第24話 :「禁断の地」

<update/2001/12/01>

 

 

「東京・新宿」

 

言わずと知れた、日本有数の繁華街の1つだ。

 

「新宿」という街には2つの顔がある。

 

1つは、駅の西口に位置する高層ビル街・高層ホテルという、

ビジネス街の顔を持ち、

もう1つは、東口・中央口といった歓楽街という顔である。

 

そして、東口に位置する「歌舞伎町」

 

ここは、百八つ有ると言われる人間の煩悩を刺激するのには、

十分過ぎるほどの、誘惑と、欲望に満ち溢れ、

毎夜、大きな口を開け、

その欲望を満たそうとする飢えた狼どもを、

罠を仕掛けて待ち受けている街である。

 

 

 

そして、その繁華街から少し離れた場所、

靖国通りと新宿通りに挟まれた、僅かな地域に、

男女の恋愛が成立しない、その「禁断の地」は存在する。

 

 

 

 

 

 

 

「新宿2丁目」

 

そう、同性愛者たちが夜な夜な集う場所である。

 

「新宿2丁目」=ホモという考えは基本的に違っている。

男同士・女同士・男とニューハーフという掛け合わせも

あるわけなので、やはり「同性愛者の街」である。

 

断っておくが、俺は健全たる日本男児であり、

今まで一度となり、性の対象を見誤まった事は無い。

 

 

 

だいぶ前に、俺はこの「禁断の地」に降りたった。

  

初めて連れて行かれたそのクラブの名は、

「Crazy Cat」

訳しゃぁ、「イカレたネコ」

 

まぁ、銀座のクラブでおねぇちゃんと話をする代わりに

ホモとお話するという店だ。

 

 最初は、心臓バクバクもんだったのですが、

この店、基本的に「女性連れの正常な客」が多い。

で、次第に馴れ不思議と「気持ち悪い」とか

偏見の目で見るような事はなく、結構面白いのだ。

 

しかし、そんな店ばかりではない。

 

俺は、あるきっかけでとってもDEEP

スナックに何回か行く機会があった。

 

そこは、カウンター席7〜8席にBOX席が1つくらいの店だ。

客層は、ホモのカップルばっかり。

 

店には、気持ち悪い「ママ」と名前は忘れたが、

「サブちゃん」という名前がぴったりな奴が1人。

 

このサブちゃん」というのがまた気持ち悪い。

ちょっとでも視線が合おうものなら、

 

ちょっと顎を引いて、上目使いで

「あたしに気があるの?」といった感じで

微笑むのである。

 

これが、最高に気持ち悪いのだ。

 俺はコイツがだいっ嫌いだった。

 

じゃぁ何故そんな店に行くのかと申しますと

俺の会社の後輩の、高校の同級生の女友達の

中学の時の先輩というのがその店のママだったのだ。

 

で、その後輩の、高校の同級生の女友達と

飲む機会があった歳には、そこに行った。

まぁ2〜3人でしかも女性が1人いるから

かろうじてその店に行く事が出来たんだけどね。

 

その店で俺は1度致命的なミスを犯した事がある。

 

それに気づいたのは、飲みに行った翌日の土曜日。

 

昨晩の支払いをクレジットカードで行った俺は、

そのカードを店に忘れてきてしまったのだ。

 

それが何故、致命的なミスかというと、

 

 

 

 

取りに行かなきゃいけないという事だよ。

しかも1人で。

 

これは、かなりきつい。

新宿2丁目に1人で行き、しかも俺のだいっ嫌いな店に

1人で行かなきゃならないのだ。

 

でも、店にあるといっても所詮赤の他人。

何日も置きっぱなしにして使われたらシャレにならない。

1日でも早く取り返す事が賢明である。

 

なので、俺は仕方なく店に電話を入れ、

店が始まる前の仕込みの時間に行き、さっさと

帰ってこる事を決意した。

 

 

ガチャ。

 

 

「ども。」と俺。

サブちゃんが1人でカウンター内で仕込みをしている。

 

「いらっしゃいませ〜、カードはママが持っているから

今、電話するね。座って待っててね」

 

「いや、すぐ帰るから」と俺は座らずに

すぐに帰る事をアピールする為に立ったままでいた。

 

ママはすぐに来た。

どうもこの雑居ビルの近くに住んでいるらしい。

 

カードを受け取りそそくさと帰ろうとする俺にサブちゃんが、

「ねぇママぁ、健地蔵さんすぐに帰るっていうのよぉ」

とか言いやがった。

 

何言ってやがんだコイツ。

 

するとママが

「ゆっくりしてってよ、ビールだけでも飲んでってぇ、

ご馳走するからぁ」

 

などと言ってビンビールを取り出し栓を抜いてしまった。

 

まぁしょうがねぇ。人の好意を無にするのも気が引けるし、

その1本だけは飲んで帰ろうと思い、カウンター席に

腰掛けた。

 

するとママは、2日酔いで体調が悪いとかでOPENするまで

寝ているとの事で自宅に帰ってしまったのだ。

 

まっ、まずい。さすがにこの展開は予想していなかった。

 

この狭い店にカウンターを隔ててサブちゃんと二人きりである。

 

すると「わたしも一杯頂いちゃお〜っと」とか言い出して

飲みだしたのだ。

 

そして、ママが出て行った後から

明らかに店内の空気が変わっていたのを俺は察知していた。

 

俺の危機管理システム、スイッチオン。

 

何気ない会話がいくつかあり、到底会話が弾む、はずも無い。

 

あとコップ一杯飲み干せば帰れると思った瞬間、

サブちゃんから一発のジャブが放たれた。

これを切っ掛けに一気に話が弾んだのだ。

とは言っても、「弾む」意味が違う。

 

 

「ねぇ〜え、健地蔵さんってこっちの世界に興味あるでしょ〜」

 

 

 

 

 

「ないないないないないないないないないないないない

まったくない。」

 

「じゃぁ、ママと私とどっちがタイプぅ〜」

 

 

 

 

 

「ないないないないないないないないないないないない

考えた事もない。」

 

「えぇ〜じゃぁ私じゃだめぇ〜?」

 

 

 

 

 

「だめだめだめだめだめだめだめだめだめだめだめだめ

絶対ダメ、有り得ない。」

 

 

「ぷうぅ。」

 

 

 

こ、こいつ、すねてやがる。

気持ち悪さ無限大。

 

 

俺は、爆発寸前である。

もう、こいつと同じ空間で同じ空気を吸う事じたい

耐えられないのである。

 

 残りのビールを一気に飲み干し

「じゃどうもご馳走さん」

と言って帰る俺に向かい奴は最後にこう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「また来てねェ〜

 

じゃぁ今度は、お洋服買ってね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うるせぇ!」

それ以来2度と行っていない。

 

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