第36話 :「ファジーな男」
<update/2002/04/29>
俺はTV番組の中でも、「日本の警察24時」とかの
実際の事件や抗争、逮捕の瞬間などだけを扱う番組が大好きだ。
くだらないバラエティ番組なんつっーものは、間違いなく全て
ヤラセだし、興ざめして観るに耐えられないし。
で、
何ヶ月か前、未解決事件の公開捜査の番組を観てて思い出した。
何年も前、うちの会社にとてもファジーな先輩社員S氏がいた。
飲みに行っても楽しい、仕事も上手い、人当たりも良いこの人には
1つだけ悪い部分が有った。
「金」と「嘘」
そう、かなりの額の借金である。
まぁ、銀座のクラブ通いで膨らんじゃったみたいなのだが、
そのクラブのツケを踏み倒したりして、銀座のクラブでは、
ブラックリストに載っちゃってたくらいだ。
しかもこの人、1回カミングアウトしちゃってるので、
カードを持つ権利が存在しないので持っていない。
当然、金を借りるのは「マチ金融」や「闇金融」。
ある時期から、自転車操業をしていた事に無理が生じて、
会社にも、とっても怖い方々から頻繁に電話が掛かるようになった。
まぁ、そんなかんだで会社を辞めざる負えなくなったのだが、
会社を辞めた後も、俺たちはS氏とは、飲むと楽しいので
良く飲みに行っていた。
で、S氏の次の職が、なんと「金を貸す側」
勿論、頬に傷がある方々とはご面識が十分にあったわけで、
そこの組織の方々が経営している「サラ(裏)金」に就職した訳だ。
取立てが半端じゃない金融屋さん。
そこでは、窓口業務担当。
そう、首が廻らなくて、他じゃ金を借りられないので相談に来る方々を
言葉巧みにもっと深みにはまらせる為に、
天使の仮面を被った悪魔。
S氏はこう言った。
「なんか可哀相になっちゃうんだよね。
俺、お客の気持ちがわかるから」って。
「だって俺、この間までカウンターの向こう側だったから」って。
そいつはぁ、しみじみです。
ここでS氏から聞いた、サラ(闇)金の豆知識をご紹介しよう。
あるサラ金が有ったとしよう。
その会社が、本体。
そこから、ねずみ講のように関連会社が何重にも枝分かれする。
そこで、一番下のサラ金に金を借りに行って断られたとしよう。
すると、「うちじゃダメだけどここなら」とか言われて、
違うサラ金屋を紹介される。勿論関連会社。
「ニコニコローン」とか「さわやかローン」とか「ひまわりローン」とか
社名も電話番号も違っても結局は同じサラ金屋グループなのだそうだ。
S氏は、そのグループのある一社で働いていたのだが、
そんなある日、俺の会社の連中と飲みに行く事になった。
待ち合わせ場所は、赤坂見附にある知り合いのオバちゃんがやってる
スナック。
俺たち同僚3人が先に店に着き、軽く飲み始めた時だ。
店の電話が鳴った。
S氏からだった。
今日のこの飲み会に来れないと言うのだ。
何故来れないのかという理由を聞いたところ
信じられない答えが帰ってきた。
「社長が殺された」
はぁ?
S氏の社長が殺されたらしいのだ。
俺らかなりの動揺。
飲み会や待ち合わせでドタキャンを食らったのは、
誰でも一度くらいあるだろう。
でも理由としては、
「身体の調子が悪い」「急なお通夜」「ダブルブッキング」
「祖母が亡くなった」「仕事」等々。
俺は多分、後にも先にもこの理由でのドタキャンは無いな。
有って欲しくも無いけど、
ドタキャンの理由が、
「殺された」
でっせ。
めったに聞けるフレーズじゃぁありません。
その日は、かなり信じられなかったので、
殺されたのなら、翌朝の新聞の社会面に出るだろうと思い、
次の日の新聞をチェックした。
あった。
「某サラ金に族が入って、社長と若い店長が刃物でメッタ刺しされて
殺された」と言う記事が。
昨日のS氏の話は本当だったのだ。
で、最初の観ていたTV番組の話に戻るが、その番組で
この事件が「未解決事件」として公開捜査されていたので
思い出したのだ。
その後も、なんだかんだあったのだが、
でも、そのS氏。
最近のS氏は、
有楽町のとある居酒屋で、飲んでも金を払わない。
しかも、その店の店長公認。
何故問題ないのかは、誰も知らない。
いつまでもファジーな人だ。
Copyright(c) 2001 Marvelous Melancholy.All right reserved