第57話:「この夜に、さよなら」

<update/2003/05/18>

 

 

別にどぉって事なく、普段通りの言い回し方や、接し方をしたのに、

ちょっとした行き違いで、相手が別な意味でとらえてしまい、

話がこじれてしまったなんて経験は、無いだろうか?

 

 

その時の俺の場合は、相手がホモだっただけで、、、。

 

 

俺が32歳位の時の事である。

 

まぁ、この「マーヴェラスな憂鬱」にも度々書いているが、

例によって、当時良く行っていた「ホモスナック」に、

これまた例によって、飲み友達の女性M美と飲みに行った時の話である。

 

 このM美と俺は仲が良かったわけだが、

正直な話、彼女のマンションに遊びに行った事もあるし

泊まって同じベットに一緒に寝た事もあった。

 

しかも、当時銀座のクラブで働いていた彼女の美人度は

かなり高かったと思うのだが、

俺は、一切口説いた事も無いし、手を出した事も無かった。

 

 

そう、肉体関係は一切無かった訳だ。

 

 

決して、俺が女性に興味の無いホモだったからではない。

 

 

彼女の事は好きだったが、実は10歳も年下なのだ。

もともとは、銀座のクラブに勤めるホステスと客の関係から、

意気投合して、普段も遊びに行くようになった訳だが

 

俺を信用して、少なからず好意も持っていたから、

家に招き入れて泊まることも出来たと理解している。

 

ただそれは友達感覚であって、そこから恋愛に発展するかどうかは

はなはだ疑問だったわけである。

 

もし俺が自分の気持ちを告白して口説いていたら、

付き合いが始まったかもしれないが、

逆に、彼女にその気が無かったら、今までの良い感じの関係が

壊れるという結果は目に見えている。

 

当時、俺はそんな状態が気に入っていたので、

別に口説くつもりも無く、ただそんな関係が好きだっただけなのだ。

 

 

で、

そんなM美と、そのホモスナックに飲みに行ったのだが、

俺がM美とそんな関係だという事は、店のスタッフは全員知っている。

そんな中、よく来る常連の自称デザイナーのオカマ野郎が店にいたので

いつしか3人で飲み始めた。

 

 

当然そのオカマ野郎も俺たちの関係は知っていたわけだが、

どうも、そんな俺たちの関係に業を煮やしていたらしいのだ。

 

つまり俺の事が、

「惚れた女も口説けないような煮え切らない男」だと

そのオカマ野郎には映っていたようなのだ。

 

そしてその夜、そのオカマ野郎による、

「今夜、俺たちをくっ付けちゃうぞ大作戦」

なる恋愛指南が始まった。

 

その話が始まるまでに結構飲んでいた為、店を変えようという事で

新宿2丁目にある違う店に、3人で河岸を変えることになった。

 

その店は(当然全員ホモが集まる)いわゆる「クラブ系」の

店だったのだが、みんなラフに立ちながら飲んでいたり、

ソファーでくつろいで飲んでいたりしている。(全員ホモ)

 

俺たちM美とオカマ野郎3人は、テーブルで飲み始め、

オカマ野郎による恋愛指南を受ける事となった。

 

 

「もぉ〜う、あなたM美の事が好きなんでしょぉ〜。

好きなら好きって、この場で言いなさいよぉ〜。

あなた達見てると、すっごいイライラするのよねぇ。

解るわよぉ。男の人って(オメェも男だろ)、こうなっちゃうと

自分の気持ちを素直に言えなくなっちゃうのって。

でもね、女って待っているものなのよぉ。

男から、自分の気持ちを伝えなきゃダメなの。」

〜以下延々〜

 

 

そいつは持論の恋愛指南によって、俺が自分の気持ちを話し、

俺とM美との関係に何らかの結論を

見出したくてしょうがないって感じであった。

 

確かに本質を突いているところもあったのだが、

オカマ野郎に恋愛指南されてるのって、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結構ウザイ。

 

 

俺があんたの前で本心なんか言うわきゃないだろ。

 

 

 

酔ってたし、かなりウザクなってきたのだが、

もうこうなったら今夜は、早いとここオカマ野郎を帰して

M美と二人きりになり行くとこまでいったろうと腹を決めた。

 

だが、ちょいとこの状態をクールダウンする為に

インターバルを置こうと思い、トイレに立つ事にした。

 

 

トイレを出ると、向こうのテーブルでオカマ野郎がM美に

まだ恋愛指南をしている様子であったため、

ここでまた同じテーブルにつくのはウザイし、

俺は、一人離れた席でしばらく飲もうと思った。

 

 

 

あいている席につくまでに、

通りすがりの店員に

生ビールを頼み、

そこのボックス席まで持ってきてくれ

と頼んだ。

 

 

しばらくして、ビールが運ばれてきた。

 

肘に持たれた俺の顔を上げるとテーブルには、

 

 

 

 

 

2杯の生ビールが置かれ、

俺の横に、

その店員が座っている。

 

 

 

 

何だおめぇ?

なんで、店員が1杯しか頼んでない生ビールを

2杯も持ってきて、しかも俺の隣に座ってんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???????????

 

 

この状況を冷静に考えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もしかして君、店員じゃなかったの?

もしかして君、だったの?

 

 

 

 

 

 

俺、ホモの客にビール頼んじゃったの?

 

客なのに、それじゃぁなんで君は生ビール2杯持って

俺の席まで運んでくれて、俺の隣の席に座ってるの?

 

 

 

俺は、確信した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どう考えたってこりゃぁ、

ホモのナンパに成功の図。

 

 

店員だと思っていた通りすがりの客に生ビールを頼み、

そこのボックス席まで持ってきてくれと、俺は頼んだ。

 

しかし、どうも言い方が悪かったのか違う意味で

そのホモには聞えたらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

たぶんこんな感じに聞えたのだろう。

「あそこのボックス席で待っているから

良かったら一緒に飲まない?」

って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イテェよ。

この状況はイテェ。

 

 

だって、どう考えたって、

全員ホモの、この店の中にいる第三者から見たら、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺が、ナンパして意気投合して、

これから乾杯ってな風にしか見えない。

 

 

 

 

 

 

 

今夜、M美と二人きりになり、

「M美を口説く事に成功した夜」

になるかもしれなかったのに、

 

 

 

いつの間にか、

「ホモのナンパに成功した夜」

に、すり変わっちまってる。

 

 

第三者からそう見えるって事は、

M美からもこう見えたに違いない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの人、

あたしなんかよりも

ホモをナンパして

意気投合している。」

って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もしかして、M美と結ばれていたかも知れない

この夜に、

 

 

 

 

とんだ勘違いをされちまったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

当然、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この夜にさよなら。

 

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