第44話:「くたばれ、日本人!」

<update/2002/08/18>

 

 

それにしても、俺も含めて酔っ払いって何であんなに声がでかいんだろう。

 

 

俺が、今よりもまだ若い時である。

 

仕事を終えたその日、珍しく飲まずに会社から帰る電車の中での

出来事である。

 

地下鉄丸の内線「銀座駅」〜終点の「荻窪駅」で降り、

JRに乗り換える為、俺は丸の内線の横長座席の

一番端に座っていた。

 

そんなに混んではいなかったのだが、途中新宿あたりで、

酔っ払いの若いサラリーマンが3人乗り込んできた。

 

そして、俺が一番端に座っている横で、

ドアにもたれるように立って話し始めた。

 

こいつら、かなり酔っぱらっている。

でかい声で話すもんだから、聞きたくなくても、

会話が聞こえてくる。

 

「だいたい、ひろしがさぁ・・・」

「遠藤(仮名)、お前が悪いんだよ・・・」

「うるせぇなぁ、おめぇらだって・・・」

 

ってな感じで。

 

 

うるせぇなぁ、とか思い、チラッとそいつら見たら、

ちょいとオタク系入ってるような感じだったかな。

 

まぁ、酔っぱらっているから、しょうがねぇやと思いながら、

黙々と俺は、雑誌に眼を通していた。

 

 

そうこうしている内に、そいつら3人の内、

一人が降り、また一人降りと、

最終的に、一人が残った。

 

 

 

 

 

 

しかし

こいつに、問題があった。

 

3人の中でも、多分こいつが一番酔っていた。

 

暫らくするとそいつが、座っている俺の上の方から

何かぶつぶつ、でかい声で言い始めた。

 

 

 

「と、とう、きょう?・・・、ヒック」

「・・・ん〜、きょう?・・・、ヒック」

「ぶぅふふ〜〜」

「ん〜、いん、いん、たぁ〜?」

 

 

何言ってやがんだ、こいつ?

 

俺はその日は荷物があったので、会社の手提げ袋に荷物を入れて

それを自分のバックと一緒に、膝の上にのせて座っていた。

 

 

仮に俺の勤務する会社名を、

「TOKYO INTERNATIONAL Co」 

という、名前にしたとしよう。

 

その会社名が、手提げ袋に印刷されている。

 

 

 

「と、とう、きょう?・・・、ヒック」

「・・・ん〜、きょう?・・・、ヒック」

「ぶぅふふ〜〜」

「ん〜、いん、いん、たぁ〜?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こ、こいつ、

手提げに印刷された、

俺の会社名、

 

 

読み上げてやがる。

 

 

同僚もいなくなり、手持ちぶたさになった酔っ払いの目に、

俺の手提げ袋の文字が留まったのだ。

 

 

最初は、すぐに興味が他の事に移るだろうと思い、

シカトしていたのだが、

 

甘かった。

 

 

こいつ、かなりしつこい。

 

 

挙句の果ては、かなり流暢に読み上げる事に成功、

そして、グループ会社に関する事を、

「良いやぁねぇ」とか「この業界はね」とか言い始めやがった。

 

 

 

 

 

わたくし、その行為。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「宣戦布告」

と見なしました。

 

 

ずっと我慢して、シカトをしてまいりましたが、

しかめっ面をして、雑誌読んでる振りしながら、

前に座っている人たちを見回してみると、

 

みんな、観て見ぬ振りしながら動向を窺っている。

 

 

俺がどんな報復攻撃に出るのか、興味深々といったところだ。

 

 

しかし、そこで「うるせぇよ!」

とか言って、車内全員の注目を浴びるのも、

終点まで、まだ何駅かある。

 

その空気の中にいるのも俺としては、いただけない。

ましてや、暴力で報復するつもりなんて、さらさら無い。

 

だって、

あんだけ俺の勤務する会社をPRしてくれちゃつてるので、

俺の身元確認は、されているようなもんだ。

 

俺は、腕力や喧嘩には、全く自身が無いのだが、

幸いにして、身長だけは180cm近くある。

 

相手は、160cm有るか無いかくらいの

ひ弱なオタク野郎だとお見受けしている。

 

しかも、泥酔に近い状態。

 

 

勿論、相手がマッチョな体育会系だったら

静かに席を移動するのは、言うまでも無い。

 

 

仮に暴力対決になったとしても、

俺に若干のアドバンテージがある。

 

 

さて、どう報復するかだ。

 

「文句言うわけじゃなく」「暴力振るうわけじゃない」

 

俺はしばし考え、思いついた。

 

 

 

 

「威圧」

 

そう、無言で「威圧」する事。

 

後はいつやるかだ。

 

もうこのタイミングしかない。

「終点駅の一つ前の駅を出た時」

 

 

その時が来た。

 

 

俺は、いかにも不機嫌そうに席を立ち、

 

そいつが、もたれかかっているドアに向い、

 

そいつの真正面、臭い息がかかるくらいの

約10cmくらい前に、思いっきり立ってやった。

 

 

不機嫌な顔して、

「俺の前には誰もいません」ってな感じで。

そう、そいつの存在を無視したのだ。

もちろんそいつの顔なんか見ない。

 

 

そして俺は、そいつの横にある手すりを

思いっきり不機嫌そうに、左手でつかんだ。

 

もう、そいつは、終点に着いて、その背にしたドアが

開かなきゃ逃げれないという状態だ。

 

 

断っておくが、俺は暴力も振ってないし、

文句も言っていないし、ガンをつけてもいないし、

触ってもいない。

 

俺の視野からそいつの存在を消しただけだ。

 

 

 

固まってる、固まってる。

俺が目の前に立ちはだかってから、

そいつ、一言も発せずに、固まっている。

 

そりゃ、ちっとはビビルわな。

 

 

 

そうこうしているうちに、終点の駅に着いた。

 

 

ドアが開こうとした瞬間、

 

 

そいつが、

思いもよらなかった、

行動を取った。

 

 

 

 

後ろのドアから出ないで、

俺の左脇をくぐり抜け、

ダッシュで違うドアから、

逃げていったのだ。

 

 

しかも、

でかい声で捨て台詞を叫びながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ファッキン!

ジャパニーズ!

♀・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お前もな。

 

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