うさぎのはなし
2005年春某日、職場で野うさぎを拾いました。
その私の職場というのが、工事現場の真っ只中で、親も見当たらないうさぎの赤ちゃんが、草むらで3匹ころころと転がっていたのだそうです。
私が見に行ったときには既に2匹は逃げていなくなっていましたが、どうやらこの仔だけがやや弱かったようで、逃げられずにうずくまっていました。
野生の生き物ですから、連れ帰っても長生きさせてはやれないだろうという思いもありましたが、重機の走り回るこの環境では、なおのこと短命に終わるだろうことが忍びなく、またこのあまりの愛らしさに連れ帰ってしまったのでした。
その後、獣医さんに、生後1ヶ月ほどの健康体との診断を受けました。拾った頃は片手に収まってしまうサイズでしたが、犬用ミルクを濃い目にして、小児用ビタミン剤を添加して与えたところ、すくすくと大きくなり、両手の平に乗るほどになりました。最初はびくびくと震えるばかりだったのも、環境になれると私の部屋の中を走り回り、電気コードにかじりつくんじゃないかとハラハラさせられましたが、生き物の肌が恋しいらしく、ひざに抱き上げるとすぐにおとなしくなり、寝入ってしまうのが可愛くて仕方なく、大事に育てていました。
しかし、実家に連れ帰ったときにふとしたことで逃がしてしまい、この野うさぎの仔は山へ帰ってしまったのでした。
育てば野性に返すつもりで名前をつけなかったため、呼び戻す名もありませんでした。
実家の裏の山は、重機の走り回る工事現場よりはよほど安全で、食べ物も多い山ですからきっと元気にしていると思うのですが、それでも一人暮らしのさなか、私のひざで眠ったぬくもりを思い出すと、無性にさびしくてたまらなくなることがあります。
どうか長生きして、たくさん子供を作ってね。
願わくば、この仔の子供たちが山に繁栄しますように。
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