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よくぞ見つけてくださいました。
それでは
ナパームスクエアWD2006 Vol.8686 3月14日。 今日はホワイトデー。 「やっぱりナシだよなー」 明石は悩んでいた。頭を抱えて悩んでいた。明石の前には綺麗にかわいくラッピングされたクッキーの詰め合わせがある。いわゆる、ホワイトデーのお返しだ。 「ナシだよな、もらってないのに、お返しをあげるなんて」 事の起こりはこの間の日曜日。同級生の一輝に誘われて「ホワイトデーのお返しの買出し」に行った。お前も買うだろ?と言われて、本命はおろか義理すらもらっていないことを、変な見栄をはって言えなかった。 一輝はちいさい「義理のお返し」をいくつかと、ちょっと値段がはったのをひとつ買った。そうか、あれが「本命のお返し」なのだな、と明石は思った。いや、そんなことより自分は今ここで何をしているのだろうか?……本命も義理もない。けれども明石はひとつだけ綺麗にかわいくラッピングされたクッキーの詰め合わせを買った。一輝をごまかすためじゃない、ちゃんと彼女の顔を思い浮かべながら、それを買ったのだ。 本当は明石は期待していたのだ。幼馴染のウメから義理でもいいからもらえることを。もっと言うならば、ウメから本命のチョコをもらえることを願っていた。中学の入学式、セーラー服を着たウメが急に別人に見えたあの日から、明石はウメが好きだった。幼馴染でいつも一緒に犬ころみたいにじゃれあっていたウメに、まだそれを告白できないでいる。あまりにも明石とウメは近いところにいすぎたし、何よりウメはきっとそんな気持ちは持っていない。明石はそんな想いをもてあましながら、それでもウメが好きだった。だから当然、「お返し」を買うときに浮かんだのはウメの顔だった。 ああでもやっぱりナシだよな、でもせっかく買ったんだし、いやでもそもそも「お返し」なんだから、もらってないのに返すのはおかしい、つうかなんで「お返し」なんだろう?バレンタインデーが女の子が男の子に告白する日なら、ホワイトデーはその逆であってしかるべきだ、ああでも男だったらそんなものに頼らないで告白すべきなのか、 明石はその包みをカバンに入れたまま、一日中煩悶していた。煩悶しているうちに下校時刻になってしまって、結局そのまま家に帰ろうとしたら 「明石、いる?ちょっといい?」 教室の入り口にウメがいた。そして言われるままに体育倉庫の陰に呼ばれる。 な、なんだ?俺なんかしたか?この間ウメから借りた国語の教科書の正岡子規の禿頭に落書きしたのがばれたか?この間ウメのクラスが体育の時に、ウメのおばさんが作ったお弁当をこっそり盗み食いしたのがバレたか?それともこの間のテストの時に一晩かけて作ったカンニングペーパー、ウメに脅されて複製してやったけれど、けれどもそのカンニングペーパーが全部間違った答えを書いていたことを怒っているのか?それとも…… 妙におびえてしまうのは、明石はウメに頭があらがないからだ。今でこそ、ウメの身長を追い越した明石だけれども、子供のころはウメより小さくて、ひ弱で、いつもいじめられていた。そんな明石をいつも庇ってくれたウメに、明石は一生頭があがらないと思っている。 「あのさ」 ウメの顔がなんだか強張っている。お、怒っているのか?けれどもウメはそれを言ってからしばらく黙ってしまった。 「なんだよ」 「あのね……」 また、沈黙。 明石はちょっとイライラしてきた。怒るなら怒ればいい、殴るなら殴ればいい、しばくならしばくがいい!そう覚悟を決めて今度は語気を粗くして 「なんだよ!」 「これ!」 明石の語気につられるように、ウメが言葉を強くした。その言葉と共に差し出されたのは、綺麗にかわいくラッピングされた…… 「……チョコ?」 「ち、違うのよ、いやそうなんだけれど、なんていうか、その、今更じゃない?幼馴染にチョコなんて」 ウメは明石へのチョコを用意していたのに、ずっと渡せなかったというのだ。恥ずかしくて、なんだか恥ずかしくて……。明石の心臓がとくん、と鳴った。 「それって、お前……」 「ああ、もういいから!もらうの?もらわないの?」 キツイ言葉は照れ隠しだ。バレンタインデーから、ずっとウメは照れていたのだ。そうか、そうなのか……それはとてもウメらしいと思った。 「も、もらうよ!」 もう、とウメがそのチョコを引っ込めようとした瞬間にそれをつかんだ。勢い余ってウメの手をつかんでしまった。明石は慌ててそれを離して、チョコを受け取って、そして 「じゃあ、コレ!」 カバンから綺麗にかわいくラッピングされたクッキーの詰め合わせを取り出した。ウメはきょとんとしている。 「お返し……?」 明石が耳まで真っ赤になりながら、頷くと、ウメはぷーっと噴出した。 「な、なんであげてないのに用意しているのよ」 「いや、その」 「なに?もしかして実は期待してたの?待ってたの?」 「い、いや、それは」 「もーう、早くそれ言ってよねー!あたし恥ずかしがることなかったじゃなーい!」 ウメが明石を叩く。からからと笑う、それでもそのお返しを受け取ると 「……アリガト、ね」 ウメが言った。ちょっと気恥ずかしそうに笑うウメが、たまらなくカワイイと思った明石だった。 「……う、ウメ!」 言ってしまえ、ここまできたなら、男ならここでガツンとちゃんと言葉にしてしまえ。 俺、お前の事が好きだ。 明石がそう言おうと、一歩前に出たその瞬間 「おーい、ウメー!帰るぞー」 遠くからウメを呼ぶ声がした。見ると一学年上の柚希先輩だ。 「あ、はーい。じゃ、明石、また明日ね」 「え?」 「あ、言ってなかったっけ?この間のバレンタインにね、あたし勇気を出して柚希先輩にアタックしたんだ。そしたら先輩もOK出してくれて、今、つきあっているの」 「はぁ?」 「いやー、あの時は色々大変でねー」 「ウメー、早くしろー」 「ま、その話は今度ゆっくり聞かせてあげるからね、じゃーねー」 ウメはふわりと振り返ると、たったと柚希先輩のところ走っていった。 明石は呆然と立ち尽くす。 ……え? ……結局、 ……これって、 …………義理? 「……」 幼馴染のカワイイあの子は、義理チョコを渡すのにも一ヶ月も照れて渡せなかったというわけで。 「…………」 どうリアクションしていいかわからない明石だった。 ++++++++++ 今のかけざんトップを公開した時に、某かなきたメイトさん(言わずもがな)に「思わずまっさきに8686を探してしまいました(しょんぼり)」と言われたんですね。で、その時はまだアンダー86期が私のなかで書く対象としてのかけざんとしてあがってなかったんです。 そんなむっさんのアンダー86期デビュー作(多分)。でもごめんなさい、86×86と来たらまっさきにウメ明石がキテしまいました(いやだって管轄組だしな)。龍星以来ひそかにブームなのです。世間の王道は柚梅なのは理解しつつ、ひっそりとウメ明石をプッシュしていきたいです。というか最近の口癖は「明石が書きたい」です。待ってろよ!(甲冑コス) |