| Sunflowers text
by 桃之内様 |
夏真っ盛りのある日、私は涼さんの別宅に誘われた。 今回はいつものように涼さんが迎えに来るのではなく、家の近くまで迎えの車が来ることになっていた。 初めての場所に一人で乗り込むのは少し心細い。 運転手さんに挨拶をして乗り込むと、車は郊外へ向かってひた走る。 私は心細さから運転手さんに話しかけ、彼から涼さんについていろいろな話を聞いた。 これから向かう場所は涼さんが子供のころよくすごしていた場所、 今年に入ってから涼さんは週に一度は必ず訪れ、最近では足しげく通っているのだそう。 他の人から聞く涼さんの話は興味深く、おもしろく、そして、ますます涼さんが恋しくなった。 飛んで行く景色が車のハイスピードを物語っているのだけれど、私は心の中で「早く、早く」とせかしていた。 日が差してきたためか、車内のカーテンは閉められ(自動で閉まったので驚いた)、周囲の様子が分からなくなり、しばらくした頃、車は目的地に着いたのか緩やかに止まった。 どのくらいの時間がかかったのだろうか。 きっとそれほどかかっていないのだろうけど、一日に匹敵するほどの長さを感じていた。 「ヤツカ!」 扉が開き、聞きなれた涼さんの声が聞こえる。 「涼…さん?」 私は驚きで目を見張った。 眩しい陽光。 そして、それを受け輝く大輪のひまわり。 それらを背に涼さんが微笑んでいる。 「よく来たね」 さしのべられた手をとり降り立つ。 サンダル越しにアスファルトに舗装されていない道路特有の柔らかな感触。 「すごい」 車を降りるとより一層、満開のひまわりに圧倒された。 ――ひまわり。私の好きな花。 涼さんはそれを知っていてここに招待してくれたのだろうか。 「ここの一画だけは自分で育てたんだ」 思いがけない涼さんの言葉に驚いて見上げる。 涼さんは私に優しく微笑んで、そのままの表情をひまわりにも向けた。 「植物を育てるのは案外難しいんだね。専門家にも色々話を聞いたんだけど、今年は台風が上陸したり天候が安定しなかったから特に。でも、やつかの好きな花だと思うとたまらなく愛しくてね。きちんと咲いてくれて良かった。本当は全部自分でやりたかったんだけど…気に入ってくれた?」 慣れないことをして、それでも一所懸命ひまわりを育てている涼さんの姿が浮かんできて涙がにじんだ。 私は大きく頷き、 「嬉しいです」 とだけ答えた。 ☆ ☆ ☆ 帰り際、涼さんはとんでもない提案をした。 「このひまわり、持って帰る?花束にしてもらうから」 私はあわてて首を振った。 「せっかく咲いているんだから、もったいない。切花にするくらいなら咲いているうちにまたここへ連れてきてください…」 少しためらってから 「…今度は涼さんと一緒に来たい」 ずうずうしいかな、と思いつつ付け加えた。 「ここまで来るの、寂しかった?」 「はい」 素直に言ってしまってから、涼さんの反応が気になってしまい、ちらっと様子を伺ってしまう。 涼さんが私を優しく抱きしめた。 涼さんの体温に触れることが心地よく、そっと身体を預ける。 「ヤツカは可愛いな」 「え?」 「なんでもない」 涼さんはくすくすと笑いながら言う。 「今度は一緒に来よう、ね」 私も笑顔になってうなづいた。 「種ができたら収穫しましょう」 「ハムスターにでもあげるの?」 涼さんは私の突然の提案に不思議そうに反応を返す。 「違います。来年は私も一緒に育てたいから」 ――そう、二人で一緒に。 来年も、その後も、いつまでもあなたの隣にいる私でいたいから… 涼さんの私を抱く腕に力がこもった。 |
桃之内様からの協賛品です。 思いっきりニヤニヤしながら読ませていただきました。どうしよう、すごいカワイイ! 涼さんがお金持ちっぽくないとのコメントでしたが、むしろおかねもちがわざわざヤツカの為に農作業(違)かと思うと、それだけでかなり萌えます。というかほのぼのしました。 SSとしての「すずやつ」は自分が書くものしか読んだことがないので(そりゃそうだ)(マイナーだし)、ひとさまの書いたSSというのが、すごく新鮮でした。 ありがとうございました。 戻る |