『ももかサンタのクリスマス大作戦』


「ねー、大真くん今年のクリスマスなんだけどさー」
 クリスマスまであと一週間のある日。そんな口火を切ったももかさんに
「ええ?なんですか?なんですか?」
 僕は超高速で喰らいついた。
 毎年毎年波乱万丈のクリスマス、そして毎年毎年ももかさんはちっとも乗り気じゃなくて。今年だって何をしようかと考えつつ、どうすればももかさんをクリスマスに乗せられるかを考えていた。それが今年は!なんと!!ももかさんから!!!思わず「!」がむっつもついてしまう。
「今年は一味違うよー、あたし、やるよー」
 なにやら含み顔のももかさん。
「ええ?なんだろう?なんだろーう!」
 ももかさんは当日の秘密、となかなか教えてくれない。ああ、わくわくする。まだサンタがいると信じていた子供の頃と同じぐらいにわくわくする。きっと今年のクリスマスは一味違う。
 そんなこんなでクリスマス・イブがやってきた。
「メリークリスマースフォー!」
「……ももかさん?」
 目の前にはサンタコスのももかさんがいる。
 今年はちゃんとミニスカサンタでそれはそれは眼福なんだけれど、どうして、僕は、トナカイのぬいぐるみを着せられているんだろう?
「と、いうわけでよ!メリクリスペシャル2005、ももかサンタのクリスマスだいさーくせーん!!」
「は?」
「いや、今年も色々なヒトにお世話になったと思うワケよ?ま、アタシもいろいろお世話したんだけれどね?で、そんなヒトたちに今年はアタシから感謝の気持ちを込めてももかサンタの愛の宅急便ってワケよ!どうよ!やっぱり愛は地球を救うと思うんだよねー?」
 確かに今年のももかさんはのっている、クリスマスにのっている。ただし激しく間違っているけれど……。
「で、僕なんなんですか?」
 もはやこんなももかさんは止められない。でも一応聞いてみる。
「そりゃ、サンタにはトナカイがツキモノでしょー?なんていうの?ファンタジーの中にリアル?」
 リアルだ、目の前のももかさんは歌舞伎町のおねえさんとしてリアルだ、とは口がさけても言えなかった。
「それじゃももかサンタの出陣じゃーフォー!!」
 やっぱり今年はレイザーラモンHGなんだな。そういえばヒロシとかギター侍はどこに行ったのかなぁと思いながら、僕はトナカイ角をつけ、トナカイ赤鼻をつけ、なんだかやたら重いサンタ袋をかついだ。これが、ぼくの、愛のかたち……。
 涙ぐんだのは、北風のせいだ。


いでたち。移動の時は一応コートを着てました。
※無造作に履かされてますが、大真くんが履いてるブーツは彼が欲しがっていたものです。



「ピンポーン、メリークリスマース!」
 さて、一軒目は?
「どっわ!お前それなんだよ!」
 ももかさんの同僚、美稀さんちだ。
「あー、やっぱりいたんだー、クリスマスなのにちーくんも寂しいねぇ?」
 なんて失礼なんだろう。
「なんだよお前!何がしたいんだよ!」
 うんうん、それが普通のツッコみだよな。でもももかさんは全く動じない。
「まあまあ、そんな寂しいちーくんにももかサンタから愛のクリスマスプレゼントー!」
 ごそごそと袋から取り出したのは子供用の乗用車
「なんだよコレ!」
「ちーくん車欲しいって言ってたじゃーん」
「違うだろコレ!」
「あ、でも対称年齢2歳からだって、ちーくんには早すぎたかなあ」
「逆だろ!」
「ま、いいじゃんいいじゃん『車にポピー』って感じでなんか楽しいよきっと!」
 くるまにぽぴー?
「古いよ!つうかそこのトナカイには伝わってねえよ!つうかそこのトナカイなんだんだよ!」
 ……ようやく、僕にもツッコんでくれた。遅いけれど。
「えー、やっぱりジェネレーションギャップって奴?かー、姉さんきっついわー」
「つうか質問には答えろよ!」
 いやもうそれは無理ですよ、ももかさんノリノリだもん。
「それじゃちーくん、よいクリスマスを!じゃーねー!」
 バタン、とももかさんがドアを一方的に閉めた。僕は冷静に考えた。どう考えてもコレは押し売りよりタチが悪いんじゃないだろうか。それに結局これは喜んでもらえているんだろうか?でも隣のももかさんは「アタシなんていいことしたんだろう」と満足顔をしている……うん、まあ、とりあえずいいのかもしれない。
 ちーくんさんごめんなさい、来年は僕がちゃんとさせますから。


どうしんにかえっています。



「ピンポーン、メリークリスマース!」
 さて、2軒目は?
「あれ?ももか主任どうしたのー?そんなカッコで寒いでしょー?」
 いやツッコムなら衣装そのものにツッコんで欲しいんだけどなぁ。
 同じくももかさんの同僚、立樹椎太郎さんちだ。そういう本名だったんだと表札を見て知った。僕がいつも話を聞くときは「しぃちゃん」だしなぁ。
「今年もいい子にしていたしぃちゃんに、メリークリスマース★ももかサンタのプレゼントですよー!」
 ももかさんのサンタ姿を全く気にもとめていない立樹さんに、取り出したのはなんだか青いビニール製の物体。
「何?これ?」
「それはこれからのお楽しみ、さ、大真くんこれ口で膨らませて!」
 見ると小さな吹き込み口がついている。あー、なんとなく想像がつく。だから僕は聞き返した。
「え?ポンプとかないんですか?」
「若いもんが何言っているのよー、それに大真くん得意でしょー?」
 若いかどうかは関係ない。つうかコレに得意も何もない。
「……口で膨らませるのは、ももかさんの方が得意じゃないですか」
「へえすごいねー」
 せめてもの反撃(下ネタ)をももかさんは聞いていなくて、そして立樹さんには流された。
「まあとりあえず寒いから中あがりなよ、お茶でも入れるよ」
「え?悪いねー」
 そして流されたまま、ももかさんと立樹さんはドアの中に。え?僕は……?ひとり寒い廊下に取り残される僕。……なんてことだ!それでもとりあえず膨らませろと言われたからには膨らませなくてはならない。ああ、僕ってなんて健気、こんな寒い中で、ももかさんの為にひとりコレを膨らませている僕、これが僕の愛のかたち……多分、絶対に違う。
「ごめんごめん!キミが外にいたのを忘れていたよ!」
 十五分後、さりげなく失礼にも『忘れていた』と公言して憚らない立樹さん(悪気なし)がドアを開けて見たものは、大きく膨らんだイルカフロート
「うわぁ!!」
 歓喜の叫びをあげる立樹さんは、その側で寒さで倒れた僕に気づかない。
「メリークリスマス、礼はいらないよ!」
 とひとりカッコ良くキメたももかさんはそんな僕をずるずると引きずっていく。
「いやあ!喜んでもらえるって嬉しいね!」
 そうですね、ももかさんがいいならそれでいいですよ。僕はトナカイ、サンタの奴隷、奴隷……それも悪くないな、なんて思ったのはきっと寒さのせいだ。
 立樹さん、喜んでもらえて何よりです。でも来年はちゃんと僕がももかさんを性の奴隷にしてこんな粗相はさせませんんから。そう心に誓った僕だった。


年明けに職場に持っていくそうです。



「ピンポーン、メリークリスマース!」
 さて、3軒目は?
「すごいね!」
 ももかさんのサンタにも、僕のトナカイにも、そもそも突然の訪問にも、そんな一言で驚きもツッコミも丸め込んでしまったのは、やっぱりももかさんの同僚の麻園さん。
「お世話になった麻園さんにもメリークリスマスプレゼント!麻園さんと言えばアイボ!とゆうわけでアイボのごはん、乾電池で決まり!」
「……いや、アイボって充電式なんだけどね」
「細かい事気にしないで!」
「……いや、全然細かいところじゃなくて、基本仕様なんだけれどね」
 そんな会話をしているうちに、麻園さんちのアイボが玄関に集まってきた、いっぴきにひきさんびき……うわー何匹いるんだー!
「ほら!アイボも皆喜んでいるって!」
「……いや、多分主任が珍しいから集まったんだよ」
 というか、警戒されているんじゃないだろうか?
「じゃあお礼にコレでも見ていってよ!」
 麻園さんが手を叩く、するとアイボがクリスマスソング(内臓音源)に合わせて全員一糸乱れぬダンスを見せ始めた。
「うわー……」
 ももかさんと僕がおもわず声をあげたのは、そんなアイボたちよりも、そんなアイボをすんごいとろけそうな顔で眺めている麻園さんに、だった。
「め、めりーくりすますー!」
「え?まだ最後まで見ていきなよ!」
 そんな麻園さんの声をさえぎるようにドアを閉めた僕たちだった。
「すごかったねぇ!」
 そんな一言でまとめたももかさん。今日、唯一共感できたももかさんの一言だった。
 麻園さん、今回は痛み分けって事で勘弁してくださいね。


麻園さんとアイボ・オールスターズ。
今回の一押し画像です。



「ピンポーン、メリークリスマース!」
 まだまだ続くぞ4軒目。
「……とししたくんも大変だねぇ」
 う、うれしいです。ようやくここに来て、僕への労いが!さすがひかるさんは違う、と言っても数えるぐらいしか会ったことはないけれど。でも後で考えたら、僕への労いというよりももかさんへの呆れの最上級表現だったのかもしれない。
「で、何の用?」
「もうひかちゃんはツレないなぁ、クリスマスよ?こうもっと盛り上がっていかないと!誰かいないのー?部屋の中に誰か隠してないのー?」
「で、何の用?」
 ちょっとひかるさんが怒っている。だ、だよね……。僕もちょっとビビった。
「い、いや、その……とにかくメリークリスマース!エンダ、プレゼント!」
 取り出したのは普通にマルボロメンソール(カートン)だ。
「あ、ちょうど切らしていたんだよねー」
「うん、そうだろうなーって思って」
「ももたん気が効くじゃん?」
 あ、普通に喜んでくれているようだ。つうかそれだけを渡すのにここまでするももかさん。まあ、その努力は認めてもらっていいのかもしれない。
「来年は、職場で渡してくれればいいから」
 あ、やっぱり無駄な努力だったらしい。
「え?で、でもこうクリスマス気分がガーッって盛り上がるじゃん?アタシの気持ちなんだからさぁ」
「ももたん、自分の歳考えてみ?」
「……」
 急に現実に引き戻された。
「じゃ、ふたりとも風邪ひかないでねー」
 最後に釘を刺してから、ひかるさんはピシャリとドアを閉めた。……う、うん、ひかるさんの言う事はもっともだ。さすがにももかさんもこれには堪えて
「ま、まあ気を取り直して次行こうか!」
 気を取り直さなくていい。
 ひかるさん、ごめんなさい。もしかしたら僕は、来年もこんなももかさんの暴走をとめられないかもしれません。


出てきてさえもくれません。実は中に人がいたのかも!?(ももかさん口調)



「次行くとこ、もしかしたら留守かもしれないんだよねー?」
 いやももかさん、それは最初から誰のとこでも危惧すべき事じゃないんですか?しかし皆さん見事に在宅だ。ああ、こんな事では日本の出生率が下がるばかりだ(イブの夜はヤルものだと信じて疑っていない大真くん)。こうなったら僕とももかさんで!と考えているうちになんだかすごく高い(値段が)高層マンションの前にたどり着いた。すぐにわかった、ここはももかさんの取引先のあのおかねもちの家だ。ももかさんの元同僚と新婚ラブラブ生活をおくっているというおかねもちの家だ。
「もっ!ももかさん帰りましょうよ!こんなところにこんなカッコで入ったらすぐに警備会社呼ばれますよ!」
「だいじょうぶだいじょうぶー、だってあたしサンタだもん」
「通じませんよそれ!」
 構わずにズカズカ入っていくももかさん。と、そこで
「ももか主任?」
 声をかけられる。やばい、捕まる!……あれ?でも「しゅにん」て……
「涼さーん!なんだ、今日は家にいたんじゃないのー?」
 ちょうど帰ってきたという風情のおかねもち……涼さんがそこにいた。会うのはもちろん初めてだ。うわ、すごいセレブだ。豪華な花束を抱えている。
「今日は新規事業のレセプションがあったんんですよ。で、ももか主任こそその格好は?」
 あまり驚いていない。その顔にははっきりと「まあ、ももか主任だからね」と書いてある。いいのか、取引先にそう思われているのはいい事なのか?と自問自答しつつ、さらにその裏に「まあ、ももか主任の彼氏だしね」とトナカイな僕を生暖かく見つめる視線が……きっと僕らの上に貼られたラベルは「変態カップル」だ……ッ!
 ももかさんはかくかくしかじかと、ももかサンタのプレゼント大作戦を説明した。そうですか、ありがとうございます。とりあえずあがっていってくださいよ、とマンションの最上階に案内される。入り口には当然ガードマン、涼さんがちらりと目線をやるだけで、僕らは何も咎められなかった。そして指紋認証のエントランス……涼さんに会って良かった。でなかったら僕らは本当に愉快な犯罪者にされていた。
「でも残念、せっかく涼さんとヤツカを驚かそうと思っていたのにー」
「じゃあ、お返しに僕がお二人を驚かせますよ」
「え?」
 最上階にたどり着き、インターフォンを鳴らす。そしてドアが開いた。
「お帰りなさい涼さん」
「ヤツカ!アンタ!なんて格好しているの!」
「ももももかしゅにん何で!っていうか主任こそ!」
 さすがに僕も驚いた。目の前にサンタが二人。そう、おかねもちの奥さん、ヤツカさんもももかさんと全く同じミニスカサンタコス……。
「なかなか壮観ですね、ねえ?」
 と、同意を求められてもちょっと困った。
「涼さん!お客さんがいるならどうして言ってくれないんですか!」
「涼さん!そんな趣味があったなんて!」
 ヤツカさんとももかさんが同時に涼さんに抗議をしている。それに涼さんは平然と「そこで偶然会ったから連絡する暇が無かったんですよ」と「今日はクリスマスですからね、ちょっとした趣向ですよ。別にいつもこうじゃないんですよ?」とフォローをしていた。いや、なんというか、おかねもちってすごいなぁ。
 とりあえずこの場はさっさと退散したほうが懸命だ。と僕はももかさんを肘でつついた。
「そ、そうだ、肝心なことをわすれてたわーメリークリスマース!プレゼントーフォーユー!」
 ああ、この場をうまく納めるようなプレゼントであって欲しい。そして少しも早く退散したい。ところがももかさんが取り出したのは
「やっぱり『新婚さ〜ん、いらっしゃ〜い』てカンジでYES/NOまくらなワケよ!」
 ももかさん、ちっとも似てない!つうかどう考えてもはずしている!はずしている!ほら、涼さんも唖然として
「これ、なんですか?」
 ……?
 どうやら涼さんは本当にコレを知らないらしい。ももかさんも一瞬怯んだが、かまわず説明をした。
「だからさ、ヤツカだって涼さんのスゴツヨについていけない時もあるでしょ?もう、適材適所!」
「ももかしゅにん!スゴツヨて!」
 ヤツカさんはもうかわいそうなぐらいに真っ赤になっている。多分、本当はこのサンタコスも死ぬほど恥ずかしいんだろう。それにくらべてうちのももかさんは恥じらいというものが全く無い、と思っていたら、それまで真剣に考えていた風の涼さんが言った。
「これ、僕たちには不要ですね」
「へ?」
「だって、僕ヤツカに拒まれた事ないですし」
「は?」
「ちゃんとヤツカの基礎体温も生理期間も把握していますし」
「え?」
「NOはいらないですよね、ねえ?ヤツカ?」
 ヤツカさんが絶句している。そしてそれは涼さんの言葉を肯定するものでしかなかった。
「……いやあー!まいったまいった!ねえさんアテられちゃったなぁ!いよっ!ご両人!じゃ、ヤツカはもうオールオッケーって事でこのまくらはYESを常に上にするって事で!じゃ!メリークリスマース!」
 結局、ももかさんが無理矢理まとめてその場を収束した、の、かなぁ……。
「……いやぁ、おかねもちはすごいねえ!」
 僕もなんだかすごく社会勉強をさせてもらった気がする。と同時に涼さんが少し羨ましくもなった。あの人は自分の奥さんにサンタコスをさせるだけじゃなくて、拒まれたこともないんだ。ああ、それなのに僕はトナカイコスをさせられて、いつもいつも、お預けをくらって……神様って、不公平だ。
 涼さん、僕も来年は僕の手で、ももかさんにサンタコスを「させられる」ようにがんばります。


セレブの簡素なクリスマス。大真くんがゴン太くんみたいです。



 そろそろ袋も軽くなってきた。ということはそろそろこのクリスマス行軍も終わりなのかもしれない。
「ピンポーン、メリークリスマース!」
 ええっと、6軒目は
「わあ、しゅにんvおひさしぶりですー」
 ……どうしてこの人も、ももかさんのサンタコスとか僕のトナカイにツッコまないのだろう。しかもすごく嬉しそうだ。ええっと、ここは確か去年まで事業部にいたちかさんのおうちだ。
「しゅにん、あたしの事忘れないでいてくれたんだ、嬉しい」
 とてもとても嬉しそうだ。
「はい、じゃクリスマスプレゼントー!どうせかつきもいるんでしょ?だから二人で仲良くクリスマスケーキでも食べてよ」
「ありがとうございますー、でもしゅにん?ちか、どうせサンタさんにもらうなら違うものがいいなぁ?」
「え?」
「ちかの、いちばん、ほしいものvv
「え?」
「もう〜、主任わかっているくせに〜」
 途端にももかさんが慌てだした。ん?なんなんだ?
「や、あれはちょっとあげられないなぁ!」
 更に慌てるももかさん。あれってなんだろう?
「もー、主任てば照れちゃって。なんなら、今ここであの時のこと話しましょうか?」
「ばばばばばばばー!」
 あの時のこと?


言われるまで例の事件のことをすっかり忘れていたももかさん。
(詳しくはビバリウムの『クライシスパイラル』をチェックや!(どりさん口調))


「うふふふ、主任困ってるー。しょうがないなぁ、じゃあちか、二番目で欲しいものでがまんするから。はい」
 さっぱり状況が読めない僕。そしてちかさんは目を閉じた。な、なんだろう?
「わ、わかった!ちかはコレが欲しいんだよね!」
 そう言うが早いが、ももかさんは僕の頭をつかんで、ちかさんの顔に近づけて……キス、させた。
 慌てて唇を離す僕。ちかさんはゆっくり目をあけた。
「うふ、主任、メリークリスマスーv
 そして、ドアがパタリと閉じられた。
「もっ、ももかさん!い、今のは!なんですか!」
 僕の唇が、ももかさんの手によって、ももかさんじゃない唇に!
「あ、あのねー、あの子キスコレクターなのよ!」
「は?」
「なんかね、1000人とキスすると願いが叶うって、そういう宗教やっているの!ね!だからさ!これも人助けだと思って!」
 その割にはなんかももかさんの挙動が不審だ。まあ、でもそれはさておき僕の唇が奪われた事には間違いなくて。だから僕は言った。
「でもひどいです!僕の唇はももかさんのものなのに!ももかさんの唇とか鎖骨とかうなじとか乳首とかお臍とかのものなのに!」
「だああああ!何言っているのよ!」
「僕の唇はももかさんの」
「それ以上言うなー!」
「じゃ、ももかさん責任とってくれますか?」
「責任?」
「こんなことされて、僕もうお婿に行けない!だから責任!」
 もういいだろう、僕は今日ここまで黙ってついてきた。だからももかさんにワガママを言ってもいいはずだ。これは正当な権利なんだー!
「わ、わかった!責任をとればいいんでしょ?」
 キスするどころかその場で押し倒さんばかりのイキオイで迫る僕に、ももかさんが言った。これできっとようやく普通のイヴになるはずだ。もうサンタの袋はからっぽになった。だから、家に帰るのだ。そして僕は言うのだ「ももかサンタさん、僕へのプレゼントはないんですか?」「うん……もう袋にはないからね、だから、プレゼントは、ア・タ・シv」ももかさんがゆっくりと僕にまたがり……そうだ、きっとそうに違いない、ここまでのはそれを演出する為の前座だったんだ!僕は確信した。



 ところが
「ピンポーン、メリークリスマース!」
 7軒目は、僕の家でもももかさんの家でもなかった。ここは?
「ももか?大真くんも……」
 あ、秋園さんちだ。秋園さんがクリスマスイブに家にいるなんて、いや、きっと部屋に誰かいるんだ、ももかさんもなんて無粋な。というか何でわざわざ秋園さんちに?もうプレゼントは無いはず……
「今年ももそんちゃんにはお世話になりました。というわけで謹んでクリスマスプレゼント!」
 僕をぐいっと押し出した。え?えええ?
「ごめんねー、こんなんだけど」
 ええええええ!僕がプレゼント?しかも秋園さんに?
「あらぁー、ももか気が利くじゃないー」
 ええええええ!秋園さん受け取るんですか?
「もっ、ももかさん!」
 僕が半分泣き顔で訴えると
「だって、大真くん責任とってって言ったでしょ?だからほら、お婿にもらってもらいな、いいでしょ、そんちゃん?」
「悪くないわね」
「ええええええええ!」
「じゃ、もし気に入らなかったら適当に処分してよ!それじゃ、メリークリスマース!」
 なんてことだ、ももかさんは本当に僕を秋園さんちに置き去りにしていった。う、うそだ、こんなのうそだ。きっとすぐに「なーんてね、冗談冗談ー」ってももかさんが戻ってくるはず……も、戻ってこない。
「あ、あきそのさん……」
 半泣きで振り返ると、秋園さんはさっきの「あらおいしそうとくしたわ」な顔はどこかへ行って、ひどく呆れた、そしてひどく同情した眼差しを僕にむけていた。
「あんたたち……どうなっているの?」
 それは僕が聞きたいです。そして僕はこの場の収束に困った。
「あの、どうしましょうか?僕、一応、プレ、ゼントらしいんですが」
 ああ、言っていて情けなくなってきた。つうか本気で涙が溢れてきた。
「馬鹿ね、本気でもらう訳ないじゃないの」
「じゃあ僕いらないから処分されちゃうんだ」
「あのね、処分て」
「僕、ももかさんからも秋園さんからもいらないっていわれちゃったうわーん!」
「ああー!もうっ!泣かないでよ!」
 でも秋園さんはちゃんと僕を慰めてくれた。ティッシュで僕の涙を拭いて、鼻をかませて「きっとあれはももかの冗談よ」「ウチに帰ったらももかが待っているわよ」「もしかしたら、本当にサンタ気取りで朝目覚めたらももかがいるわよきっと」と諭されて、家に帰る事にした。電車は終わっているので、秋園さんにタクシーのお金を借りた。
「あとで返します……ううっ」
「はいはい、泣かないで。返さなくていいわよ、私からのクリスマスプレゼントだと思って」
「ありがとうございます……」
「あのね、大真くん。ももかはあんなんだけれど、大真くんのこと、大好きなのよ?だからね、呆れずにつきあってやってね」
 ああ、秋園さんはやっぱりいい人だ。僕は落ち着いてくるうちに、気づいた。秋園さんはイヴに、家にいた。ひとりで。
 秋園さんへのプレゼントは、何がいいんだろうか?僕はプレゼントにならなかった。それはそれで、僕は秋園さんへのプレゼントは何がいいかを聞いた。なんだか、僕だけもらうんじゃ不公平な気がしたから。そしたら秋園さんは「いらない」と言った。
「え?でも」
「いいの、今年はね、素直になるの」
「秋園さん」
「大真くん、前に言ってくれたじゃない。本当に欲しいものじゃないと駄目だって。だから、今年は何もいらないの」
 そう言って秋園さんは笑った。笑いながら、それ以上は聞くなとも言っているようだった。
「……メリー、クリスマス」
 僕はもうそれしか言えなかった。
「メリークリスマス」
 そして秋園さんは笑って送り出してくれた。


かわいそうなトナカイ。
イヴは一人だったけど他の日はたんまり遊んでいたらしい秋園さん。




 僕は急いでタクシーをつかまえて、家に戻った。家にももかさんはいなかった。けれどもきっと、待ちきれないでお休みした子にはきっとサンタさんが来ると信じて、ひどく疲れたこともあって眠りについた。眠りにつきながら、僕は今日回った皆さんを思い返していた。ひとりでいたひともいれば、誰かと一緒にいたひともいる。けれども、僕にはももかさんがいた、ももかさんとずっと一緒だった。「サンタにはトナカイがツキモノ」、ももかさんには、きっと僕がツキモノなのだ。
 それは、多分、幸せな事なんだ。
 そう考えながら僕は眠りについた。


 朝に、なった。
 ももかさんは、いなかった……。
 確かに、今年のクリスマスは一味も二味も三味も……
「な゛ーーーーーーーーーー!!」


 メリークリスマス、僕以外の人は、幸せでありますように。



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【後日談】
 本当は大真くんが心配で、秋園さんちに戻ってきたももかさん。「大真くんなら帰したわよ」「えっ!そんちゃん食べなかったの?」「食べてよかったの?」「う、……」その後小1時間ほど、秋園さんはももかさんを説教、そしてその後朝までガールズトーク。盛り上がるうちに大真くんの事はももかさんも秋園さんもすっかり忘れてしまっていた。
 慌てて大真くんちに戻ったももかさん。その日の晩はもう凄かったとか。


その日の晩の図。
ねえさんは脱がされてパンツ一枚だけです(趣味じゃん)。



【後日談その2】
 ももかサンタの諸国漫遊(違)の途中で、たまたま南海(総務課)とすれ違った。
「そのトナカイは、おとなかい?」


 おあとがよろしいようで(よろしくない)。




* * * * * * * * * *
 遅れてますがいつもことなので気にせずメリクリ★。
 小郷さんちの道場での、大百クリスマスエロ絵にインスパイアされました(笑)(どういう変換だ)。ほぼ小郷さんとの真夜中電話会議から生まれたネタ。口頭で交わされたネタをほぼリアルに再現(笑)。ちなみにすずやつ部分は完全に六実オリジナル(言わなくてもわかるから)。こういうネタはテキストにするとイマイチノリが悪くなるんですが、おごりんに書いてもらった画像にすごい助けられました(ホクホク)(一コマ目のももかさんがかわいくてお気に入りです)。
 六実=すずやつの人ですが、大百も大好きです。ただ大百は口頭で話しているウチに楽しくなって終わっちゃったり、テキストにしにくいネタばかりで、なかなかテラリウムでは表に出てこないのです(笑)。久しぶりに大百れて(動詞か!)楽しかったでーす。

(そう言えば去年はももかさんが茶会でサンタ姿、そして大真くんが産経若手ショーでトナカイコスを披露していたなぁと、懐かしく思い返しました)

2005.12.28