第５話「魔のシロップ」

第５話： 「魔のシロップ」

７～８年前の話です。

仕事で札幌に出張に行った時の話です。

私は一人でその日の午後、札幌に入り、

宿泊先である「札幌全日空ホテル」に

チェックインしました。

明日から始まるイベントに備え、

その日やらなければいけない仕事を

ひと通り終えた私は、

１Ｆにあるラウンジでお茶でも飲もうと思い、

１Ｆのラウンジに入りアイスコーヒーを注文しました。

「お待たせしました。」

とウエイトレスがアイスコーヒーと

ちっちゃいガラスカップに入ったミルクと

ガムシロップを持ってきました。

グラスに入った普通のアイスコーヒーと

白いミルクと黒いガムシロップを。

普通ガムシロップって透明ですけど

黒と言うか茶色と言うか、そういうのもあるじゃないですか。

何も疑う余地はありませんでした。

だってホテルなんだもん。

一応は全日空ホテル。

私は、アイスコーヒーにミルクを全部と

ガムシロップを半分くらい入れ、

マドラーで混ぜ、飲みました。

何の疑いも無しに。

「なんじゃこりゃぁぁぁああああ！」

飲んだ次の瞬間です。

口の中に「ピリピリ！」

という感覚が走ったのです。

明らかに

今まで私の味わってきた

アイスコーヒーの味とは違ったのです。

「えっ？」

「あれっ？」

「何なんだこれは。アイスコーヒーじゃねぇ！」

私はまずアイスコーヒーの匂いを嗅ぎ、

次に黒いガムシロップの

ちっちゃいカップの匂い嗅ぎました。

次の瞬間、

信じられない匂いを私の鼻が感知したのです。

日本人なら良く慣れ親しんだあの匂い。

そう黒いガムシロップの正体は、なんと・・・

「醤油」

私は確かめました。

匂いだけではなく、指を入れ舐めてみたのです。

やっぱり「醤油」

アイスコーヒーに醤油を入れて飲んだのです。

当然クレーム。

ウエイトレスにクレームを

入れたらラウンジのマネージャー（オバちゃん）が

すっ飛んできて平謝り。

「何故？お客様にそんなことを？」

どうしてそんなことが

起ったのかがわからないといった具合。

つうか俺もわかんねぇよ。

新しいアイスコーヒーを飲み干し、帰りました。

料金は勿論、タダ。

しかしそれだけでは終わりませんでした。

部屋に帰り一人でたそがれていると

「ピンポ～ン」と

部屋への訪問者が。

ドアを開けるとラウンジのマネージャーと

ウエイトレスがいるじゃありませんか。

「先ほどは大変失礼致しました。

お詫びとしてこちらのフルーツ盛り合わせをどうぞ」と。

まぁあたりまえと言えばあたりまえだけど、

ラウンジでお茶したときに、

私が何号室のお客かなんて

わからなかったはずなのに、

私の部屋に尋ねてきたのはたいしたもんだよ。

全日空ホテルがじゃなくて、

そのマネージャーの洞察力とTPOが。

誠意を感じたね。

私は、笑顔でその誠意に応え、

フルーツ盛り合わせを受け取りドアを閉めました。

心の中で

「一人でこんなに食えねぇよ！」

と思いながら。

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