第58話:「頑張れ若造」

<update/2003/07/13>

 

 

見てみぬ振り出来ないんだよね〜、だって自分とダブルから・・・・・・。

 

 

 

つい先日、家路についた電車の中での事である。

 

俺はJR東日本 中央線「東京駅」発〜「高尾駅」行き電車に、

途中の駅からいつもの様に乗り込んだ。

 

この電車、おわかりの方はお判りだろうが、

東京から、山梨・長野方面に下る電車であるが、もちろん

中央線の為、ギリギリ東京の「高尾駅」が終点である。

 

 

電車内は、まぁ若干混んではいたものの、

ラッシュほどではない。

 

座れるはずもなく、俺は車両の一番端の車両を移動する際に使うドアに

もたれるように立ち、どうって事なく本を読み始め電車が動き出した。

 

 

そして次の駅に着いた時から車内の空気が変わる事となる。

 

 

 

プシュ〜。

 

 

次の駅に着くと、ドアから

 

完全無欠の酔っ払った大学生と思われる青年が、

一人乗ってきた。

 

まぁ、ゼミかサークルのコンパの帰りなんだろうが、

 

こいつ、かなり逝っちゃってて、

まともに歩けないくらいなのだが、

俺は心の中で、こう思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

来るなよ〜、

 

来るなよ〜、

 

おめぇ〜、

 

ぜってー、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺のそばに、来るなよ〜、

 

 

はぁ〜来ちまったよ。しかも俺の隣の吊り革に。

 

 

 

 

そいつは、吊り革に手の平通して身体を支えているものの、

もう身体があちこちグルングルンローリングしちゃってるし、

 

しかも良く見りゃ、髪の毛になんか異様な固形物が

ベットリついてて、髪の毛逆立っちゃって、

今にも吐きそうである。

 

 

 

 

 

 

 

最悪な野郎、登場です。

 

 

 

 

 

 

 

当然、3人がけシートに座っていた目の前の真ん中の客が、

危険を察知して、先ず席を立ち移動したのだが、

 

 

次の瞬間、その若者が、

「ウップス」とか言った瞬間に

ヨダレみたいなのが、その空いているシートに1滴垂れた。

 

 

周りの連中、何が垂れたのか即座に確認。

 

それを確認した後、まだ3人がけシートの両端に座っていた2人も

即座に退避。

 

 

かくして、混雑した電車内で

その誰も座っていない3人がけシートの前で、

俺と、その兄ちゃん2人だけが立っているという

状況が出来上がった。

 

 

もちろん、そいつのローリングは止む事はない。

 

いつ吊り革から手が外れて、ぶっ倒れるのか。

そしてゲロを吐くのか。

 

みんな怪訝そうな顔をして

自分に被害が及ばないよう遠巻きに見ている。

 

 

その兄ちゃんも、折角席が空いたのだから座わりゃいいのに、

気持ちいいのか、相変わらずローリング状態。

 

 

そうこうしている内に、次の駅に着くのだが、

 

当然、何も知らずに乗り込んできた客は、

混雑した車内で席が空いているので、みんなその席に座るわな。

けれども、すぐに状況を把握し当然のように退避。

 

 

そんな事を、駅に着くたびに繰り返した結果、

一つの空気が生まれた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誰かそいつを座らせろ。

 

 

 

そりゃそうだ、

ぶっ倒れて、車内にゲロぶちまけられる前に、

座らせて、眠らせた方が廻りの人にも迷惑が掛からないし、

そいつにとっても、悪い事じゃない。

 

 

 

じゃぁ、誰がやるか。

見ず知らずの車内の乗客の中でね。

 

 

 

 

 

自分に被害が及ばないよう遠巻きに見ている、

 

おじちゃん、

おばちゃん、

OL、

サラリーマン、

学生。

 

 

 

誰も座っていない3人がけシートの前で立っている、

 

ローリングしている兄ちゃんと、

隣にいる俺。

 

 

 

 

誰がやるか、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺?

 

やっぱそうだよね、

最初から避難せずに、ずっと隣にいるし。

 

 

 

しょうがねぇ、俺がやってやるさ。

 

 

しかし、この手の酔っ払い、

言葉のかけ方一歩間違えて、いきなりぶち切れられちゃ、

目も当てられない。

 

なので、あくまでフレンドリーに優しく声をかけた。

 

俺:「大丈夫かい?」

兄ちゃん:「ふぁい」

 

おっ、なかなか素直じゃないの。

 

俺:「学生?」

兄ちゃん;「ふぁい、そうれす」

 

俺:「そっかぁ、今日は飲みすぎちゃったかぁ?」

兄ちゃん:「ふぁい、しぃいません」

 

俺:「俺も学生の時、よくやったよ」

兄ちゃん:「そんなんれすか、はははははっ」

 

俺:「座った方が楽になるから座んな」

兄ちゃん:「だいじょうぶれす」

 

俺:「いやいや、座って爆睡したほうが楽になるからなっ」

 

といって、そいつの身体を支えながらなんとか席に座る体勢に

もっていったのだが、腕がまだ吊り革に挟まったまま。

 

しょうがないから、それを外してやって

なんとか揉めずに、端の席に座らせる事に成功。

 

 

あとはこいつに爆睡してもらえれば、

車内には、一応の平穏が訪れる事になる。

 

 

でもこうなった以上、

俺もこの学生の事がちょいと心配になったので

眠りにつく前に、この「高尾駅」行き中央線の電車内で

一応聞いとく事にした。

 

 

 

俺:「君は何処まで行くんだ?」

 

学生が言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「自分、柏(千葉県)っす。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はい?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

痛てェぞ、学生。

全く逆だぜ。

 

 

 

 

まぁ、このまま寝てりゃ、まだ22時だし、

「高尾駅」で折り返して「東京駅」に着くからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「頑張れ若造」

 

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