『そうだ、博多に行こう』


 ももか主任のいる事業部では、毎年夏に社員旅行が企画される。
 今年は博多3泊4日の旅。こんな時に無駄に張り切るのがももか主任とその周辺。
「主任〜、俺お留守番組だなんて寂しいッス」
 銀河が主任に泣き付いている。社員旅行とはいえ完全に会社を留守にすることは出来ない。必然的にお留守番組ができるのだ。
「おおー、よしよし、ねえさんがお土産買ってきてあげるからね〜」
 銀河をあやすももか主任、そして。
「ひかちゃーん、ちゃんと銀河にエサ与えるの忘れないでねー」
「いや、まぁたんエサって……」
 困惑するひかるさんもお留守番組だ。その隣でさなえちゃんがチョーウキウキでガイドブックに印をつけている。
「さなえちゃん、ご機嫌だね」
「そりゃあもう、主任との旅行ですから!」
「……いや、さなえちゃんそんなにデコ光らせなくていいから」
「それに主任と旅行ということは、その間は年下男の毒牙から主任を守ることができるんですよ!」
「いや、さなえちゃん」
「あたしなら主任をちゃんと寝かせてあげますから!」
「いや、だから」
「任せてください!」
 必要以上に力の入ったさなえちゃん、そうだと思いたち幹事のちーくんのところに「主任と同じ部屋ですよね!」と確認しに行ったら、そこには麻園さんがいた。
「え?泊まるホテルLANついてないの?」
「いや、ホテルっていうか旅館なんで」
「困るなー、そういうこと気を遣ってくれないと」
「いやでも俺そういうの詳しくないんで」
「困るなー」
 散々専門用語を並べて文句を言う麻園さん。その麻園さんが自席にもどると
「まりえも博多行きたかったなー」
 まりえちゃんは留守番組。まあまあお土産買ってくるからととりなす麻園さん。
「立樹さん、イルカは無しですからね!」
「ええ?」
 立樹さんの机から「九州水族館ガイドマップ」が落ちた。ああ、やっぱりと思うまりえちゃん。その傍らで嶺君がちょっと複雑な顔をしていた。嶺君も「大事なお客様との契約締結」があるのでお留守番組、その事務方の作業の為にまりえちゃんもお留守番組になったのだ。実は嶺君、ひかるさんがお留守番組と判明して、わざわざその予定を旅行日程にぶつけた。
「(ひかるさんを置いて旅行になんて行けない!俺がいない間にまたひかるさんが椅子の上から落ちるような事があったら!!)」
 けれどもそんな自分の為にまりえちゃんも巻き込んでしまい良心の呵責を感じる嶺君。
 かたや給湯室。
「ちか、かっちゃんと離れるなんて出来ない!(むぎゅう)」
「ち、ちか!こんなところでなんばしよっと」
 ちか先輩は博多組、そしえかつきはお留守番組。しばらくの熱い(省略)の後
「で、でもちか!博多は主任と一緒とね!」
「……しゅにん」
「ももか主任も一緒ならきっと楽しいとね?(含)」
 そのときちかの目がぎらりと光った。ああ、ハンターモードに入った模様。
「(主任すまんたい……今回ばかりは、主任を売るたい)」
「あ、そうだ。かっちゃんの実家九州だよね?ちかついでにかっちゃんのご両親にご挨拶してくるね!」
 なんの挨拶なんだろうかと思ったかつきだが、あまり気にしない事に。


 さて、こちらは市川市役所。
 ももかさんの彼氏の大真くんが廊下を歩いていると鳴海君に声をかけられた。
「あー、大真。今年の旅行先決まったぞー」
「へ?旅行って?」
「知らないのか?うちは毎年夏に慰安旅行があるんだ」
「ええ!」
「なんだ、嬉しくないのか?ありがたくも市民の皆さんの税金で旅行にいけるんだぞ?」
「だ、だってその間僕はももかさんと離れ離れなんですよ?」
「なんだ、お前らまだそんなにラブラブなのか?」
「はい〜もう〜」
 でれっとする大真くんに、慌てて話を元に戻す鳴海君は大人だ。
「ちなみに行き先は博多だ」
「はかた?なんでまた」
「しのぶさんが決めたそうだ。ダーツで、日本地図で」
「ああー」
 納得。でもももかさんと離れ離れになってしまうのは悲しい大真くん。
 それはさておきさっそく同期で緊急会議とあいなった。日程表を前にしつつ
「でもさー、結構良心的だよなー。だってかなり自由時間あるぜ?職場の旅行といいつつ、普通の個人旅行と思えばいいんじゃね?」
「でもももかさんが」
「……ラフレシア」
「え?何?」
「いや何でもない」
「っていうかあんたたちなんでここで井戸端会議はじめるのよ!これじゃ仕事にならないじゃないの!」
 同期の男子5人、こんな時は受付の仙堂さんの机の前に集まるのだ。入り口付近でたむろする男子5人はかなり不審。
「で、どうする自由時間?」
「美城は?」
「俺、ついでだから家族旅行にしようと思うんだ」
「家族旅行?だって家族は連れて行けないだろ?」
「だから行き帰りだけ別行動で、あとは自由時間は一緒で。そうすれば少なくとも俺ひとりの旅行代は浮くしな」
「お父さんは考えるなぁ……、で涼麻は?」
「あ、俺いい機会だから向うのオフ会にでも参加してくるよ」
「オタクだなぁ。で、睦は風俗めぐりとしてー」
「おい決め付けるなよ」
「違うの?」
「いやそうだけど!」
 なんだか皆それぞれ予定がある。ももかさんとたとえ数日とはいえ離れ離れショックから、ようやく立ち直った大真くん。このままでは置いていかれると思って
「じゃ、じゃあ紫は?」
「俺?俺は……ボーっとでもしようかなぁ」
「ぼ、ボーッと?どこで?」
「海とか」
「う、海?」
「あ、あと四葉のクローバー探すんだー」
「……。そ、それ俺も一緒に行っていいかな?」
「いいよ〜」
 わけもわからず、ただひとりじゃ寂しいとばかりにくらいつく大真くん。
「じゃあそういうことで解散ー」
「ちょっと待ちなさないよ!なんであんた達あたしの予定とか、あたしを誘うとかしないのよ!ちょっと!」
 仙堂さんが叫ぶ、その光景をみて
「あらあら〜、仙堂ちゃんはモテモテね〜」
 通りすがりのしのぶさんがにこにこと言い残して去っていった。


 その夜のももかさんち。
「ももかさん……大変悲しいお知らせをしなくてはなりません」
 神妙な顔でももかさんの前で正座する大真くん。
「やだ、なになにー?」
「実は僕」
 ここでうっと涙ぐむ大真くん。
「遠くはなれたところにいかなくてはならなくなりました」
「はぁ?」
「僕、ももかさんを信じています。でも僕がいない間きっと寂しいだろうから……」
 ゴソゴソと紙袋から『何か』を取り出す大真くん。
「じゃーん!今回は豪華にリモコン式です!」
「ばっばばばっばばばばばっかー!な、何てモノ出しているのよー!」
 誕生日の出来事が、まったく堪えていない大真くん。この後30分ほどももかさんから制裁を受けるハメに。
 30分後。ようやく話が元に戻る。
「え?社員旅行?いつ?ええー!ウチの会社もその時期社員旅行だって!スゴイ偶然!」
「えー、そうなんですかー?」
「もー、だったら別に大真くんが1人残されて寂しいアタシを心配することなんてないじゃないー?」
 やっぱり寂しいんですかと大真くんが切り返す前に、ももかさんはどんどん話を進めていく。
「で、行き先はどこなの?ウチはねえ」
「あ!ももかさん!!ちょと待ってください!」
「え?」
「こんな偶然、楽しまなくちゃ損ですよ。お互いにどこに行くかナイショにして、帰ってきてお土産もらうまでのお楽しみ★、にしませんか?」
「うわぁーそれイイねぇー、スゴイアイデア!なんだかワクワクするねぇー」
「でしょ?でしょ?」
「うわー、大真くんところはどこ行くのかなぁ?市川市役所でしょ?そしたらやっぱり北の方かなぁ?」
 なんの根拠もないももかさん。珍しく誉められてご機嫌の大真くん、傍らにももかさんが手刀で破壊したリモコン式のそれが転がっていても、なんとなくほのぼのと平和な恋人達のひと時。


 さて、ことの顛末はどうなることやら。





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 博多メンバーが発表になったときから暖めていたネタです。思いっきりネタテキスト。というか普段の携帯ネタメールレベルだよ……(普段の、て)。地の文がおかしいのは見逃してください。SS化する事もできずにこんな状態ですが、とりあえずこのネタは喰らいつかなくちゃ!と言う訳で。
 だからといって、続きが出るとは限りません。前振りは振りっぱなしになりそうです(笑)。
※『誕生日の出来事』は美波里さんの「ももかさんの誕生日」を参照してください。

2004.07.14