大人のためのしぃふあり童話


『赤ずきんちゃん』



 むかしむかし、あるところにふありという小さな女の子がいました。
 その子はとても赤いずきんが似合ったので、皆から「ふありずきんちゃん」と呼ばれていました(『意味がわからない!』by大真みらん(退団同期のよしみで特出))。

 ある日、ふありはお母さんに頼まれて、森の外れに住むおばあさんのお見舞いに行くことになりました。
「ふありずきんちゃん。森には狼とか狼とか狼とか、こわいものがたくさんいるからね、甘い言葉を囁かれてもついていってはいけないよ。寄り道しないでいくんだよ」
「そんな心配しないでよ。子供じゃないんだから」
 こうしてふありはおばあさんちに向かいました。

 森に入ってしばらく歩くと、声をかけられました。
「ふありずきんちゃんどこ行くの?」
 どうしてこの男はわたしの名前を知っているのかしら、ふありは疑問を感じました。きっと誰かが幼稚園の同窓会名簿をヤフオクで売ったのね、と疑問はすぐに解決しました。ならば、よほど気をつけなくてはいけません。この人は人間に見えるけれど、きっとこれがお母さんの言っていた「狼」にちがいありません。
「あなたは誰?」
「僕はしぃちゃん!」
 そのまぶしいばかりの笑顔に、ふありはとろけそうになりながらも必死でこらえました。このひとは「狼」。けれどもここで無視したりすると、相手は逆上して何をするかわかりません。一歩間違えば「無視されたと逆恨みで殺人事件」と明日の朝刊に載ってしまいます。こういうときはできるだけ穏便に、構わず構いすぎず、
「おばあさんのお見舞いに行くの、だからとてもいそいでいるの。さよなら」
「その荷物重そうだね?持ってあげるよ!」
 しぃちゃんさんは、全く人の話を聞かない「狼」でした。勝手にふありが持っていたパンとワインの入ったかごを取り上げて。
「今日はとてもいい天気だね!」
 どんどん歩いていってしまうので、ふありは追いかけるしかありませんでした。
「そうだ、お見舞いならおばあさんにお花を持っていってあげようよ!僕綺麗な花畑を知っているんだ、きっとおばあさんも喜ぶよ!」
 どうしてこの「狼」はこんなにも馴れ馴れしく、テンションが高いんだろう?
 ふありはまたしても疑問を感じました。
 でもしぃちゃんさんはそれに構わずずんずん歩いていきます。人質ならぬ荷物質をとられたふありは、しぶしぶそれに付き合うしかありませんでした。


「ほら、お花畑だよ!わあきれいだね!」
 森の中にある花畑につきました。しぃちゃんさんはだんだん呆れているふありに気付かずにどんどん花を摘んでいきます。どんどんどんどん、大きな花束を作ると、ふありにぶわっと持たせました。ふありはそれに埋もれてしまい、ふらふらと花畑に倒れてしまいました。ごめんごめん、としぃちゃんさんはその花束を自分で持って、代わりにふありの髪に青い小さな花を挿してくれました。
 ……ふありはまたしても疑問を感じました。
 この人、ほんとうに、「狼」かしら……?
 かごと大きな花束を持ったしぃちゃんさんが、またしてもずんずん歩いていきます。ふありはついていくのに必死でした。大きなしぃちゃんさんと小さなふありはそもそも歩幅が違うのです。もしかしたらこの「狼」は、どんどん先にいって、先におばあさんを食べてしまうかもしれません。そんな気持ちもあってふありは焦って、夢中でしぃちゃんさんを追いかけました。
 おばあさんちに向かう途中に、ちいさな小川がありました。しぃちゃんさんは
「疲れたから休憩しよう!」
 そして川べりに腰掛けて靴を脱いで、そのせせらぎに足を入れました。
「ふありもこうしてごらん?気持ちいいよ」
 ふありはまたしても疑問を感じました。
 この人ほんとうに「狼」かしら?それよりもいつのまに呼び捨てで呼ぶようになったのかしら?なのになんでわたしはこんな風に肩を並べて足を水に浸しているのかしら?
 今日のふありは疑問だらけ。
 この人ほんとうに「狼」かしら?
 その時しぃちゃんさんが言いました。
「たべちゃいたい」
 ふありは慌てて立ち上がりました。やっぱり!この人「狼」なんだ!驚いたふありにしぃちゃんさんが慌てて
「あ!ごめん!思わずおいしそうな匂いがしたから!」
 やっぱり!この人「狼」なんだ!しかも匂いフェチ!
「でもそれはおばあさんのものだから、ごめんね、いじきたないこと言って」
 その時、しぃちゃんさんのお腹がぐうううううっと鳴りました。
「え?」
「あ、いや、だから、食べたい……なー」
 ふありは真っ赤になりました。しぃちゃんさんはかごの中のパンを「たべちゃいたい」と言っていたのです。も、もう!怒っているのか恥ずかしいのかわからなくなったふありのお腹もそのときぐううううううっと鳴りました。
「……」
「……」
 思わず、ふありは自分で笑ってしまいました。しぃちゃんさんも大きな口をあけて笑いました。そしてふたりでまたおかしくて笑いあいました。
 かごの中には、ちゃんとふありが途中で食べるようにと、お母さんが入れてくれたパンがありました。ふありはそれをはんぶんこしました。けれども上手に半分に割れずに、パンはちぐはぐな大きさになりました。しぃちゃんさんはふありが迷った瞬間に、小さいほうのパンを取り上げて、一口でぱくんと食べました。
「ポポラーレのパンはおいしいね!ふたりで分けるともっとおいしいね!」


 休憩を追えて、しぃちゃんさんはさらにずんずん歩いていきます。ふありは一生懸命追いかけていきました。
「日が暮れる前に、いそごうね」
 それでふありは気付いたのです。そうだ、わたしの足で普通に歩いていたんじゃ日が暮れる前に着かない……まさか、しぃちゃんさんはそれで?
 ふありはまたしても疑問を感じました。
 この人ほんとうに「狼」かしら?
 その時
「あっ!」
 ふありが木の根っこにつまづいて転びました。
「だだだだいじょうぶ?」
 しぃちゃんさんが慌てて戻ってきて、そしてふありを抱き起こすとそのまま肩の上にすとん、と乗せてしまいました。
「あぶないからね、こうしていこう」
 ふありは、カッっとなりました。
「子供扱いしないで!降ろして!」
 ふありはぽかぽかとしぃちゃんさんの頭を叩きました。慌ててしぃちゃんさんが降ろすと、ふありは思わず泣き出しました。
「わたしのこと、ちっちゃいからってバカにして!」
 ふありは自分でも泣き出したことに驚いていました。けれどもずっと我慢していたものがあふれ出たかのように泣き続けました。ずっと感じていた疑問、ずっと感じていた不安、そしてずっと抱いてた「わたしは小さいからすぐに子供扱いされる。だから大人にならなくちゃ、子供じゃないわ、わたし」という強情、それらが一気に溢れ出てしまったのです。
 しぃちゃんさんは、ふありに言いました。
「ふありはちっちゃくないし、ふありは子供でもないよ。だってふありはふありだもの」
 ふありはまたしても疑問を感じました。
 どうして、いま、わたしはすうっと落ち着いたんだろう。涙がすうっと消えていきました。
「あー、疲れたなー!」
 突然しぃちゃんさんが大声をあげました。
「疲れちゃったから、ふあり」
 しぃちゃんさんは片腕に花束を挟み、片手でかごを持ち、空いた手をふありに差し出しました。
「え?」
「疲れちゃったから、ふありが連れて行って」


 ふありはしぃちゃんさんの手を引きながらおばあさんちに向かいました。いつものふありのペースに戻って歩いていますが、最初に急いで距離を稼いでいたので、日暮れまでには余裕でおばあさんちにつけそうです。そうやって、大きなしいちゃんさんが、まるで子供みたいにふありに手をひかれていることが、ふありはなんだかおかしくて仕方がありませんでした。
 ふありはまたしても疑問を感じました。
 いえ、今度は疑問ではなくはっきりとわかっていました。どうしてしぃちゃんさんはこんなことをさせたのか?それはふありを頼ることでふありをちっちゃくない、子供じゃない、と伝えているのだと。
 ふありはまたしても疑問を感じました。
 いえ、もう疑問ではなくはっきりとわかっていました。多分、この人は、「狼」じゃない。
 けれどもすぐにふありは不安になりました。
 もしかして、今までのことが全て作戦だったらどうしよう?おばあさんちに案内させる為の作戦。おばあさんちに入った瞬間に、わたしもおばあさんも食べられちゃったらどうしよう。今までのしぃちゃんさんの親切、やさしさ、そしていまこうして握っている暖かい手。それが全て嘘だったら……。
 おばあさんちが見えてきました。
 突然、ふありはその手をふりほどきました。そして逃げ出しました。今逃げておばあさんちにかけこんで、すぐにカギを閉めれば大丈夫。
 だってわからないんだもの、しぃちゃんさんが「狼」じゃないかどうかなんて、わからないんだもの。今、わたしが感じているこの気持ちがなんだか熱くてぐるぐるしていることも、わからないんだもの。
「ふあり!」
 ふありは一生懸命走りました。そしておばあさんちに飛び込んで、ドアを閉め、た時にはもう追いつかれいました。「狼」をおばあさんちに入れてしまったのです。どうしよう!
「おや、ふありずきんちゃん、しぃちゃんさん、いらっしゃい」
 え?
「なんだ!ふありのおばあちゃんて「おばあちゃん」だったのか!」
 え?
 後で聞けば、しぃちゃんさんは森に住む気のいいきこり。ひとりぐらしのおばあさんを気にかけて、いつも食べ物を差し入れたり、薪を割ったり、壊れた棚を直してくれたり、おばあさんの話し相手になってくれたり、おばあさんの漫才の相手(ボケ)をしてくれたりしたのだそうです。
 ふありはほっとしました。
 よかった。
 この人は「狼」じゃない。
 けれどもふありはまたしても疑問を感じました。
 じゃあわたしがあんなにドキドキしたのは何故かしら?しぃちゃんさんの手を引きながら、かぁっと熱くなったのは何故かしら?不安や、恐怖じゃ、なかったの?
 でもふありはもう気付いていたのです。
 そんなふあり顔を見て、おばあさんが言いました。
「おや?……どうやら赤飯を炊かなくちゃいけないようだね?」


 こうしておばあさんとふありとしぃちゃんさんは、いつまでも一緒にしあわせに暮らしましたとさ。めでたしめでたし。


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しぃふありと星組85期オールスターズ(の一部)(一部?)。