第29話 :「銀座コリドー街の奇蹟」
<update/2002/01/30>
実際に起こるとは考えられないほど不思議な出来事、
「奇蹟」
「奇蹟の生還」「奇蹟の大逆転」
そして、
数年前のある夜、
銀座から新橋へと続く「銀座コリドー街」という名の通りで
その奇蹟は、起こった。
俺の上の前歯の1本は差し歯だ。
その日、会社の同僚たち5〜6人と飲みに出たのだが、
いい感じで酔ってきたところで2件目へ行こうと、ちょうど
「銀座コリドー街」へ入ってから間もなくだった。
当時の俺は、上の前歯1本を差し歯にすべく、治療中であったのだが、
当然治療中のため1本前歯は無い。
しかし、そのままじゃぁ俺のマヌケ面が余計マヌケ面になる訳で、
「仮歯」なるものを差し込んであり一応は、
全部歯があるようには見えて、食事をするのにも支障は無いような状態だ。
俺のマヌケ面をどうにか見れる状態にしておく為の必須アイテム。
「仮歯」
だが、所詮「仮」
なもんで、ちょいと不安定な状態にはなっていた。
銀座コリドー街の雑踏の中を、
次の店へとだらだら酔っぱらいながら移動する、俺たち同僚ご一行様。
大声で笑いながら喋る、俺。
その時である、
大声で笑った次の瞬間、
「仮歯」がすっ飛んだ。
俺のマヌケ面をどうにか見れる状態にしておく為の必須アイテム「仮歯」がだ。
そう、噛んでいたガムを口から飛ばすかの如き、勢い良く、
銀座コリドー街の雑踏の中に消えていったのである。
これは一大事である。
明日から営業も出来なくなっちまう。
俺はすぐさま同僚たちに
「ちょっと待て!仮歯が飛んだ!探してくれ!」
と叫び助けを求めた。
事情を知ってか、みんな、銀座の雑踏の中を探してくれたのだが、
いかんせん、1cm四方にも満たない仮歯。
しかも人通りの多い中で、そんなものを探す行為自体、困難である。
輪を掛けて悪い事に、所詮他人の「仮歯」&みんな酔っている。
そんなもん、広大なアフガニスタンで、洞窟に潜む
ビン・ラディンを探すようなもんだ。
しかも、
絶え間なく行き交う雑踏の中で、「靴に踏まれる」という
容赦ない空爆もあるようなもんだ。
そこで酔っていた俺は、冗談で同僚たちに
「見つけた人に10万円!」とか言って
(本当に誰か同僚が見つけたとしても、本気にはしていなく
まぁ、次の店の飲み代を俺が出すくらい何てことは百も承知。)
煽ったのだが、
見つからない。
「しゃ〜ない。いいよもう、行こ、行こ。みんなありがとう。」
と諦め次の店へと銀座コリドー街をふたたび歩き出した。
マヌケ面して・・・。
と、歩き出したその時である。
「トントン」と俺の肩を叩く誰かがいた。
「ん?」
振り返った俺の前にはなんと、
銀座を寝城にしている
レゲェのオッちゃん。
なんだぁ?こいつ。
すると、無言でこのオッちゃんの右手が「スッ」と俺の目の前まで伸びてきて
開いた。
開かれたその手の平の上には、なんと
「俺の仮歯」
があるではありませんか!
その瞬間俺は、ある言葉が蘇った。
確かに言った。あぁ言ったさ。
「見つけた人に10万円!」
ってね。
このオッちゃん、
まさか、それ間に受けて、必死に探したのかぁ?
でもね、あれは、
同僚に言ったのであって、
あんたに言った訳ではないのよ。
ねっ。
しかも俺たちあんたが、
一緒に探しているなんて
全く気づかなかったよ。
無言で、必死に目で訴えるレゲェのオッちゃん。
・・・・・・怖すぎる・・・・・・
それは一瞬の判断だった。
俺は、自分の仮歯を
オッちゃんの手の平から取ると、
その時ポケットに持っていた、
自分の吸いかけの煙草の箱を
その手の平の上に置き、
「ありがとう!」と爽やかに言い放ち、
オッちゃんに背を向けとっとと
同僚たちと次の店に向かった。
これって、
奇蹟?
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