意してほしいいくつかの事項を次に掲げる。 1.本書に取りあげた筆順は・学習指導上の観点から、一つの文字については一つの形に統一されているが、このことは本書に掲げられた以外の筆順で、従来行われてきたものを誤りとするものではない。 2.本書に示されたものは、楷書体の筆順であるが、行書体では一部筆順のかわるものもある。その場合でも、新字体から著しくかけ離れた形のものは望ましくない。 3.原則では、当用漢字別表(いわゆる教育漢字)のすべてを例としてはあげてないが、他の文字の理論的な面については、原則および一覧表とを考えあわせて類推理解することができる。 4.本書は字体の手びきではない。したがって本書においては字体の問題を解決しようとはしていない。 5.当用漢字別表の漢字以外の当用漢字についても、原則や一覧表によって、適正な筆順を類推することができる。 6.本書の原則において取りあげている点画の名称は、次に記すとおりである。 点(てん) 横画〔よこかく・おうかく→「横」(よこ)「よこぼう」〕 縦画〔たてかく・じゅうかく→「縦」(たて)「たてばう」〕 左払い(「人」の第1画に相当する画で、方向・長さには、いろいろある。) 右払い(「人」の第2画に相当する画で、方向・長さには、いろいろある。) 7.その他、次の名称も適当に取り入れて説明指導することがよい。 (折れ) (はね) (とめ) (曲がり) (はらい)
6.当用漢字別表の筆順一覧表 (略)
7.筆順一覧表の索引 (略)
昭和33年3月31日 初版発行 |