はじめは気づきませんでした。
だけどあなたに抱かれてすぐにわかったのです。
わたしはあなたであり、あなたはわたしであるのだと。
指を絡めた時に重なった、手首の内側のくぼみが、まるで男女の交接のようにぴったりとはまり、わたしの身体は、まるで電流を流したかのように、しびれたのです。
あなたは、気づいていたのでしょうか?
わたしにくちづけようとした、あなた。だけどくちびるをふれあわせた瞬間、どうなるのかあなたはわかっていたのでしょうか?
いいえ、わたしにもわかりません。
けれども、わたしの中でそれは「いけないこと」だと、誰かが言っていたのです。それはあなただったのではないのですか?そしてあなたの中のわたしは……わたしは、あなたと、ふれあうことを望んでいたのでしょうか?
いまでも思い出すのです。
あの砂塵の彼方で、あなたに会ったあの日のことを。それが過去だったのか未来だったのか、あるいは現在なのかはもうわからなくなりました。ただ一度だけの邂逅。
あなたはわたしを待っていたのですか?
わたしはあなたを待っていたのですか?
わたしはもう随分長いこと、待っていました。あの人を。
ときとところ越えて、何度も巡り会うあの人だけを待ち、あの人だけを恋焦がれ、あの人に巡り会ったとき、わたしは初めて私になれるのです。何度繰り返しても、初めて私になれるのです。何度も繰り返す生と死のはざまで、わたしはいつまでもわたしのままでした。何度繰り返しても、同じなのです。あの人に会わない限りは。
あの人にあなたが触れたとき、わたしはいいようのない怒りを覚えたのです。あの人は、わたしのあの人なのです。あの人もまた、わたしを探して繰り返しているのです。けれども、あなたがあの人に触れたとき、わたしはいいようのないよろこびを覚えました。初めて、そう繰り返してきた初めてではなく、本当に初めて、あの人に触れたと思ったのです。わたしが、私を越えて、もっと何か別のものになれるような気がしたのです。別のもの、それは、あなただったのではないかと、いまにして思います。そう思うと、まるで電流を流したかのように、しびれたのです。
砂塵の果てに、あの人を失いました。それがあなたのせいであるのなら、わたしはあなたを殺したいくらい憎むでしょう。いえ、憎んだのです。そしてわたしの涙は砂塵にのまれたのです。わたしはどうして泣いていたのでしょうか?それは失ってしまったあの人にではありませんでした。それは振り出しに戻っただけで、決して絶望ではなかったのです。ふたたび出会える奇跡があるのですから。だからわたしはわたしのまま、また繰り返されるのです。
わたしの涙は、きっとあなたの為に流されたのでしょう。
もう二度と会えない、わたし。二度と会ってはならないあなた。
わたしはあなたであり、あなたはわたしであるのです。
失われた半身、二度と戻らないわたし、二度と戻れないあなた。
最初から失われていたのです。
だからわたしは、残された半身で、あの人を求めるのです。あの人に巡り会うために、流れてゆくのです。
だけどあなたはきっと、そこにいるのでしょう。流れてゆくこともなく。
わたしはあなたを憎いと思いました。だけどいとおしいとも思いました。
だから、この永い旅の終わりがくるのなら、もしそれがかなうのなら、その時はいっしょに還ってゆきましょう。いつかのあの場所へいつか。
わたしはあなたで、あなたはわたしなのですから。
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