第56話:「記録は夜つられる」

<update/2003/04/13>

 

 

大人になって、ふとしたキッカケや会話で、忘れてたけど

「そう言やぁ子供の頃、そんな遊び良くやったなぁ。」なんて思い出す事ってあるでしょう。

最近の子供達と俺の世代の遊びとは、だいぶ様変わりしてしてしまってはいるが、

遊び方が変わったからと言っても、昔を懐かしむのは、どんな世代でも一緒である。

 

多分この人は、それを行動に移しちゃっただけで、、、。

 

 

 

先日の会社帰りの家までの夜道で、そいつと遭遇した。

 

 

俺が左側の歩道をトボトボと歩っていると、

俺の右斜め後方から「シャキョン〜、シャキョン〜」

と言う音が聞えてきた。

 

何となく自転車の音だとは思い、

当然追い抜かれるものだと思っていたら、

 

その音が、なかなか追い抜いていかず、

俺の斜め後ろをずっと付いて来る。

 

 

 

「なんか、うぜぇ〜な」と思った俺。

 

一応、「誰」「何」をしているのか確認しようと

振り向いてみる事にした。

 

 

しかし、

「誰」が「何」をしているのかは、わからない。

「どんな奴」なのかもわからない。

もしや俺を「的」にかけようと、虎視眈々と

狙っている奴かもしれない。

 

俺は、とりあえず臨戦体制が取れるように心を落ち着かせ、

音のする方向を、そっと視認した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なっ、何やってんだ、こいつ!

 

 

 

 

 

そこには、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自転車のハンドルに、

2〜3歳児が乗れるようなイスが付いた、

ママチャリに一人で乗った、

30代後半と思われる、

眼鏡をかけ、スーツ着た

中肉中背っぽいサラリーマンが、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一心不乱に、

 

 

ママチャリの前輪で、

バランス取りながら、

ハンドルを左右に振っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こいつ、何やってんだ?

 

 

 

俺が眼にしたこの光景って、

もしかして、もしかしてさぁ、

 

 

 

 

 

(子供の頃、やった事もある人も多いと思うが)

 

 

自転車の前輪でバランス取りながら、

ハンドルを左右に振っている。

 

 

それって、

 

 

 

自転車おもいっきリ漕いで、

スピードに乗った後、

ある場所から漕がないで、

惰性でどこまで行けるか、

自分の記録に挑戦ゲ〜〜〜〜ムっ!

 

ってやつですか?

 

で、

 

俺が見た、そのあんたの光景は

自分の記録更新のための最後の、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あがき」

ってやつですか?

 

 

 

通りを歩いている人も気にせず、

一心不乱に童心に戻るあんた。

 

駅から家までのその「俺だけの時間」

自分だけの記録を更新するため、

童心に戻って満喫するあんた。

 

 

 

 

その時、

後ろの方からこんな溜め息が聞えてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ〜あっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜

「記録更新せず」?

 

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