『となりのたつきさん』
ももか主任の隣の部の立樹さん。
その立樹さんのパソコンは、Officeを立ち上げるたびにアシスタントのイルカ(常駐ヘルプツールみたいなもの)が一緒に出てくる。でもこれって仕事をするときには結構邪魔。だけどイルカが大好きな立樹さんは、どうしてもこれを非表示にする事ができない。非表示にするとき、ぎゅーっとイルカが小さくなっていくのを見ると、自分の気持ちもぎゅーっと寂しくなってしまうのだ。でも邪魔、でも消せない、立樹さんのジレンマ。
見かねた同僚の麻園さん(パソコン大好き)が、立樹さんのPCの初期設定を直してくれた。これでもう再起動しても、イルカは出てこない。
だけど次の日会社に来て、メールを立ち上げたとき、いつもは出てくるイルカが出てこないことに、立樹さんはものすごく凹んでしまったらしい。あの太陽のように元気な立樹さんがどこか元気がない。事情を知った麻園さん、慌ててお昼休みにまた初期設定を直してくれた。太陽が午後からまた元気になった。
以来、女子社員がイルカグッズをみかける度に、立樹さんの机の上にイルカグッズを持ってきてくれるようになった。そのうち立樹さんの机にイルカを置くと願いが叶うという都市伝説(違)まで生まれた。最初は喜んでいた立樹さん、だけどイルカが増えすぎて、置き場所が無くなった。だけど捨てるに捨てられない。こまった顔の立樹さんはちょっとかわいいと、それを見たくてまた女子社員が置いていく。立樹さん大弱り。世界の果てる日までイルカは増えつづけるのかもしれない。
こんな立樹さん、いいひとすぎて彼女がいないとのこと。彼女が出来たら八景島シーパラダイスでデートをするのが夢らしい。
ももか主任の隣の部の立樹さん。
その立樹さんたちのいるフロアに、取引先さんからのご厚意でアイボが来る事に。
いち早くその情報をつかんで、お昼の社食で嬉しそうに教えてくれた麻園さん(自宅には初代からアイボが揃ってます)。それを聞いた立樹さん
「でも機械なんですよね?」
どこか寂しそう。
「いや、機械って馬鹿にできないよ?今度のアイボは骨までくわえるしね、意外と可愛いもんだよ?」
と麻園さん。
「でも機械なんですよね」
やっぱり寂しそう。
「そういうのは、ちょっと寂しいね。やっぱり本物がいいよね」
そんな立樹さんのトラウマ。
高校生の時飼っていた犬が死んでしまった。それを見た近所の女の子が「どうしたの?電池切れちゃったの?電池換えないの?」……ああ、今時の子はそうなんだ、そう思っちゃうんだ、いのちの重さがわかってないんだ。悲しみと虚しさを味わった思い出。
それを聞いてちょっと皆でしんみりしたけれど。まあ、職場に活気ができるのはいいことだし、とその場をとりなす麻園さん。
数日後、アイボが来た。皆でカワイイカワイイと大騒ぎ。立樹さんは「いや俺はやっぱりそういうのは」とその輪に加わることもしない。まあ、ひとそれぞれだしねと、皆そっとしておくことに。
だけど、その日の帰り、たまたまエレベーターで一緒になった立樹さんと、まりえちゃん。立樹さんは何故か大きな紙袋を持っていた。そういえば、今朝もホールであったけれど、こんなおっきな紙袋もってなかったよなと思うまりえちゃん。なんだろう?机の上のイルカ(の一部)を持って帰ろうとしているのかなぁと思うまりえちゃん。
立樹さんはなぜかそわそわしていた。
「立樹さん?」
「え?ああ!な、何?」
エレベーターが下についた。そのままもう一度、まりえちゃんが職場のフロアの階のボタンを押した。
「立樹さん、今返せば黙っていてあげますから」
がさがさっと、アイボが紙袋の中で動いていた。本当はアイボがとっても気になっていた立樹さんは、どうしても遊びたかったらしい。
数日後、アイボが故障した。そのまま元のところに返されることに。
立樹さんが、ひとりひっそり屋上で泣いていたのは、皆しっているけれど、誰も触れなかった。
ももか主任の隣の部の立樹さん。
その立樹さんが参加した事業部恒例の忘年会(宴会部長はみきちぐ)。もちろん立樹さんの同僚の麻園さんも、嶺君も、まりえちゃんも、皆一緒に参加した忘年会。
おたのしみ抽選会で「八景島シーパラダイス」ペア入場券を当てたまりえちゃん。「よかったねー」と自分の事のように喜んでくれる麻園さん(属性いい人)と嶺君(属性いい人)。だけど
「いいなぁ」
立樹さんがまりえちゃんをじっと見ている。
本人はそのつもりないのだけれどじっと見ている。
くどいけれど、まだ見ている。
……実はまりえちゃんは立樹さんに非常に弱い。いつの頃からか、まりえちゃんには立樹さんの頭にイヌ耳(垂れてる)と、しっぽ(ふさふさしてる)が見えるようになってきた。そして黒目がちな目でこっちを見る立樹さんは、まりえちゃんが昔飼っていた大好きだった犬にそっくりなのだ。
「立樹さん……一緒に行きます?」
「い、いや、そんな悪いよ」
でもまりえちゃんにはぴんと立った耳とちぎれんばかりに振っている尻尾がはっきりと見えていた。
よくよく考えてみたら別に一緒にじゃなくても「誰かと行って下さい」と二枚ともあげてもよかったのに、なんで誘ったんだろうと思うまりえちゃん。
もしかしてわたし、立樹さんの事が好きなのかなぁと思うけれど秒速で「いや似ているだけだから」と思うまりえちゃん。
そんな立樹さんに「よかったねー」自分の事のように喜んでくれる麻園さん(属性いい人)と嶺君(属性いい人)。そうか、私いいことをしたんだと、なんとなく納得した気分になるまりえちゃんだった。
ももか主任の隣の部の立樹さん。
そんなこんなで、立樹さんの夢が半分だけかなう事になった。もしかしたら、全部になるかもしれないけれど、今のところ誰もそこにロマンスは見出していないけれど。
もちろん立樹さんも、まりえちゃんも。
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以上、ネタ振りです(なんの?)。
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