『僕の彼女を紹介します』
こんにちは!大真です!
最近の僕は相変わらずももかさんとラブラブです。皆さんは恋してますか?していないですか?したほうがいいですよ?だって今年は「愛v地球博」ですからね!
そんな僕が気になっているのは、紫の事です。
市川市役所で同期の紫は、出会った時から妙にウマがあいます。でも僕はこんなにラブラブハッピーライフなのに、紫からはそういう話を全然聞かない、というか教えてくれないんです。度々僕の恋愛相談にのってくれている紫、僕だって紫の恋愛相談に乗ってやりたいんです。親友ですから。でも紫は教えてくれない。これは気になります。
で、この間同期皆で飲んだ時に、人海戦術で紫によってたかって聞き出しました。で、得た情報は
(1)とりあえず彼女はいるらしい
(2)趣味の雑誌の文通コーナーで知り合ったらしい。
……紫の趣味と言えばサバイバルゲームです。その共通の趣味を持つ彼女……ど、どんなマッチョなアマゾネスちゃんなんだ、それともキュートなチャーリーエンジェルちゃんなのか、やっぱり迷彩服の下はノーブラであって欲しいよなぁ……や!これを言ったのは僕じゃないです睦です。僕はそう思っただけですから!!
けれどもそれ以上の情報は教えてくれない。睦が以前、写真を見せろと言ったら「お前に見せたら腐る」とまで言われたそうです。うう……隠されるとますます気になります。ね、気になりますよねももかさん!と一部始終を僕のももかさんに言ったら「人のことなんだからどうでもいいじゃんー」と言われました。……でも僕は気になって気になってしょうがないんです。
そんなある日の事。
その日、僕は仕事で県外に近地出張でした。翌日は祝日だったので、いつものようにももかさんちに行こうと計画していたら「え?大真くんの方が帰ってくるの遅いんでしょ?」と、ももかさんが僕んちで待ってくれている事に。家に帰ったらももかさんがいる、それだけで僕の心は浮き立っていました。
(今夜はももかさんと……)
家に帰ったらあんなコトやこんなコト、いやそんなコトまでも!と帰りの電車の中で想像が広がりました。そうだ、この間睦に借りた本に載っていたあのフィンガーテクを試そう!と脳内シュミレーションを繰り返して。ああ……なんて至福なんだろう。電車は結構混んでましたが、そんな事すら気にならないほどに、僕の心(と下半身)はももかさんにむかってまっしぐらだったのです。
と、その時です。
「この人痴漢です!」
ん?女の子の黄色い悲鳴だ。だれだ、そんな不埒なコトをする奴は!!と思って辺りを見渡したら、周囲の人が僕を見ている。あれ?そういえば、随分近いところで声がした、と思ったら僕のすぐ隣に、声の主らしき制服姿の女子高生がいました。あ、ちっちゃいから気付かなかった。でもこんな年端も行かない子に痴漢をするなんて!男の風上にもおけないやつだ!と思っていたら、女子高生ちゃんは僕の右手をしっかり握り、高く高くかざしていたのです。
え?
「この人!痴漢です!」
…………ええええええええ?ぼぼぼぼく?
そんなの濡れ衣だ!何かの間違いだ!
「だってこの人、ポケットの中でずっとあたしに触れるように手をもぞもぞさせて!」
いや、それは今夜のフィンガーテクの練習をしていただけで!とは言えませんでした。
「それにすっごいニヤニヤしてて!」
いや、それは今夜のももかさんとのvvを想像していただけで!とは言えませんでした。
「なんか、鼻息も荒いし!」
いやそれは――――――――――――!とは言えなくて。
周囲からはものすごい軽蔑の眼差し。と、その時ちょうど市川駅につきました。女子高生ちゃんは僕の手を掴んだまま、そのままホームに僕を連れ出したのです。
「だからこの人痴漢です!!」
「や、違うよ!そんなの誤解だよ!」
すでに周囲には人だかり。一緒に降りた人たちが、駅のホームに集まりだした人たちに、先ほどの女子高生ちゃんの「誤解」を真実として事細かに説明しています。ちょ、ちょっと!
「違う!違うんだよ!」
「何よ!男だったら正直に認めなさいよ!」
周囲からそうだそうだとの声があがります。うわ、すっかり僕には「痴漢」というレッテルがでかでかと貼られているようです。違う、違うんだ!そうじゃないんだ!どれだけそう言っても、周囲の目の冷たさも解けず、そして女子高生ちゃんの誤解も解けず。
その時はっと気付きました。もし、この状況を誰かに見られたらどうすればいいんだ?市川市役所の最寄駅は隣の本八幡だけれども、所詮は同じ市内。それこそ僕が福祉課で顔を合わせるおじいちゃんおばあちゃんにこの場を見られたら、いや、そもそも僕が公務員だとバレたらそれこそ「またしても不祥事!市役所職員猥褻行為!!」と少なくとも地方版にはデカデカと載ってしまいます。そんな事になったら僕はクビだ、そんな事になったら僕はどうやってももかさんを養っていけばいいんだ!!……多少の先走りも含みつつ、僕は思いっきり動揺しました。に、逃げなきゃと反射的に思って逃げ出そうとしたら、遠巻きに見ていた、おじさんたちがここぞとばかりに僕を押さえにかかってきた。うわ、そんな僕まるで犯罪者じゃないか!
「この人痴漢です!痴漢しました!」
「違うー!!!!僕やっていないってばー!!」
僕の半泣きの声がホームに響きわたりました。
遂に現われてしまった駅員さんに連行されながら、僕は人生の終わりを感じていました。
とはいえやってないものはやっていない。
駅長室に通された僕達は、駅員さんに事情聴取されました。冷静に筋道立ててとうとうと話す女子高生ちゃんと、やってない一点ばりの僕。でも駅員さんは公平だったのが幸いでした。
「どうかな?彼もここまでやっていないって言っているのだから、ちょっとした誤解だったんじゃないかな?」
女子高生ちゃんを窘めるように言ってくれました。
「いいえ!絶対に痴漢です。ポケットの中で誤魔化しつつ触ってました」
「触ってないよ!」
「多分、あたしが何もいわなかったら捲っていたと思います」
「捲らないよ!」
駅員さんは僕にもこう言ってきました。
「君も正直に白状したらどうかな?今なら初犯と若気のいたりって事で、警察沙汰にはしないから」
「だって!僕やってないんですよ!」
「初犯だって犯罪は犯罪じゃないですか!」
「だから僕やってないんだってばぁ〜〜〜!!」
どこまでも平行線。駅員さんもどう対処すべきか迷っているよう。とりあえずもう10時を過ぎたという事で、女子高生ちゃんは家に返した方がいいという話になりました、いや、多分そうやって収束させそうとしてくれていたんだと思います。
「一応保護者に迎えに来てもらいたいんだけれど?連絡取れる?」
「父親か母親じゃないとダメですか?私の家、居酒屋を経営しているんで、この時間はちょっと家を空けられないんです。誰か代わりに。成人だったら構わないですか?」
僕はぐったりと消耗しつつ、そんなやりとりを見ていました。それにしても、随分しっかりした子だよなぁ。よく見るとこけしみたいでちょっとカワイイ子だった。でも僕の好みじゃない。僕の好みはももかさん、僕にはももかさんだけなんだ――――!!
「で、君は誰か身元引受人になれる人を呼べないかな?身内でなくても」
「み、みもとひきうけにんですか?」
「うん、一応ね」
……まさか呼べない、この場合僕に一番近い人はももかさんだけれど、まさかこの場に呼べるわけがない!
「いないの?困ったなぁ……このままじゃ、警察に引き渡すしかなくなっちゃうんだけれど」
「もうさっさと引き渡してくださいこの人、社会の迷惑ですから」
「だーかーらー!!」
と、その時他の駅員さんに案内されて、女子高生ちゃんの保護者代理という人が入ってきました。
「!!ゆっ紫?」
「大真?どうしたんだお前?」
びっくりした。そこに来たのは紛れも無い紫だったんです。
「君はこの子の保護者代理かね?」
「ええ、そうです。学生の頃彼女の家庭教師をしていて。ええ、彼女のご両親も知っています」
「で、こちらの彼とは?」
「会社の同僚です。同期です……親友なんですけれど」
なんて偶然なんだろう。結局、紫がそのかつての教え子である女子高生ちゃんを説得してくれて、そして僕の人となりを駅員さんに説明してくれて、そして紫が2人の身元引受人となって、ようやく駅長室から開放されました。紫はいつものおっとりのんびりした姿とは別人に、とっさに状況を把握して、僕の為に言葉を尽くしてくれて……ううう、友よ!
「大真……大丈夫か?」
すっかり消耗した僕に紫が声をかける。
「ん……うん。……でもすごい偶然だった。助かったよ」
「あたし、まだあなたの事信じてませんから」
「だーっ!だから!僕は!!」
女子高生ちゃんは僕を警戒するように、紫の腕にしがみついていました。あ、あれ?
「ああ……そういえば紹介していなかった。これ、ふあり。俺の彼女」
……………………………は??
「え?ああ『家庭教師』は方便だ。さすがに『彼氏』とは言えないだろう?」
……………………………は?
「言っても良かったのに。それにしても、ゆかり君から聞いていた「大真くん」が痴漢だったなんて、がっかり」
……………………………は?
「いや、でも大真、そういう奴じゃないから」
……………………………は??
「えー?じゃあゆかりくんはあたしと大真くんどっちを信じるのー?」
……………………………は?
「どっちもだよ」
……………………………せ、整理しよう。
(1)とりあえず彼女はいるらしい
(2)趣味の雑誌の文通コーナーで知り合ったらしい。
(3)紫の彼女は……女子高生!!
「うわー!!!!」
ようやく驚きの声があがりました、あげずにはいられません。
「なんだよ、大真」
「だだだだって、紫、お前の彼女、女子高生って!」
「あれ?言ってなかったっけ?」
「言ってない!つうかお前はまったく教えてくれてない!!」
「だって痴漢するようなひと信用できないもんねー」
「だから僕は!!」
もう何を言っていいかわからなくなりました。
とりあえず、夜ももう遅いからと紫がふありちゃんを送っていこうとすると
「あたしなら大丈夫。ここから近いし、ちゃんと明るい道通っていくし。塾の帰りと変わらないもん。それよりもその人を送っていってよ、こんな人野放しにしたら、またどこで犯罪犯すかわからないもの」
「……」
もはや反論する気力もない。ただ一つはっきりしているのは、僕はまだ彼女の誤解を解けていないという事だ。
「それじゃ、ゆかり君、またね。あ、それからともだちはもうちょっと選んだほうかいいからね」
ひらひらと、手を振りあっさりとふありちゃんは去っていきました。去り際に僕に向けた目は「蔑視」という奴に他なりません。ああ……。
「……大真」
「……何?」
「一応聞くけれど、本当にやっていないんだよな?」
「お、お前まで疑うのか!!」
「まあ、信じているけれど、一応な」
「一応て!」
「どうせお前の事だから、満員電車の中でももかさんの事を考えていて、ニヤニヤしててそれで誤解されたんだろ?」
…………はい、その通りです。あまりにも図星で嬉しいやら悲しいやら。思わず口走ってしまいました。
「そ、そういうお前はどうなんだよ?あんな女子高生と付き合ってもうヤッ……」
その瞬間、紫がブリザードのような目で睨んできました。
「お前……やっぱり捕まったほうがよかったかもな」
慌てて話題を変える。
「し、しっかしあの子もサバイバルゲーマーなのか!あんなちっちゃいのに」
「でもあいつイイ動きするんだー」
紫のブリザード・アイが一転してキラキラと、いやうっとりとした表情を浮かべたんです。それは恋する目……そ、そうか、そこがお前の惚れどころなのか。
「まあ、あいつも若いからさ。そのうち追々誤解を解いておくよ」
「……頼む」
親友の彼女に「痴漢」と誤解されたまんまなんて、ちょっと悲しすぎる、いや情けなさ過ぎる。
「それにしても……」
「なんだよ?まだ何か言うか?」
いや、そのなんというか、落ち着いてみれば、紫の彼女に会えたのは嬉しかったんです。ずっと気になっていた紫の彼女、そしてその彼女にゆかりがあんな目をしていたのを見て、あ、幸せなんだろうなと素直に思えたし、僕もなんだか暖かくなりました。紫の幸せの四葉のクローバーちゃん、うん、驚いたけれどなかなかお似合いじゃないか。うんうん。
「よし、何かあったら僕が恋愛相談にのってやるからな!」
「いいよ別に」
「よくないよ、だって紫、僕の相談のってくれるじゃないか」
「あれはお前が勝手に話してくるだけだろう?」
「とりあえず最初はディズニーランドに行くといいぞ!」
「お前、人の話聞いていないな?」
なんだかんだで話しているうちに、僕のアパートの前に着きました。結局紫に「送って」もらってしまったことになります。
「あ、電気がついてる」
そうだ、今日はももかさんが待っていたんだ。そんな楽しい夜になるはずだったのに、とんだハプニングです。さて、これをどうやってももかさんに説明すべきか……いや、もちろん黙っているに越したことはないですよねぇ?
それじゃあと紫は帰っていきました。で、僕は部屋に入って、ももかさんに遅れた理由を当り障りない範囲で説明しました。ふありちゃんに出会ったこと、そしてそこにゆかりが来たこと、驚いたことに紫の彼女がふありちゃんだったこと、そしてあの紫が恋する目をしていたことを。
ももかさんは遅れたことに最初怒っていましたが、そのうちその話をうんうんと聞いてくれていました。あ、ももかさんもやっぱり気になっていたんじゃないか。
僕の話が終わるとももかさんが待ちかねたように口を開きました。
「で、大真くんはそんな女子高生ちゃんと話をしたきっかけはなんだったのかしらね?」
は?なんだか口調がおかしい。
「紫君が『後から』来て驚いたって言ったよね?じゃあ最初に大真くんはその子をふありちゃんと知らないで話していたんだよね?」
は?もしかして?
「ふーん、大真くんってやっぱり若い子がいいんだ」
ち、違います!ももかさんは僕がどうして「紫の彼女であることに気付く前にふありちゃんと接触を持ったのか」と聞いています。そしてそれに「ナンパでもしたんだ、へー?」という勝手な回答をセットにして。ご、誤解ですよ!でもそれを証明するには、一連の事件を説明しなくてはなりません。でもそんな事は死んでもできない。答えない僕にももかさんの疑惑が深まる。
「んんー?なんでかなー?なんでふありちゃんとお話していたのかなー?」
ももかさんが指をぺきぺき鳴らし始めた。どうやらねえさんは本気で怒っているようでした。
この後、僕がどうなったのか、そしてももかさんの誤解はとけたのか、さらにはふありちゃんの誤解はとけたのか、それは皆さんのご想像にお任せします(涙)(何があったんだ)。と、とにかく僕も紫もももかさんもふありちゃんも、愛!地球博!LOVE&PEACH!ビバモリゾー&キッコロ――――!!(錯乱中)
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ようやく出ました、紫×ふありです。
ちなみにこのネタ、地元の駅で、「痴漢をした!」と女の子ふたりにとっちめられていた若い子(最初はやっていないと抵抗するも、途中で諦めて逃げ出そうとしたところを周囲の人に止められた、おいつめられて「だから僕やっていないんだってば〜」と泣き声で叫んでいた)を見て、とっさに「美波里の大真くんみたいだなぁ」と思ったところから始まっています(そんな具体的に説明しなくても)。実際に私には経験がないので(あったら困るよ)、痴漢の濡れ衣をきせられたらどういう風に法的に扱われるのかわかっていません(笑)。
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