第55話:「帰巣本能を無くした日」
<update/2003/03/22>
前日飲みに行き、朝帰りして起きた日、「自分はどうやって帰って来たんだろう?」と
思い出せなかった事なんて、一度や二度経験した人は多いと思う。
でも、ちゃんと帰って来れちゃうのが、いつも不思議に思える。
まぁ、それが本質的な「帰巣本能」という意味合いに当てはまるのかどうかは別にしてね。
俺は今までに、酒を飲んだ帰りや、疲れていた日に、
電車を乗り過ごした事は、何度かある。
東京都下に住んでいる俺は、
終点まで行ってしまったり、何駅か乗り過ごしたりした事はあるが、
知らない間に旅をした事は、無い。
が、
やっちゃいました。
ある日俺は、後輩2人と飲みに行ったのだが、
最後の店を出たのが、午前4時前後だったかな。
まだ電車は動いていない為、電車が動くまで時間がある。
そのため「ビリヤード」でもして時間をつぶす事となった。
ここで断っておくが、俺は酔ってはいた。
しかし、足腰が立たないような「ベロベロ状態」ではなく、
1時間半ほど、ビリヤードで勝負できる状態であり、
始発が走り始めたら、帰ろうと言う状態であった事を、
言っておく。
朝の6時00分。
電車が動き始めたのを確認した後輩に促され、ビリヤード場を
後にした。
そこは東京都にあるJR中央線「荻窪駅」
その駅から、俺の住んでいるJR中央線「武蔵境駅」までは、
たかだか「4つ目」。
時間にして、約10分の乗車時間だ。
当然、30分後には、暖かな布団で寝られる。
いや、そのはずだった。
「次は、○○〜」という車掌のアナウンスで何気に起きた。
へっ?
「起きた?」
しまった!寝てもうた!!!
たった4駅なのに。
その声で何となく起きた俺。
「とりあえず、ここは何処なのか現状確認しなきゃ。」
「ここは何処?」
落ち着け、俺。
車内を見渡す、俺。
電車の窓の外を見る、俺。
徐々に覚醒から醒めていく、俺。
ありえねぇ、ありえねぇよ、この今。
必死に思い出そうとする、東京都在住の俺。
確か、
JRで4駅、約10分の距離の駅まで
電車に乗った、俺。
なんとそこは、
「山梨県 富士吉田駅」
一面白銀の世界
はぁ?
記憶にねぇ、
記憶にねぇよ。
何で俺は、この「3両編成のローカル電車」に乗ってるんだ?
ここで位置関係を確認しておこう。
俺が朝乗った駅は、@の場所。
俺が降りなきゃいけないのは、Aの場所。
気付いたのが、Bの場所。
何が、ビックリって、
俺が。「荻窪駅」から「富士吉田駅」に行く為には、
2回乗り換えなきゃいけないって事だ。
JR中央線「荻窪駅」から乗って、終点の
JR中央線「高尾駅」で乗り換えて、
JR中央本線「大月駅」まで行って、乗り換えて、
富士急行線「富士吉田駅」まで行かなきゃならない。
まったく記憶に無いぜ、
「2回も乗り換えた事」
状況把握した後、やってもうたと気付き、
「富士吉田駅」でたまたま来た、反対側の電車に飛び乗り、
「大月駅」まで行き、たまたま来た、
特急「あずさ」に飛び乗り、「八王子駅」で乗り換え、
家に着いたのが、午前11時。
「やってもうた」事なんかより、
5〜6時間くらい電車で、この放浪の旅に出ていたので、
そんな電車の乗り方したら、6,000円弱かかるのだ。
一回も、改札で出た覚えも無いし(往路記憶なし)、
特急電車内(復路記憶あり)で検札もされなかった。
なので、JR「荻窪駅」の改札に入ったイオカードで、
やっと戻ってきた、JR「武蔵境駅」の改札出た為、
160円で済んでもうた。
この6時間の空白が、無駄なのか、
その無駄を「160円」で済ませる事ができちゃう俺が、
救いなのか、どっちなんだろう。
どっちにしろ、
今まで、どんなに酔っても家には帰って来たのに、
何故なんだろう。
その日、俺は、
帰巣本能を無くした。
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