第46話:「いつもの奴」
<update/2002/09/12>
喧騒な大通りを1本奥に入った所にその店はある。
コンクリートジャングルに囲まれ、戦いつづけた企業戦士が、
疲れた翼を少しだけ癒す為に訪れる、男の隠れ家。
男はいつもの様に、一人その店のドアを開け、
カウンターだけのそのBARの、いつもの席に座った。
マルボロに火をつけると、紫の煙が立ち込める。
心地よいjazzのリズムが男の疲れた身体を優しく包む。
そこには、無駄な会話など存在しない。
そこには、詮索などという野暮な世界も無い。
それぞれのスタイルで、
一人疲れを癒し、バーボンの香りを楽しみ、思いに耽る。
「Maker's Mark Black Label 」オン・ザ・ロックス。
男がいつも好んで楽しむバーボン。
カウンターの向こう側でグラスを磨いている初老の無口なマスターに、
男が低い声で言った。
「マスター、いつもの奴」
なぁ〜〜んて世界、ちっとは憧れた事ない?
でも気が付けば、
ガード下の居酒屋で、
ネクタイ頭に巻いて、ウーロンハイのジョッキ片手に、
真っ赤な顔して、
イッキ飲み大会。
ハードボイルドとは、かけ離れた
オヤジモード全開の現実に気付く。
でだ、
先日、会社の先輩M氏と飲みに行った。
俺はその店に行くのは、初めてだったのだが、
M氏は、何度か来た事があるという、
ちょっと小洒落た、和風の居酒屋。
店内はさほど広くもなく、女性客も多い。
でも、ネクタイ頭に巻いてイッキ飲みしてるオヤジはいない。
そんな、「ちょっと会話を楽しむ店」っていう場所で
飲み始めた。
とりあえず、生ビールを2杯ほど飲んだ後、M氏が
「焼酎のボトル入れない?俺、金出すからさぁ」と言った。
「イイッスよ」と俺。
「何にします?」と俺。
「ん?いいの、いいの、俺が頼むから」とM氏。
「すいませぇ〜ん!」と店員を呼ぶM氏。
そして、M氏がウエイターにオーダーをした。
「いつもの奴、入れてくれる?」
おっ?
M氏、常連?
ねぇ?
おいおいおい、この店、顔なの?
ねぇ、M氏。
「いつもの奴」って、いつ来てんだぁ?
なぁ、おい。
「いつもの奴」でウエイターわかるわけ?
「いつもの奴」でウエイターが解るという事は、
そうとうこの店来てるな、M氏。
「仕事終わって、
おねぇちゃんと、コソコソ来てるんちゃぁ〜うんかい!」
ってな、突込みを入れている間に、ウエイターがボトルを持ってきた。
長崎産焼酎
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