書のひろば

 

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文字の文化・書道の文化

<成田山 教苑(628号)に掲載>

 昨年の7月、「文字活字文化振興法」が制定された。読書週間初日の10月27日が「文字活字文化の日」となった。読書は「活字文化」振興のひとつである。一方、「文字文化」というのは、毛筆あるいはペン字を問わず、手書きによる文字のことだ。書道に携わる一人としてはまことに都合のよい法律である。伝統的な文字の文化や歴史を重視するものであると確信している。

 戦後の文字政策で「当用漢字」1850字(昭和21年)、「人名用漢字」92字(昭和26年)なるものが制定され、伝統的な文字がかなり失われた。しかし、昭和56年には「常用漢字」1945字となり、一昨年には人名漢字が一挙に983字に増え、幾分漢字制限が緩和された。パソコンが各家庭にも普及し、実に様々な漢字が印字できるようになったので、漢字制限もそれほど意味を成さなくなった。その点ではパソコンも文字活字文化には一役買っている。

 毛筆が実用的な筆記具でなくなって久しい。その上、パソコンで容易に印刷物を作成することができるようになったので、手書きする機会が減ってきた。小中学校では文字を書く時間として「書写」という授業がある。小学1・2年生は硬筆を使用し、小学3年生以上は毛筆を中心に、中学生は漢字の楷書と行書をマスターすることになっている。それなのにマンガ字が社会問題となったり、子どもたちの鉛筆の持ち方が取りざたされても、一向に改善されないのはなぜだろうか。「書写」の授業が実際には行われていない学校があるそうで、文字文化振興には程遠い感がある。

 「文字文化」の内容としては、@伝統的な手書き文字の歴史と文化 A行書草書の読み書き B縦書きすることによる文字の連続(これを連綿という) C毛筆に限らず、鉛筆・ボールペン・サインペン・筆ペンなどの筆記用具の使いこなし D常用書体と異なる字体を知る などがあろう。パソコンのプリンターや活字ではできない文字表現は、行書や草書であり、続け書きである。字は人となりであり、知性、教養の現れであるという古来の日本人の判断が一層求められる時代が次に来るはずだ。文化という人間性を無くすことは淋しい。この「文字文化」を振興するには、ぜひ皆さんの理解と協力が必要である。

平成18年9月25日