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大人のためのしぃふあり童話 『人魚姫』 むかしむかし、ある小さな港町に、ふありという小さな女の子がいました。 ふありは町の入り江でたくさんのイルカを飼っている、しぃちゃんさんの事がひそかにひみつに好きでした。けれどもしぃちゃんさんはイルカに夢中で、ちいさなふありのことには気付いてもくれていないよう。イルカをみつめるしぃちゃんさんの目はとてもやさしいのに、その目はふありを見てくれないのです。 思い余ったふありは、町外れに住む魔女に自分をイルカにしてほしいと頼みました。イルカになればいつもしぃちゃんさんと一緒にいられるし、しぃちゃんさんのあのやさしい目が自分をみつめてくれるのです。魔女はふありをイルカにする代わりに、何か面白いネタをよこせと言いました。しかしふありにはそんな芸はなかったので、代わりに色紙に得意な絵とポエムを書いて渡しました。魔女はとても喜び、ふありをイルカにする呪文を唱えました。 「目が覚めたらイルカになっているかもね」 ツッコむ間もなく、ふありはぱたんと眠りについてしまいました。 ふわふわと気持ちのよいベッドの上でふありは目覚めました。しかしそこはベッドではなく、海の中。ふありは自分がイルカになったのかよくわからなかったので、さっそく泳いでしぃちゃんさんのいる入り江に行きました。しぃちゃんさんは、ふありを見るなり歓声をあげました。ああ、わたしイルカになったんだ。 「あたらしい子だね、おいでよ!」 あこがれたしぃちゃんさんのあのやさしい目。ふありは嬉しくてきゅっきゅっと鳴きました。 しぃちゃんさんはイルカになったふありに「ふあり」という名前をつけてくれました。ふありは一瞬驚きましたが、驚きを取り消しました。ふありとは、この国の言葉で「ちいさい」という意味でもあったからです。 イルカたちは、毎日しいちゃんさんの笛に合わせて皆で曲芸をしたり、しぃちゃんさんの歌に合わせて一緒に歌ったりしていました。一番おおきいイルカのれおんは誰よりも高くジャンプをし、生えていないはずの前髪を気にしているイルカのギリーはくるくると旋回をし、こまっしゃくれたイルカのぎんがみがそれに解説を入れます(イルカ語で)。そんなイルカの芸は町の名物となっていました。そんな曲芸にいつもおくれがちのイルカのひよりは、だれよりも一生懸命練習していたので、ふありはすぐにひよりのことが好きになりました。そしてめんどうみのいいイルカのしげのおかげで、ふありはすぐに新しい環境と身体になれて、毎日しあわせな日々を送っていました。 しぃちゃんさんはいつも夕暮れになると船の縁に腰掛けて、夕日を眺めていました。ふありはその光景が好きで、いつも静かに傍でみつめていました。そのうちに、しぃちゃんさんはそんなふありに気付き、おいでおいでと呼び寄せて、毎日色々な話をしてくれました。なんだか自分だけが特別なようで、ふありはとても嬉しく毎日毎日しぃちゃんさんの話を聞いていました。けれどもふありは気付いたのです。夕日をながめるしぃちゃんさんが、時々切ない表情をするのを。ちいさくついたため息は、誰かを焦がれるものでした。ふありのちいさなむねがきゅうきゅうと痛みます。それでふありは確信しました。しぃちゃんさんにはすきなひとがいることを、夕日をながめてその人のことを想っていることを。そうでなければ、こんなにきゅうきゅう痛くはならないはずだからです。 ふありはそんなしぃちゃんさんを慰めたいと思いました。けれどもふありはイルカです。 ふありはそんな風にしぃちゃんさんを切なくさせる誰かにやきもちを妬きました。けれどもふありはイルカです。 きょうもしぃちゃんさんは夕日を眺めて切ない陰をその目に浮かべました。ふありがおもいきってきゅうと鳴きました。しぃちゃんさんはそれに気付いてふありにいつものあの笑顔を向けてくれました。けれどもそれは皆にむけている笑顔です。自分だけが特別だなんて、そんなのは自分勝手な勘違いなのです。だれにでもやさしい、だれにでも平等に振りそそぐ太陽の光のようなしぃちゃんさん。けれども、ふありが慰めたいと思いやきもちを妬いたそのまなざしは決して手にはいらないのです。 きっといま、わたしはいまのしぃちゃんさんが夕日を眺める目と、同じ目でしぃちゃんさんをみつめている。だってわたしはしぃちゃんさんが…… 「……どうして、だろうねぇ?」 突然しぃちゃんさんが言いました。 「ふありを見ているとあの子のことばかり思い出すんだよ。いつもこっそりイルカショーを見ていたあの子。こっちにくればいいのに、いつもひっそりと見ていた。そして一生懸命拍手をしてくれていた。僕はその子と話をしたことはないけれど、その子の名前は知っている「ふあり」……そう、だから君にこの名前をつけたんだよ」 「……」 「最近、こなくなってね。人づてに聞いたら、行方不明なんだって。そしたらもう僕はたまらなくなってね。どこへ行っちゃったんだろうあの子は。どうしてあの子はあんなに一生懸命拍手をしていたんだろう。どうして僕はあの子のことが忘れられないんだろう」 ふありはきゅうと鳴きました。しぃちゃんさん、わたしふありです、わたしほんもののふありです。けれどもふありはイルカです。その言葉が通じる訳もなく。 どうしてわたしは、イルカになってしまったのだろう。どうしてわたしはわたしなのに、わたしのままでしぃちゃんさんに想いを伝えなかったんだろう。溢れる後悔、溢れる涙、 「泣いてくれているの?やさしいね「ふあり」」 違うの、そうじゃないの。けれども。 ふありはまたきゅうと泣きました。イルカのままで泣きました。 「「ふあり」?どうし………」 ふありはなき続けました。きゅうきゅうとなきました。 「「ふあり」………………ふあり?」 その時です。ふありのからだがふわっと宙に浮きました。そしてしぃちゃんさんの腕のなかにすぽん、と収まった時には、もとの人間の姿にもどっていました。しぃちゃんさんがふありに気付いたその瞬間、魔女の魔法はとけたのです。 ふありはもうおどろくばかりでそのちいさなからだをさらにちいさく固まらせて、しぃちゃんさんの腕のなかにいました。どうしよう、何を言えばいいのかしら?どう説明すれば……。 そんなふありにしぃちゃんさんはにっこり笑って言いました。 「おかえり」 「……た、ただいま」 こうしてふたりとイルカたちは、いつまでもしあわせにくらしました。 めでたしめでたし。 ---------- しぃふありと星組85期オールスターズ(かなり無理がある)。 |