第30話 :「ダイヤル<117>を廻せ」

<update/2002/02/19>

 

 

俺がまだ大学1〜2年生の頃だから、

今から18〜19年前にあった実話である。

 

当時の俺は、東京は八王子市内のアパートで一人暮らしをし

大学生活をエンジョイしていたのだが、

そんなある日、そんな俺のキャンパスライフを

さらに楽しくさせるような噂が

俺の耳に入ってきた。

 

 

「117(時報)に電話すると、人と話が出来るらしい」

 

 

なんだと?どう言う事なの?

 

 

 

 

どうも、「117」に電話して時報を聞くと、

同じ時間に聞いている他の人と会話が出来るいうのだ。

 

 

 

 

 

「本当かヨォ?マジで?」

 

 

 

そんな事、聞いた事も無いし

事実、今までに経験した事も無かった。

 

 

 

 

けどね、こういう事聞いちゃうと

やらずにいられなくなっちゃうんだよな、俺って。

しかも二十歳で一人暮らしの学生。

 

 

やるでしょ、普通。

 

 

やりました。

 

 

 

 

 

一回目。「ジー、ジー、ジーカチャ」(当時、ダイヤル式の黒電話所持)

 

 

「ピッピッピッ…、只今から午後2時30分をお知らせ…・」

 

何も聞こえない。

ガセネタか?

 

 

 

夕方に二回目。「ジー、ジー、ジーカチャ」

「ピッピッピッ…、只今から午後4時20分をお知らせ…・」

 

 

 

 

するとどうであろう、

「…お知らせいたします。ピッピッピッ、ポォーン」と

時報のお知らせが終わり、秒を刻む「ピッ」という音だけになった途端である、

 

「聞こえた!聞こえたのだ!」

 

なんと時報の音とともに、人の喋る声が!

 

 

 

「もしもし!誰かいる?」

「いるよ!」

「お前どこの学校だよ!」

「うるせぇ!」

「もしもし、誰か私と喋りませんか?(女)」

「俺、俺!」

「ばぁ〜か、俺と喋ろうよ!」

「途中から入ってくんなよ!」

 

てな具合でさ。

 

しかも驚いた事に

その時間に時報を聞いている奴等全員が同時に喋れるのだ。

だから、会話はもうぐちゃぐちゃ。

 

何故喋れるのかはわからないけど、当時の俺にとって、

そんな事はどうでも良かった。

 

 

 

 

「こりゃ、おもしれぇ」

 

 

 

 

しかし、会話の内容を聞いているとどうも

中学生か高校生ぽかったのだ。

 

 

俺は深夜になるのを待った。

 

 

何故ならその間にもちょくちょく聞いていたのだが、

夜8時位かな、ピークは。

そん時は、もう何言ってるのか、こいつはどの相手と

喋ってんのかも、わからないくらいの凄まじさだ。

 

 

 

 

 

 

午前二時。

 

期待と不安でドキドキしながら俺は、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイヤル<117>を廻した。

 

 

 

 

 

 

「もしもぉ〜し、誰かいるぅ?」

 

…静寂…

 

「もしもぉ〜〜〜し!」

 

「……もしもし?」

 

おっ、女の子だ!ラッキィィィッィイイイイイ!

 

初挑戦で、しかも相手は女の子、

そして俺たちの邪魔者はいない。

 

 

 

俺のナンパトーク爆裂。(当時ね、当時二十歳の頃のネ)

 

 

 

 

俺たちは、時報の「只今より、何時何分何十秒をお知らせいたします。」

という邪魔くさいアナウンスが流れる度、会話が途切れるが

会った事もない相手と(今で言うチャットみたいなもの)、

いろいろな話をして、「また明日の何時ごろね」とか言っちゃったりして

電話を切った。

 

 

面白れぇ、面白れぇよ、これ。

 

 

 

その日から俺はそれにハマっちまって、

 

何度か、そこでナンパした女の子と待ち合わせをして

会ったりもしたのだ。

悲しいかな、一度となり、会った相手と

意気投合したことは無かったけどね…。

 

後でわかった事だが、コレが出来たのはどうも

八王子市内のみだった気がする。

なぜなら、みんな八王子市内に住んでいたからね。

 

そしてある日からそれも突然出来なくなってしまった。

結構楽しませて貰ったんだけどね。

 

 

 

 

 

 

で、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あなたは、お気づきだろうか?

 

当時は、「携帯電話」もない。「フリーダイヤル」なんてものもない。

ましてや「ツーショットダイヤル」「テレクラ」なんて

ものは存在すらしていない時代である。

NTTだって民営化してない電電公社の時代だ。

 

そんな時代に俺は、

「ツーショットダイヤル」というか「テレクラ」みたいな事を

電電公社の時報で正々堂々(?)とやっていたのだ。

 

 

究極の先取り。

 

 

俺がこの時報ショットを経験した時点で

 

 

 

「男と女が出会うため」に

 

「電電公社の時報に電話」して

 

「出会う」という

 

男と女の需要と供給の

 

バランスが成立していたのである。

 

 

 

 

これがどう言う意味か解るかい?

つまりだ、

 

 

 

 

 

 

 

もしも、もしもだ。

 

この俺に、先見の目があり、

 

その時に、「これは事業として成り立つんじゃないか?」

 

男と女の欲望を満たす為の出会いの場、

 

そう、今で言う「ツーショットダイヤル」「テレクラ」。

 

 

あの時俺が、それをひらめいて

学生の内に事業を始めていたならば…。

 

 

 

 

 

名を残したな。

 

 

 

今ごろ「マーヴェラスな憂鬱」なんてサイト立ち上げて

ちまちま更新なんてしてないだろうな。

 

誰かが言った。

 

 

 

 

 

 

「人間には二種類の人種がいる。

幸運の女神が目の前を通り過ぎた時、

『気づく奴』と、『気づかない奴』。

 

気づいたとしても、

一瞬にして通り過ぎてゆくその女神の後ろ髪をつかみ、

女神の顔を見た人間だけが

成功者と成り得るのだ。」ってね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悪かったな、気づかなくて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は、事業なんかより

自分の欲求を満たす為の

ナンパで精一杯だったよ。

 

しかし、何だったんだろうな、あの「時報」。

面白かったけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれっ、

今、あなた、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「117」に電話して

試してみようなんて思ってない?

 

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