或る夏の日記
その日は暑かった。
連日の夏季課題に疲れた体にとって、殺人的な暑さだった。サウナ状態の教室から出て、ゲラゲラ馬鹿笑いしているような太陽にさらされ、クーラーを期待して乗ったバスには、むっと汗の匂いがたちこめている。
私の体の中身は、寝不足による頭痛と、圧迫されているような胃のむかつきに対する愚痴だけで満たされていた。口を開けば悪態以外の言葉は出てこなかったろう。
幸い、そんな厄介な箱のふたを、わざわざ開けようとする者もいなかった。
窓枠に頭を乗せて、居眠りを決め込む。
今日はもう帰ったら水を飲んで寝てしまおう。課外なんてサボって寝てりゃよかった。
首筋の汗が気持ち悪い。バスが停まるたび、息苦しい空気がどろりとよどむ。バスの中がやかましい。人数が増えると、余計に具合が悪くなってくる。
頭頂部に当たる直射日光が、髪の奥まで浸透してくる。私の頭は、きっとじりじり煙をあげ始めているに違いない。
そう思った頃、やっと我が家最寄の停留所を知らせる声がした。
近くと言っても、歩いて7分。その間中、この殺人光線の下を歩くのかと思えば、げんなりする。重い荷物を担いで、いやいや席から立ちあがった。
ほとんど「落ちる」ような格好で、バスから降りる。
すると、バス停のすぐ右に、赤青黄白の陽気なパラソルの下、ほっかむりのおばちゃんが座っていた。
脳みその解けかかった私は、ふらふらとそのパラソルの下の日陰へ引き寄せられる。
そのパラソルの下には、ブリキ製の保冷樽が「でん」と座っていた。
この近隣での夏の風物詩、ババヘラアイスの露店である。
「おばちゃん。一つ頂戴」
と、2百円を差し出した。
「はいはい、おまけしてあげるよ」
言いながら、ババヘラおばちゃんが、樽のふたを開いた。ピンクと黄色のアイスを、金ヘラですくいとって、たっぷりコーンに盛る。ババアがヘラで盛るから、ババヘラアイスと言うらしいが、今はジジイが盛るジジヘラでも姉ちゃんが盛るアネヘラでも、涼をとれるなら何でも良かった。
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
アイスを受け取るなり、くるりときびすを返して歩き始めながら、一口。
すーっと頭が冷えていく。細かい氷の粒が、しゃらしゃら解けていく感触が気持ち良かった。冷たい感触が体の中を滑り降りていく。すっきりと甘い。
一つため息をついた。家に向かいながらまた一くち口に入れる。
相も変わらず、太陽の馬鹿笑いが頭頂を焦がしていたけれど。
きらきら光るアイスを見ていると、『ま、今日くらいは勘弁してやるよ』という気になった。
